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Olivia 〜オリビアと国を守るもの〜  作者: カトリーユウコ
7/32

ーオリビアの怒りー

2023/7/23 "仕える"が"使える"になっていた為一部誤字を訂正しております。

他ページで“使える"という表現があれば教えていただけると幸いです。




「オリビア様、おはようございます」


 朝になると、メリッサは超能力でも使えるかの様に、オリビアの寝室へ入ってきた。


 松葉杖をついて、庭の景色を眺めていたオリビアは振り返り、同じく挨拶を返した。



「メリッサ、おはよう。相変わらず、あなたの私センサーは凄まじいわね」


 そう言って笑うと、メリッサに軽く受け流され、着替えさせられた。



「では、お食事に向かいましょう、オリビア様」


「そうね」


 オリビア達は部屋を後にし、食堂へ向かった。

朝は、パンや卵料理の軽食にコーヒーと、至ってシンプルである。



 オリビアは別荘で休んだ時から、この朝食が好きであった。

ゆったりと流れる時の流れを感じながら、窓から差し込む日の光で日光浴をして、頭の血を巡らせていく。


 時折聞こえる鳥のさえずりは、オリビアの心を歌っているかの様に穏やかで、心地よかった。



「本館での食事は、皆さんと取るわけではないのですね」



 オリビアはふと気になった事を、その場に居合わせたロイに告げた。


 とても広く、長い机がある食事で食事をしているのはオリビアただ一人であったからである。



「そうですね。リアン様が幼い頃は皆で食事をしていたのですが…

 リアン様がお仕事をなさる様になってからは、陛下は奥様と、リアン様はお一人で取るようになってしまいました」


「そうなのですか…何か理由がありそうですが、まだ聞かないように致しましょう」



 そういうと、ロイはお礼を言う代わりに軽く頭を下げ、お辞儀した。


「でしたら、本館にいらっしゃる他の皆さんだけでも、一緒にお食事に致しましょう」


 そう言って、オリビアは優しく微笑んだ。


「ですが、そんなオリビア様とお食事なんて、使用人の者達には恐れ多い事でございます」


「私が、皆さんと食事を取りたいのです。

こんなに広くて素敵な空間に、一人は寂しいですわ」



 オリビアは寂しそうに眉を下げながら、ロイに笑いかけた。

ロイもその表情を見て、渋々ではあったが、本館の使用人達を集めた。

 皆が集まるとオリビア、ロイ、メリッサを含め十人で食事をする事になった。





ーーーー…

ーー…


 朝食を終えてから、オリビアは庭を探索したり、屋敷内を案内してもらったりなど、ゆったりと過ごしていた。



事件はティータイムの時間に起こった。



 テラスで紅茶と菓子を楽しんでいたオリビア。

静かで心地よいそよ風の中、その音は響いた。


ーガシャーン!!!


 王宮の中、どうやらリアンの執務室の方からのようだ。


中で何かあったのか…

ただ事ではない音に心配になったオリビアは、メリッサに執務室へ連れて行くよう頼んだ。



 車椅子のオリビアは館内にある、歯車式のリフトで館内を上下することができる。


リフトで三階へ移動すると、声のする方は急ぐ。



 扉の前まで来たオリビアは、メリッサに合図をして、止めてもらった。


耳を澄まして中の様子を聞き取るオリビア。


 盗み聞きなど、趣味ではないが、ここで突入したところで、話をややこしくするだろうと思ったのだ。



 中ではリアンの聞いたこともない、苛立った声が聞こえていた。

それは、怒鳴り声とは違うものの、低く迫力のある声であった。



「貴様、私がこの城を空けていた六日間何をしていた?!」


「申し訳ございません!!」


 明らかに怯え上がった声の主は、オリビアの知らない人であった。



「お前を信頼して、任せていたのだぞ。

なのに、六日間で解決出来ていないとはどう言うことなんだ?」


「申し訳ございません」


「謝るばかりで、会話も出来ないのか貴様は」


「私の力不足故…なんとも言葉がございません」



「そうか、ならばその様な無能はここには不要だ。

お前は本日をもってクビだ」



 え?? クビって…そんな…


 扉の外で聞いていたオリビアは、もう我慢の限界であった。



「そ、そんな…」


「なんだ、文句があるのか。言葉がないと申したのはお前だぞ」


「…っ!…かしこまりました」



ーーバンッ


 その瞬間、執務室の扉が勢いよく開いた。

決して軽いとは言えない扉が。



「あなたはっ!」


 突然のオリビアの登場に、心底驚いているのだろう。

先程の怒りの表情のまま、驚いてフリーズしているリアンが、オリビアの見つめる先に立っていた。


いや、睨みつけると言う方がしっくりくるかもしれない。



「少し前から、無礼ながらお聞きしていました。

何か、そちらの方に不手際があったのでしょうが…

クビとは何事ですか?

