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第15話 地上げ屋(鬼神の末裔)藤堂の視点

 夜間にタバコをポイ捨てしたせいで、飴細工店・覡は店と家が燃えており、今や立ち入り禁止のテープが敷地内に引かれていた。朝早い段階で、引っ越し業者が荷物をまとめて出入りしていたと近所の店や住人が話しているのを小耳に挟む。


 柳沢小晴の姿は、昨晩から見ていない。

 野次馬たちが店の前でうろうろしており、近所の人たちも井戸端会議に花を咲かせている。そういった情報をかき集めていたのは、地上げ屋の仕事を生業にしている藤堂肇(とうどうはじめ)だった。そして火事になった現状を目の当たりにして、死ぬほど後悔していた。


(クソッ。こんなことなら多少無理をしてでも、この店から引き離せば良かった!)


 代々陰陽師の家系である藤堂は、その才能を生かして、地脈やら霊脈などを読み取ることに長けている。そしてヨクナイモノを生み出しやすい土地や場所などは手を回して、被害が出る前に土地を買い取ったりして専門的な対処も斡旋していた。


 鬼神の末裔でもあるので人外とのコネクションもあり、界隈に対しても上手く渡り歩いていたというのに、その自信も信頼も一瞬で吹き飛んだ。


(あの店はよりにもよって、丑寅の方角で恐ろしい場所でもあった。この周辺地域の禍そのものが集いやすく、容易く幽世との道を繋いでしまう。彼女の両親の死も、店が落ちぶれていったのも、人間関係の悪化もあの土地だ。……しかも質が悪いことに、彼女はあの場所に浸りすぎていて、未練たらたらだった)


 柳沢小晴の耐性を褒めるべきか、あるいは嘆くべきか。

 奇しくも彼女は人外に好かれ易く、手厚い加護や祝福を受けているものあり、あの土地で何ら損なわれることなく暮らしている。それはある意味、人外の世界を知っている者からすれば狂気に等しい。


(いや、あの一族こそが、あの禍々しい場所を清浄に戻す役割を持っていたのかもしれない。だが今はその手法を、正しく受け継がれていないのだろう。そういったことはままある)


 藤堂は現場近くの喫煙場所でタバコの火を付けて、紫煙と共に余分な感情を吐き出す。


(柳沢小晴。容姿は普通だし、華美たる雰囲気もない、どこにでもいそうな『少し不運な娘』。それが第一印象だった。けれど飴細工を作っている彼女は誰よりも輝いていたし、あのできたての飴は極上の味と言っても良い。小晴の作る飴は人外に幸福感と酩酊効果を与える。高位の人外はそれにいち早く気付き、支援をして加護や祝福を与えていった。まあ、俺もその一人なんだけれど……)


 すぐ傍にいて、少しずつ固く閉じていた蕾が心を開いて花開く過程を藤堂は楽しんだ。

 信頼を得るために少しずつ近づいて、情を、信用を育んでいた。しかし藤堂と小晴の関係が壊れる。藤堂は酔った勢いで、ホテル経営をしている男に、見栄を張ってしまったのだ。


(本当は誰よりも大事して、どうにかしてあの場所から巣立たせたい。その為にはまず俺自身を信用してもらい──そう思っていたのに、あの男が囃すから。……ああ、こんなことなら、もっと本気で口説いておけばよかった。今頃は恐らく高位の人外に保護されているだろう。クソッ)


 藤堂は溜息を落とし、この土地への執着を手放す。高位の人外が干渉するのであれば、自分のような半端な存在が太刀打ちできるわけがないと最初から分かっている。


 人間界に近い人外の子孫は、人外界隈での発言力はかなり低い。特に遙か昔のご先祖様の末裔であれば、殆ど人間と変わらないだろう。


「──っ、小晴」

(ん? あの男は確か……)


 ボストンバッグを雪の上に落としたまま店の前で固まった男がいた。真っ黒な髪に真っ赤な瞳、精悍な顔立ちの青年、小晴の幼馴染みでもある黒鉄浅緋だった。


(これ以上、深入りすれば高位の人外に目を付けられる。……潮時、か。だがまあ、今回の事後処理や店の権利関係は高位の人外に、状況説明と引き継ぎぐらいはしておかないとな)


 藤堂は自分の指針を決め、そそくさとその場を離れた。対して浅緋は両手の拳を強く握りしめ、呆然と佇んだままだ。


「やっと帰ってきたのに、お前はどこにいるんだよ? ……小晴」


 震えた声で呟いた言葉は、野次馬たちの声にかき消されていった。



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