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Olivia 〜オリビアと国を守るもの〜  作者: カトリーユウコ
3/32

ーオリビアとエトワールの五年ー




ーーーオリビア12歳の時。




「お母様、行ってまいります!」


「まあ、また町へ出るのですか?」



 大きなお城のロビーで、元気に声掛けするのは12歳になったオリビアである。

声を聞きつけてゆっくりと中央階段を降りて来たエリザベス王妃は、娘の破天荒さに不安を抱きながら、凛々しくなった表情を見て毅然と接せずにはいられなかった。



「はい! 大好きな国の皆さんに毎日挨拶するのが、私の日々の楽しみなのです!」


 そう張り切って言い終えると、オリビアは母の言葉を聴き終える前に城の外へ出ていた。


「ティータイムには戻って…

まったく…あの子は人の話もまともに聞けないのですか」


 そうきつい言葉を放ちながらも、表情は暖かく我が子への愛に溢れていた。



 12歳になったオリビアは、近衛団員の護衛付きではあるが、街を自由に見て回れるようになったのだ。

それが嬉しくて堪らないオリビアは、毎日欠かさず、街の至る所へ赴き、国民へ挨拶して回るのであった。



ーーー

ーーーーー…



「マリー、おはよう! 今日もパンのいい香りがしてるわね」


「オリビア様! 今日もお元気そうで何よりです。

朝焼いたパンでもどうぞ〜」


「ありがとう! いつも美味しくて癒されるわ〜」


 オリビアはパン屋のマリーにそう笑いかけると、手のひらをひらつかせ、周りの皆にも挨拶すると、町外れの寂れた街へと赴いた。



 オリビアのもう一つの日課の為だ。

毎日寂れた街へと赴いては、その民の声を聞き、12歳にして日々町の改善へと取り組んでいる。



「やはり、改善点は多くありますが…まずは綺麗な水を皆に供給する事ですね。


ここにも水道を引きましょう」


「しかし、姫様、先日、先々日等続く町外れへの大幅な工事で、予算は使い果たしてしまいました」


「何を申すのですか! 予算など、王族の贅沢費を削りなさい!

服や宝石は山ほどあります。新しいものなどいりません。

必要であれば売ってしまいなさい!」



「な、何を!」


「父には私から話をつけます。

了承を得てからでは時間がもったいない!

早急に動きなさい!

すべき事は山ほどありますよ!」


 天真爛漫で、落ち着きのない幼い頃の面影はもう無く、凛々しく真剣な面持ちの彼女には、共に着いてきた宰相も反論など出来る訳がない。


「かしこまりました。直ちに手配致します」



ーーーーー

ーーー…



 そうして、オリビアは五年という歳月を掛けて、国を隅々まで豊かで綺麗な街並みへと変えたのだ。


五年間、彼女は新しい服も買わず、成長する体に合わせて、すでにある服をリメイクしたり、必要以上に体が大きくならないよう食事もろくに口にしなかった。



 輸入は必要最低限へ落とし、王族の食材や布なども国の中で育て、売るものを買い、他の国が欲しがる物を考え、畜産物を作り、輸出を盛んにとり行った。



 国の税金を上げる代わりに、病院費を税金で賄い、人々が豊かに生活出来るよう尽くしたのだ。



 そんなオリビアに国民全てが協力するのには時間はかからなかった。

オリビアが13歳の時、痩せこけたオリビアが毎日挨拶するのを見て、国民は食事を分け与えたが、断られ、なす術のない国民はせめて改善事業のお手伝いをと、休みの日に工事や畑仕事を手伝った。


