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【被告人弁論】
「ほら~、色恋沙汰は芸の肥やしっていうじゃない~」
急に黙って眉間にしわを寄せた羽音を見て、音羽は冷汗混じりの笑顔で言った。
「それに~、別に他の娘とキスしたって~、一番好きな娘への想いが変わる訳じゃないし~」
そして、妙に熱の籠もった口調で捲し立てる。いつもおっとり口調の音羽が、演技以外でこんなに早口で喋るのはかなり珍しかった。
「その~、なんて言うの~? 誰かと比較する事で~、好きって気持ちが~、より鮮明なるっていうか~……」
しかし、その様子は、怒った羽音に焦って、宥めようとしている感じではなかった。どちらかというと、何か後ろめたい事があり、それを言い訳しているように見えた。
「…………」
そんな姉の様子に、羽音は怒りを忘れて思わず尋ねた。
「……なに、必死になってるの?」
「えっ?」
それで音羽は、ハッとなった。
「あぁ~……そ~だね~……おかしいね~」
恥ずかしそうな笑みを浮かべて、自分の行動を窘める音羽だった。