ーオリビアに舞い降りた婚約話ー
「あの、恐れ入りながら、一つオリビア様に提案がございます。
オリビア様の人柄を見越してのお頼みと申し上げた方が良いかもしれませぬが…」
オリビアはキョトンと首を傾げながら、口を開いた。
「なんでしょう?」
再度、二人は見合わせながら、オリビアに顔を向け言葉を続けた。
「我らアリスタ国のリアン王子の奥方になっていただけないでしょうか?」
「な、なんと!」
「どういう事ですか!」
「え…?」
エリック王、エリザベス妃、オリビアは目を見開き驚愕した。
それもそのはず、アリスタ国のリアン王子と言えば、その大国の第一王子にして、数々の国々の姫君達を虜にするという美貌を持ち、そして、近衛団長をも凌ぐ武術の持ち主。
才色兼備の優良株と噂の王子である。
だが、彼は20歳にして、未だ浮き立った話はなく、婚約の申し込みも受け付けていないと聞く。
「そんな、噂高きリアン様と私が? 何故です?」
「リアン様は、かつてとても人に愛され、よく笑う可愛らしい男の子でした。
しかし、大きくなりすぎたアリスタ国は他国に狙われる事も多く、軍事に厳しくなる内に人柄さえも厳格になってしまわれ…
国民も王族内もとても重たい空気を漂わせるようになりました。
正直、驚きました。
貴国に訪れて、この王都へ来るまで、街の雰囲気を見ていました。
町中が輝き、民が輝き、そこまで裕福でなくても皆が笑顔に包まれていました。
当初の目的は貴国の産物でしたが、見て回る内に、この国を築き上げることの出来た術をお聞きしたいと思うようになりました。
そして、その源がオリビア様、貴方とお聞きして、是非リアン様を私たちがかつてお慕いしていた王子に戻していただきたいのです」
悲しそうに、苦しそうに話す二人を見てオリビアも心が締め付けられた。
だが、オリビアがこの国を離れたく無い気持ちはとても大きかった。
「申し訳ございません。私はこの国が大好きです。
今のこの国の良い所はそのまま伸ばし続け、更なる発展を今は目指したいのです。
そんな最中、私が抜ける訳には行きません」
「もちろん、タダでとは言いません!
この国の産物を他の国よりも多額で買い取ります!
他に新しく出てきた産物も取り引き致しましょう!
貴国の発展に大いに役に立てるのなら、出来る事は尽くしましょう!」
その申し出を聞いて、二人の本気がエトワール側の三人には伝わった。
エリックはオリビアを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「オリビア、そなたの事はそなた自身で決めなさい。
国の事は考えなくても良い、そなたの心に従いなさい」
私の心…
私はこの国が大好き。
離れたく無い。
でも、この方々の心の叫びが聞こえる。
この国だけで出来ることには限りがある…
可能性を広げる良い機会かも知れない。
どちらにせよ、結婚など興味は無かった。
相手など、どうでもいいじゃない。
少しでも国に新たな可能性が出るのなら…
そして、その上この者達の心が、アリスタ国の心を救えるのなら…
ここで、私の将来を決めてもいいのかも知れない。
決意を胸に、オリビアは顔を上げ、二人と向かい合った。
「分かりました。お受け致しましょう。
但し、条件があります。
貿易はこれまで通り、必要な分だけ行っていただければ問題ありません。
その代わり、この国には娯楽が足りません。
アリスタ国ではショーという音楽祭のようなものがあるとか…
エトワールでも音楽は盛んで、皆大好きなのです!
そのショーとやらをこの国でもしていただけませんか?
可能であれば施設を建て、国民も参加できるようにしていただきたい。
そして、この国にも他国の観光客が増えるよう手配していただきたいのです。
それは私も一緒に尽力させてください。
最後に、最低でも月に3日はこの国へ帰らせていただきたいのです。
それらの条件を飲んで頂けるのでしたら、私は貴国へ嫁ぎましょう」
「そのような事であれば、アリスタ国は喜んで協力致しましょう!」
「ゴホン!」
話が丸く収まったかと思われた最中、エリックの大きな咳払いが会話を止めた。
「オリビアが決めた事じゃ、反対するつもりはない。
だが、父として、一つ条件がある」
そう言ってエリックは立ち上がると、暦の方へ赴き、再び口を開いた。
「この国で、成人は18歳。オリビアはまだ17歳です。
来年、オリビアが18歳になる十月十日。
正式に婚約を認めましょう。
その際は王子直々、顔を見せていただけるよう願います」
そう告げると、エリックの顔には一国の王と言うよりも、一人の父として、娘の旅立ちを覚悟し、この目で相手を見定めてやろうという、熱のこもった眼差しが宿っていた。
ーーーー…
ーーーーーー…
そうして、小国エトワールのオリビア姫と、発展大国アリスタのリアン王子の婚約が決まった。
後の便りによると、リアン王子自体も結婚に拘りは無いようだが、周りの森がある故、近寄りがたいと言われているエトワール国の産物とその国を豊かにしたと言う宰相以上の才があると言う姫に興味があるらしく、快く婚約を承諾したと言う。