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【本能の赴くままに】
「それなら~、その気持ちを、そのまま藍子ちゃんにぶつけちゃえばいいんだよ~」
顔を真っ赤にした夕貴に、音羽は天使のような微笑みで語りかけた。
「えっ、でも……」
夕貴は戸惑った。藍子を気にする。ぷっくりとした唇を意識して、自然と鼓動が早くなる。
「藍子ちゃんも~、大丈夫だよね~?」
その迷いを察した音羽は、藍子にもほんわか笑顔を向ける。
「あっ…………はい! 頑張ります!!」
藍子は一瞬、躊躇したが、直ぐに胸の前で拳を握りしめて頷く。
「ほら~、だから~、思いっきり、いっちゃって~」
それは夕貴にとって悪魔の囁きだった。いけない事だとわかっていたが、演技とはいえ藍子に唇を重ねられるという誘惑がそれ上回った。
「えーっと……それじゃ…………」
「はい、そこまで」
「いたっ~」
が、いつの間にか舞台に上がってきた羽音が、台本の角で音羽の頭を叩いてそれを止める。
せっかくの好機がふいになったにも関わらず、何故かほっとしてしまう夕貴だった。