『音羽の気持ち 羽音の気持ち』
修学旅行二日目を終えた私立山手女学館三年生は、食事の時間までの間、部屋で思い思いに過ごしていた。
旅館お部屋からは時折笑い声が聞こえる。
皆、おしゃべりをしたりゲームをしたりしているのだ。
しかし、例外もあった。
「あたし、あんな羽音ちゃん、初めて見た」
重い空気が流れる部屋で、驚いた顔の夏川琴美が言った。
「楠妹は、周りを引っ張っていくように見えるが」
それに児玉薫は真顔で答える。
「本当は姉がいないとなにもできないぐらい同志音羽に依存しているんだ」
部屋には今は二人しかいない。
残りの二人は、先生の部屋に今日の顛末を説明に行っている。
「それで、班長決める時、羽音ちゃんがやるの反対したんだ」
悪いことしちゃったな、と琴美は顔を曇らせた。
その頃、先生の部屋では、ちょうど事情聴取が終わった楠羽音と楠音羽が部屋を出るところだった。
「本当にすみませんでした」
最後にもう一度、頭を下げた。
もう何度目になるかわからない。
それぐらい羽音は、先生に説明する間、幾度も謝り続けた。
「済みませんでした~」
その横では音羽も丁寧に頭を下げている。
「もう、そんなに自分を責めないで」
悲痛そうな顔で頭を下げる羽音に、クラス担任の三代円は困ったような表情をした。
「京都の道路事情が悪いのを知ってて、計画を受理した先生にも責任はあるから」
京都は碁盤の目の様に張り巡らせた道路が有名だが、道路事情はあまり良くない。
特にお昼の十三時から夕方十八時ぐらいまでは、渋滞が発生することが多いのだ。
「だから、気にしないで」
ぽん、っと羽音の肩を叩いて円は励ました。
「はい・・・・・・」
「失礼します~」
力なく頷く羽音とまったく同じ容姿をした音羽が頭を下げて話は終わった。
音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。




