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第2話 出会い

 十一月下旬、急な雨から粉雪に変わると、グッと寒さが増した。暖房を入れても古い建物で工房に繋がって広いため、中々暖かくならない。

 今日は午後から飴細工体験ツアーが入っていたのに、この雪のせいで直前のキャンセルになってしまった。前料金を貰っているが、雀の涙程度だ。


(はあ……。今月も売上げが厳しそう)


 都内の箔可香町(はくかがちょう)は町中に広がる運河があり、江戸時代から小舟での移動が色濃く残っている。小舟での移動などは観光客の受けもよく、飴細工や昔ながらの呉服屋や和菓子店が数多くある中で、私の飴細工店もそれなりに知名度はあった。


 飴細工・(かんなぎ)は両親から受け継がれた伝統のある飴細職人を何人も輩出してきたし、私もその一人だ。


 それが大きく変わったのは、両親が交通事故で亡くなってからだった。茫然自失な私の代わりに、と言って幼なじみであり、四代目を名乗った黒鉄浅緋(くろがねあさひ)が経営を仕切り始めて私の権限を封鎖してしまった。

 当時、私は専門学校生で店を継ぐノウハウがなかったのは事実だ。


 しかし増長した浅緋は私が専門学校を卒業するタイミングを狙って、他の職人を引き抜いて勝手に独立。二年前から私が五代目としてこの店を継いでいる。


(あの時、海外に行くって私も言えば良かったのかな……。でも)


 昔から何でも張り合っていた浅緋が、『世界に進出するためパリで店を出す!』と言い出した時は驚いたものだ。

 私以外の職員はすでに根回しをしていて、全員着いていくつもりだったらしい。私は両親の残してくれた店を守りたくて、彼とは喧嘩別れしてここに残った。


 営業やら経験の未熟な私じゃ店を切り盛りするだけで精一杯だ。たまにこうして暇ができてしまうと、自分の不甲斐なさに落ち込んでしまう。


(はあ……。もっとコンテストに出たり、SNSを使って宣伝したほうが良いのは分かっているけれど、そうなると今度は人員を増やしたりで、自分の作業ができなくなる……)


 悪循環。良くない流れ。

 分かっていても足踏みしてしまう。こういう決断力のなさが更にダメなのだと、自覚してさらに凹んだ。


 チリン。

 来店を知らせる鈴の音が響き、静かにドアを開いたのは、肩や頭に雪がかかった偉丈夫だった。

 白紫色の腰まである長い髪、白い着物は上等なものだと一目でわかった。陶器のような白い肌に、目鼻立ちが整った男は、青紫色の双眸でジッと私を見つめる。


「いらっしゃいませ!」

「甘い匂いがしたのだが、ここは何が置いてあるのだろう?」

「飴細工ですよ。それよりも寒くないのですか?」

「……そうだな。少し、冷えるのかもしれない?」


 お客様の雪を払って「よかったらどうぞ」と手にしていた厚手のストールを偉丈夫の肩に羽織らせた。タータンチェックの赤と着物の組み合わせも、この偉丈夫が着こなすと高級感あるものに早変わりする。


(イケメン効果はスゴイ。でも見かけたらことがないから、観光客かな)

「飴。この芸術的なものが? ガラス細工ではなく?」

「はい。あ、試作品でよければどうぞ」


 非売品のちょっとだけ形の崩れた薔薇の飴細工を、キッチンペーパーの上に置いて偉丈夫に差し出した。すらりと伸びた指先で飴を摘まむと口に放り込む。無愛想というか能面だった表情が一変し、「ん!」と目を見開く。


「甘い。とっても。懐かしい味がする」

(笑顔は可愛いとか、反則じゃないぃいいいい!?)


