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【お手本?】
「……私はあなたの事が好きなんですっ!」
今にも泣き出しそうな表情で藍子は、目の前に立つ音羽に訴えかけた。
「僕だって、君の事を……」
それに対して音羽は、一歩、前に踏み出すといきなり藍子の腰に手を回した。
「!?」
驚く藍子を無視して、そのまま自分の方へと抱き寄せる。それから熱い視線で藍子を瞳を見つめた。
「きっと君が僕を好きになる前から、ずっと好きで……」
甘い声で囁く。途端に藍子の表情が蕩ける。周りで稽古を見守っていた二年生部員達からも、きゃー! っと悲鳴が上がった。そして、音羽は、ゆっくりと唇を近づけて……、
「!」
それを舞台の下から見ていた羽音は、思わず椅子から腰を浮かせた。突然の姉の行動に混乱に陥りながらも、止めようと口を開きかけた時、
「ちょっと、待ったぁー!」
夕貴が先に声を上げた。びくっとなった音羽と藍子は、その場で固まるように動きを止める。
音羽の暴挙が寸前で防がれて、ほっと胸を撫で下ろす羽音だった。