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【踏んだ?】
稽古もある程度進み、休憩を取る事になった。部員達は舞台の上で輪なりになり、当番が買ってきたペットボトルを呑みながら雑談していた。
「わたし、知りませんでした。部長が男役も出来るなんて」
紅茶を口にしてから藍子は、新しいものを発見したように嬉しそうな顔で言った。
「ボクも」
と隣に座った夕貴も、烏龍茶を一口飲んでから意外そうに頷く。
部長になってからは本来の志望だった脚本に専念している音羽だが、それまでは部の看板女優だった。しかし、藍子が知る限り、男役を演じた事はなかった。
「どうして普段は、女役しかやらないんですか?」
なので、それは何気ない疑問でしかなかった。しかし……、
「…………」
途端、空気が凍った。羽音や三年生部員達の会話が止り、一斉に藍子から視線を反らす。ただ一人、音羽だけはいつものようにほんわか笑顔を浮かべていた。
「…………あれ?」
何が起こったのかまったくわからず、きょとんとする藍子だった。