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【喜ぶに喜べない】
「知ってるよっ」
琴美は藍子と夕貴に人懐っこい笑顔を浮かべた。
「この前の公演で主役とヒロイン、やった娘だよね?」
それから興奮気味に話す。
「劇、凄くよかったよぉ」
「ありがとうございます」
照れながら、藍子は頭を下げた。
「へへへ……」
夕貴は照れくさそうに指で鼻を掻いていた。
しかし、
「特に最後の告白シーン!」
「…………」
その言葉に夕貴は複雑そうな顔をした。
音羽はにこにこと微笑んだが、藍子は冷汗笑いをするしかなかった。
「あたし、感動して泣いちゃったぁ」
そんな空気を読めず、捲し立てる琴美だった。