中村 茜
夏の終わりに突発的に書きたくなった短編集です。
全七話で完結予定です。
じれじれですがよろしければお楽しみください。
「じゃあ俺と中村はスプラッシュサンダースペース乗ってくるから、江川は井上さんが乗れそうなの乗っててくれ」
「おう、わかった」
「ごめんね寧子ちゃん。私どーしてもスプラッシュサンダースペース乗りたくて……」
「ううんいいの。私こそ怖がりでごめんね」
「じゃあ昼近くになったら、またここに集合な」
「オッケー。じゃあ行こうか井上さん。何か乗りたいのある?」
「えっと、コーヒーカップとか……」
「んじゃ江川君! 寧子ちゃんの事よろしくー!」
こうして私達は二対二に別れた。
この遊園地の目玉と言われるスプラッシュサンダースペースに向かいながら、早川はご機嫌な笑顔を浮かべてる。
「うまくいったな。これで昼に一旦合流して、様子見てまた二対二に別れよう!」
「ん、そーね」
そう、これは江川君と寧子ちゃんを接近させるための作戦。
仲人体質とでも言うのだろうか、男女問わず人間関係が広い早川は、こういう頼まれ事をよく受ける。
正直よくやるな、と思う。
相談に乗って、必要とあれば相手の事を調べて、挙句の果てにデートの演出までする。
頼まれただけでそこまでする早川の人の好さには正直呆れる事もある。
……でも。
「前の阿部と佃さんみたいにうまくいくといいなぁ。あの時も中村のフォローでうまくいったし、今日も頼むよ」
「あれはたまたまよ」
何度も手伝ってる私も、相当な酔狂だと自覚はしている。
「お、二時間待ちかぁ」
「順当なとこじゃない?」
「そうだな。じゃあ飲み物買ってくる」
「わかった。並んどくね」
「任せた」
何も言わなくても、早川は私の好きな無糖のアイスコーヒーを買ってきてくれる。
二時間の待ち時間も早川となら余裕で潰せる。
そんな慣れた空気も心地いい。
「……」
……私が「彼氏が欲しい」って言ったら、早川は何て言うかな。
他の人みたいに親身になって相談に乗ってくれるのかな。
貴重な手伝い要員だから、彼氏できるの嫌がるかな。
それとも……。
「お待たせ、アイスコーヒー」
「ん、ありがと。いくらだった?」
「三百円」
「はい」
「サンキュー」
「それにしても遊園地の飲み物って高いよねぇ」
「お祭り価格ってやつだろ?」
「あー、わたあめとかスプーン一杯のザラメで四百円くらい取るもんねー」
「そうそう。ソースせんべいとか、業務用のお菓子屋行ったらすごく安くてびっくりした」
「わかるー」
でもこの感じ、今すぐどうこうしなくてもいいよね。
無糖のはずのアイスコーヒーが、ほんのり甘く感じた。
読了ありがとうございます。
中村 茜……高校三年生。クールで若干面倒くさがりなので、少し近寄りがたい雰囲気がある。勉強はできるので、高三の夏休みでも余裕がある。
早川 次郎……高校三年生。温和で親切、人の喜ぶ顔を見るのが何より好きという、聖人の生まれ変わりのような男。最近将来の夢に、結婚相談所の職員もいいかなと考え始めている。
こんな感じで千文字以下の焦れ恋を投稿して参ります。
「結論の出ない恋とか半端はやめろー」という方は、完結済みの拙作をどうぞ。
「完結しないこのじれじれ感こそ戦場よ……」という方は、明日以降もよろしくお願いいたします。