『自由行動日』
私立山手女学館修学旅行二日目は、自由行動日だった。
降っていた雨も夜のうちには止んで、今日は快晴の天気だった。
朝食は大食堂で、メニューは焼いた鮭に卵焼き、それにご飯とお味噌汁で海苔が付いていた。
色々気になるお年頃だが、食欲も旺盛な成長期でもある為、用意された食事はあっという間に平らげられた。
食事の後は、部屋に戻り制服に着替えると、荷物はそのままで部屋を出る。この旅館には今日も泊まる為、荷物の移動は必要ないのだ。
とは言え、ほとんどの生徒は、必要最低限の荷物としてポシェットやトートバッグ、デイパックを持って出たのだが。
ロビーに集合した生徒達は、担任の三代円から注意事項を説明されてから班ごとに出発した。
「じゃあ、これね」
旅館を出た楠羽音は、同じ班のメンバーに一日乗車券を渡した。
「これで、バス乗り放題なの?」
「市営だけだけどね」
ツインテールところころ変わる表情がトレードマークの少女、夏川琴美の問いに、羽音は乗車券を確認しながら答えた。
京都には市営の他、複数のバス会社が乗り入れている。
だが、この乗車券は市営バスだけ有効なものだ。もちろん、これから行くルートは同じ班のおかっぱ頭に度の強い黒縁眼鏡を掛けた少女、児玉薫に頼んで、市営バスだけで行けるようルートを組んでもらっている。
「最初はどこへ行くんだっけ?」
一応、行く先のルートは頭に入っているが、確認の為、琴美は羽音に聞いた。
「マンガミュージアムだよ」
すると羽音は、やはりスケジュールが頭に入っているようで空で答える。
「舞妓さんは~?」
と、今度は楠音羽が聞いた。今にも待ちきれない、そんな表情だ。
「それは、その後!」
リードを離せば即飛んで行きそう勢いの音羽に、羽音は眉をつり上げて言い放った。
「舞妓さん~♪ 舞妓さん~♪」
それでもウキウキ気分の自分と同じ顔――――軽くウェーブのかかったサラサラの髪を背中まで伸ばし、くりっとした目とぽっちゃり気味の頬が愛らしい美少女の姉に、羽音は軽いめまいを覚えた。
音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。