 蕩けるような笑顔に、ドギマギしつつも接客しなければ──と平静を保つ。


「(落ち着け自分。これは仕事!) シンプルな味なのですが、ほかにもソーダや蜂蜜、バニラ、キャラメルなどいろいろ取りそろえています。それに飴細工体験もあるんですよ」

「そなたが、この飴を作っているのか?」

「(そなた?)ええっと、はい」


 口調が固いというか、不思議な言い回しをするお客様だ。

 そう思いつつも、先ほどの無愛想な顔とは一変して目をキラキラさせて周りの飴細工を見ている。


「この芸術的な飴も?」

「はい。飴細工は90度ほどまで熱して柔らかくした飴を、素手と握りバサミだけで作り上げるんです! それからは時間との勝負ですが慣れてくると、こう感覚がわかると言うか」

「うん」

「あ──っ、その夢中になって話してすみません!」

「そなたの作っている姿を見てみたい。……頼めないだろうか?」


 こてん、と小首をかしげる姿は反則的だ。白紫色の髪がふわりと揺れるだけで、何とも扇情的だった。魔性とも呼べる美しさはそれだけで罪な気がする。


「え? あ、えっと……(どうしよう。作業を見せるのはいいけれど、店のレジをする人間がいないし、いっそお店を閉めて……うーーん)」


 レジと工房に視線を向けつつ困っていると、偉丈夫も何かに気づいたのか、顎に手を当て思慮深く一考する。


「お客様、大変申し訳ないのですが」

「ふむ? 連れを呼ぶので、その者に店番をさせればいいだろうか」

「え!? でも、そんなお客様に悪いです」

「問題ない。それなりの謝礼もする。……そなたの飴細工を作っている姿を見せてくれないだろうか?」

(ち、近い! そしてお香のような良い匂いがするぅ!?)


 グッと距離を縮める偉丈夫に、私は頷くしかなった。完敗である。


 ***


「お館様!!」

「こちらにいらしたのでね!」

(ぎゃっ、どう考えてもカタギじゃない雰囲気!?)


 それからものの数分で黒いスーツを着こなした男二人が店にやってきた。どう考えてもボディーガード、あるいはカタギではない方々を彷彿とする服装で、間違ってもお友達という関係ではなさそうだ。


 腰ほどある赤髪に、黒い瞳の男性は190センチ以上のがたいのいい男性で、目つきが鋭くガラが悪い。もう一人は深緑色の短髪で、すらっとした優男は黒い眼鏡を掛けているからか知的な印象を受ける。何とも対照的な二人だとは思った。


「お館様、ふらふらと居なくなるのは辞めてください」

「全くだ。こっちが携帯で連絡しても全く出ない癖に、自分の用がある時は念」

「念の為にGPSを付けているので結構ですが、これを機に携帯操作を覚えることを愚行いたします」

「そう、それ!」

(なんだか息ぴったりな二人だわ)


 そう感心していたら、偉丈夫と目があった。眉をへにゃりとしていて何だか可愛らしい。


「そなたも携帯端末(これ)は使えたほうがいいと思うかい?」

「(なぜ私に意見を!? あー、うん……)そ、そうですね。いざという時のためにも連絡手段の方法具合は操作できたほうが、その……便利だと思いますよ?」

「連絡を? ……ああ、そうか。こちらでは、それが常識なのか」

「え? ええ、まあ。それに使いこなせば色んなことができますし、世界が広がると思います!」


 私の世界は狭くて、自分の時間もないけれど、それでも好きで店を継いだのだから──と自分を鼓舞したところで、周囲の生温かな視線に気づき頭を下げた。


「し、失礼しました」

「いや、率直な意見は新鮮で嬉しい」


 ポッ頬を赤くする姿に勘違いしそうになる。慌てて、話題を変えようとしたところで、眼鏡の人が話に加わった。

 

「それで我々をお呼びになったのは、彼女の代わりに店番をすれば良いのでしょうか?」

「ああ。彼女の飴細工を作る姿を見たいので、店番を頼んでも良いかな?」

「「かしこまりました」」

(なんだかすごいことに……。でも今さら帰ってほしいなんて言えない)



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