『軍曹《サージ》、出撃』
それは大型連休も開けた五月の半ばの事だった。
昼休みの三年伍組の教室で、楠羽音は級友の夏川琴美と弁当を食べていた。
席が前後なので、机をくっつけて座っている。
羽音のお弁当は今朝、自分で作った物だ。
羽音の母は、料理は出来るが、朝は仕事が佳境に入っている事が多く、食事は娘に任せっきりになっていた。
小さなお弁当箱には、昨日の晩ご飯の時に焼く前の状態で分けておいたハンバーグと、卵焼き、それにレタスとプチトマトが入っている。
一方、琴美の弁当は母の手作りで、これまた小さなお弁当箱には、豚バラ肉のみそ漬けときんぴらごぼうが詰まっていた。
「羽音ちゃんのハンバーグ、美味しそう」
「食べる?」
「いいの?
「じゃあ、あたしのお肉もあげる」
二人は、フォークで互いのおかずを交換したりしながら、昼食を楽しんでいた。
「同志音羽は?」
そこへ、おかっぱ頭に度の強い黒縁眼鏡を掛け、スリムな身体をした少女がやって来た。
級友の児玉薫だ。
文芸部の部長で、羽音とは初等部からの顔見知りだった。
「職員室」
羽音はフォークで卵焼きを突きながら答えた。
席にはもう一つ、巾着に入ったままの弁当箱が置かれていた。
「直ぐ、戻ってくると思うよ」
「そうか」
薫は頷いた。
「おとはになにか用?」
すると、薫は脇に掛けていたタブレットを差し出す。
「演劇部の文化祭公演用の原作が出来上がったのだ」
「げっ!」
羽音は思わず呻いた。
ちょうどその時、羽音と瓜二つの顔をした少女――楠音羽がほんわか笑顔を浮かべながら、教室に戻ってきた。
音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。