 オリビアが14歳の時、栄養失調で病を患い、足が弱ってしまい車椅子になった時は、国民が車椅子を押し、豊かになっていく街を案内して回った。


 そんな日々を繰り返す内に、五年という歳月で国は変わることが出来たのである。



「後は、この素晴らしい状態を皆で守っていきましょう」



 17歳のオリビアはそう呟き、余裕の出た王族の資産で服を買い与えられ、食事もまともに摂取するようになった。


 そう、まるでオリビア自身が、国の象徴かのように、みるみる内に潤いを取り戻し、国中の皆から美貌も憧れられる姫となった。





 そんな、オリビアが17歳のある日。

珍しい来客があった。

遠い発展大国のアリスタから、優秀な宰相が訪問してきたのだ。


 なんでも、エトワールの畜産物、黄金の綿と黄金の芋がアリスタで流行っているらしく、その貿易に関して直々に談判しに来たという。


 黄金の綿と芋はエトワールを囲う森の栄養分と、オリビアが街中の水を綺麗にした影響で生まれた逸材である。



 その綿を使った布は富裕層の服飾品や、家具インテリア全てにおいて、他の布にない輝きや、塗料の発色を持つという。

 その綿を使ったコットンは、美容成分が多く、スキンケアに良いと評判らしい。


 そして、黄金の芋は、他のどの芋にない食感で応用が効き、様々な料理からデンプンを使ったデザートまで広く愛されているという。



「これはこれは、ドーラン宰相。

わざわざ、こんな遠い小国までよくぞお越し下さいました」



「エリック陛下、この度は多忙な中時間を割いていただき、誠に感謝致します」


 アリスタ国のドーラン宰相と近衛団長のジャッカス、エトワール国のエリック王とエリザベス王妃は、広く高貴な家具で飾られた応接室に向かい合って座っていた。



「この度は、先日便りで出した件なのですが…

エトワール国誇る産物の生産法をお教え頂きたく参りました。

もちろんタダでとは思っておりません。

見合う報酬はお出しします」


「なるほど、生産法を買い取りたいとのお申し出なのじゃな」


 "うーむ"と白く伸びる口ひげを右手で弄りながら、少し悩んだエリックは再度口を開いた。



「では、分かるものを呼んでこよう」


「貴国の宰相殿でございますか?」



「いや、我らの国にも優秀な宰相はおるが、実はこの国がここまで発展したのは我が娘のおかげなのじゃ」


「なんと! お噂に聞くオリビア姫様の!」



「うむ。


おい、すまぬがオリビアをこちらへ呼んできてくれぬか」



 エリックは向かいで驚くドーラン宰相を余所目に、入り口で立つ使者へと声かけた。


使者は一声返事をすると、足早に掛けてその場を後にした。



「少々驚くかもしれないが…これも良い機会であろう。


何やら、オリビアに関して少し上辺だけの噂が出回っているようなのでな…

この国の産物を愛用していただいてる、そなたらには理解していただきたい。


この国の五年の歳月を」



「嬉しきお言葉。心してお伺い致しましょう」


 妙な緊張感の漂う空気を察して、ドーラン宰相とジャッカス団長はゴクリと唾を飲み込んだ。



ーーーーーーーー…



 しばらくして、再び応接間の戸が開いた。


「大変お待たせしてしまい、申し訳ございません」


 現れたオリビアの姿を見て、ドーランとジャッカスの表情は一瞬固まった。



 噂に聞く絶世の美女は、その噂に違える事なく実在していた。


若いオリーブの様に曇りなく光り輝くの鸚緑の瞳…


長く伸び、瞳を強調する睫毛…


潤い光り輝く綺麗なグレージュの髪…


白く透き通る陶器とガラスの間のような肌…


薄紅色に色づく頬…


赤く潤い膨らみのある唇…



 今まで見たことの無いような美貌の持ち主であった。


 だが、二人が一瞬息を呑んだのはその美貌の故ではなかった。

そう、こんなにも美しく、いかにも健康的な彼女は車椅子姿だったのだ。


 健康的な笑顔からは病など考えられなかった。




「お初にお目にかかります。私はアリスタ国の宰相を務めるドーランと申します。


この者は近衛団長を務めるジャッカスです。


なんとも、お噂に違えず、とてもお美しい…オリビア姫様」


 二人はサッと立ち上がり、オリビアへ敬礼と共に挨拶を交わした。



「まぁ、私などに勿体なきお言葉ありがとうございます。

ふふ、気になることがお有りなのでしょう?

何でも聞いていただいて構いませんわ」


 そうオリビアは言葉を発し、悪戯に微笑んだ。

その微笑みは、場の緊張感を解き、オリビアの声掛けでドーランとジャッカスは再び腰を下ろした。


「その、足は事故か何かで?」


「いいえ、一時病に侵されてしまって、ろくに立てなくなってしまいましたの。


ですが、今ではこの通りとても元気ですわ!」



 そう言って満面の笑みを浮かべるオリビアは、より一層その場を和ませるのであった。


 そして、エリック王によって語られた五年の歳月。

オリビアの努力と、それに応えた国民の努力。



 それを聞いた宰相は口を閉じることを忘れ、驚きを隠せないでいた。


わずか12歳の少女は、自らの身を削りながら国を変えたのだ。



「そして、我らエトワールの産物の生産法でしたね。

お教え差し上げたいのですが…研究の結果、周りを囲う森の影響も多く、他の要素を揃えても育てるのは難しいのです。


 森の一部を持ち帰れば可能かも知れませんが…

敷地内とは言え、森は森の生があります故、その生を守る為にも…

森を荒らす事は許しません」



 穏やかであったオリビアの表情は、強い決意を伝える時には凛々しく引き締まり、まるで別人の形相であった。


その言葉に息を呑むドーランとジャッカスに、追い討ちを掛けるかのように、言葉を続けた。



「もし、この森を荒らす者がいた場合、私達エトワール国を上げて罰します」



 強い決意を宿した目は、顔に似合わず殺意さえも匂わせる空気を作り出した。




「…承知致しました。

そのような事情がお有りなのでしたら、このまま貿易国として、

これからも是非とも友好的にお付き合いさせていただきたく思います」


 オリビアに向かい、深々と頭を下げる二人。



「もちろんです。自給自足のこの国家にとって、これ以上嬉しきお申し出はありません」


 オリビアは二人の頭を上げ、微笑むと、ドーランとジャッカスは向かい合い、一呼吸置いて話を再開した。






ー2021/12/28ー

ここまで読んでいただきありがとうございます!

魔法のiらんどに掲載しておりました自作に、再度向き合えて私は幸せです(つ∀`*)

更新はまちまちになりますが、皆さんに楽しんでいただける様、なるべく手の空いた時には執筆出来るよう頑張ります!!

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