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【愛しい姉《ひと》】
羽音は瞳を潤ませた。長い睫毛が微かに震えている。わずかに頬に熱を帯びながら、羽音はゆっくりと硝子に歩み寄った。
(一緒にいない時も鏡を見れば寂しくなくなるから……)
姉がいつでも一緒にいてくれると思うと、どんな時でも安心できた。ただ、それは単に姉妹だから、というだけではなかった。
そのまま鏡に映る自分に寄り添い、愛おしそうな顔で頬擦りをする。
(だって、あたしはおとはを姉妹以上の気持ちで…………)
と、不意に頭の中昼や身の出来事――音羽が琴美の胸を撫で回す場面が浮かんだ。
(なのに……)
途端に羽音の表情が陰った。愛おしい姉が他の娘といちゃいちゃする姿を見るのはとても哀しい。だが、それ以上に……、
(なのに……!)
硝子に当てた手を羽音は力一杯押しつけた。心の奥底から怒りがふつふつと沸き上がる。普段から節操なくいろんな娘にちょっかいを出しまくっている姉に対して。
(どうして、いつもいつも……!)
硝子がビリビリと震えるのもの構わずに、怒りに任せて手を押しつけ続ける羽音だった。