それも本日付けなど」


 オリビアは静かに、怒りを殺して問いかけたつもりであったが、声と瞳からは怒りが滲み出ていた。



「私の配下を、雇おうがクビにしようが私の勝手です。

いくら、私の妻になるからと言って口出ししないでいただきたい」


「っ!!あなたにとって、あなたに仕える者の存在はなんなのですか?」


「仕える者の存在? そんなの例えるならチェスの駒のようのものだよ。

力の弱いものには、それなりの給料しかない代わりに、責務の問うような仕事もない。

力を認められてるからこそ、見合った給料を払っている代わりに、それなりの責務だってある。


私は頭とお金を使って、より良い国づくりをする為に、それぞれに仕事を与え、動かすだけだ。


それが、社会というものなのだ」



ーープツンッ



 オリビアの中で何かが切れる音がした。

次の瞬間、オリビアは松葉杖を手にして、気合を入れるかのようにダンッと床に強く立てると、車椅子から乱暴に立ち上がった。



「なんてことを!!


人を物と思っていい人間なんて、この世に存在しません。

立場、地位、力が違えど、皆それぞれが人格を持ち、それぞれの考えがあるのです。


 人の上に立つ者というのは、頭を使って人を動かすのではありません。

それぞれの長けてるところを見出し、それぞれがベストを考えて動けるよう導くだけです!


 そして、人に動いて欲しければ、まずは自分が率先して動くことです」



 そう凄んで、リアンを睨みつけると、リアン以外の皆はあまりの迫力に息を飲んだ。


「では、あなたならどうすると言うのですか?」


 リアンは鋭い眼差しを、目の前のオリビアに向けた。

オリビアはその眼差しに物怖じせず、言葉を返した。



「そうですね。

なんの事件なのかは知りませんが、私もこのお城に嫁いだ身です。

立場上この者達の上という事になるのでしょう?」


「そうだな」


「でしたら、私がその事件とやらを五日で解決して見せましょう」



「五日だと?私が今クビにしようとしているこの者は、この国の環境省として長を任せている者だ。

それなりの仕事も実力もある。

そんな奴が、環境省の他のものも含め、五十人ちょっといながら六日でも解決出来なかったのだぞ」


「そうでしたか。環境省の方でしたか。

初めまして、先日こちらに嫁いで参りました。

エトワール国のオリビアと申します」



 怒りをあらわにしている、リアンの目の前で、オリビアはスイッチを切り替えたように振り返ると、毅然とした態度で挨拶をした。



ーーなんなんだコイツ…!


 リアンは心底そう思った。


 オリビアは再度、リアンに向かい合うと、再び口を開いた。



「丁度、する事も無く退屈していたところです。

私がなんとか出来なかった時は、それは上の立場として私の責任です。

私が罰を受けましょう」


 先程までとは打って変わって、楽しそうに微笑むオリビアを見て、リアンも反論する気が失せていた。


「好きにしろ」


「ありがとうございます。

では、詳細は今までの経過も全て書類にまとめて、後ほど私の部屋までお持ちいただけますか?」


「わかった。用意させよう」


 その言葉を聞くと、オリビアはゆっくり部屋を出て、メリッサは車椅子を立て直すと慌ててオリビアを座らせた。


 閉められた扉の先からは、メリッサとオリビアの声が聞こえていた。




「オリビア様!早くお座りになられてください!

全く無茶して!痛みがぶり返してしまいます!」


「いーのよ、そんな事!

そんなことより…ふふっ。

やったー!メリッサ、仕事よ仕事!」


「ふふふっ。全く、本当オリビア様はお仕事がお好きですね」


「ジッとしてられないのよ〜。私の前世サメだったのかしら」


「ぷっくくくっ!サメって!本当オリビア様は面白いですね。ふふふっ」




「くくっ」


 いつも毅然と接していたオリビアとは、打って変わって明るくはしゃぐ声にリアンは不覚にも笑ってしまった。


周りの者は驚いていたが、リアンが睨むと皆見て見ぬふりをした。


 そして、リアンは窓の外の庭の花々を見つめながら、あんな声ではしゃいでいるオリビアの表情を見てみたいと思っていた。









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