『横浜買い出し紀行(後編)』
それは大型連休も真っ只中の五月の初めの事だった。
楠羽音は、姉の音羽と級友の夏川琴美と共に横浜に買い物に来ていた。
午前中は音羽の買い物をして、お昼をファーストフード店で済ませた三人は、再びファッションビルへと戻る事になった。
今度は音羽と羽音が、琴美の買い物につき合う番だ。
「ワック、久々に食べたよぉ」
「あたしも」
羽音と琴美はまだまだ元気だったが、音羽はお腹がいっぱいになって少し眠そうだった。昨晩の夜更かしさせられたツケが今頃、回ってきたのだ
なので、二人に比べてテンションが低い。
「……」
口数も少なめだし、足取りも重うそうだった。
「それで?」
そんな姉を少し気にしながらも、羽音は琴美の方を見て聞いた。
「なに買うの?」
琴美は唇に人差し指を当てて考え込んだ。
「うーんと……スカートも見たいいんだけど……」
それから照れたようにはにかむ。
「パンツが欲しいなぁ、って」
この場合のパンツはズボンやスラックスでは無い。下着のショーツだ。
「えっ……」
「え~っ!」
羽音は眉を顰めたが、その隣からそれまで大人しかった音羽が、食らいつくように身を乗り出した。
「よ~し、すぐ行こう~!」
途端に元気になった音羽は、はしゃぎながら二人の真ん中に入って両手で羽音と琴美の手を握り引っ張るように歩き出す。
浮かべたほんわか笑顔が、ちょっとエロい。
そんな自分と同じ顔をした姉の豹変ぶりに、羽音は冷汗笑いするしかなかった。
音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。