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偽善者殺しの絲瀬   作者: 椎凪瑰
3/4

2話 「夢の少女」

 ――俺のベッドに芽衣を寝かせ、俺はソファに寝転がる。

 もう眠くなってきた頃合いだ。

 

 「流石にきついか……久しぶりに人と長く話したからな」

 

 俺は目をつむり、そして眠りへと落ちていった。

 

 Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ

 

 ――熱い。

 目を開け、青い空を見上げる。

 汗ばんだ身体を、風が優しくぜ、そして俺は隣にいる者に気が付いた。

 

 「絲瀬、どうかしたの?」

 「あ、いやなんでもないよ……あはは」

 

 隣にいた赤髪の少女にそう返し、俺は今の状況を理解した。

 まさか……ここは。

 

 「――? 本当にどうかしたの? 絲瀬もしかして、熱でもあるの?」

 「本当に大丈夫だってば。それよりりんは行きたい場所があるんじゃなかったのか?」

 「あ、そうだった! まずい、早く電車に乗らないと遅れる!!」

 

 そうだった。

 俺は燐に好意を寄せていた。

 彼女とはまだ『友達』という関係でしかなかったがな。

 

 「ライブが始まる前に早く会場に着かないとな」

 「そうだね。よし、走るよ!」

 「おう」

 

 俺と燐は走りながら駅へと向かう。

 しばらくしてなんとか駅に着き、俺と燐は安堵あんどの息をらす。

 

 「もうすぐで来るぞ」

 「そうだね――って、え」

 

 その瞬間、燐の身体は線路へと吹き飛ばされていた。

 

 「燐!!」

 「絲――」

 

 俺が手を伸ばして助けるよりも先に、電車が駅に来る方が速かった。

 

 目の前にいたはずの燐が消え、俺は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 「燐……燐は……?」

 

 すると、金髪の男が俺の前に現れた。

 

 「すまない……俺の空砲が嬢ちゃんに当たって」

 

 金髪の男はニヤニヤしながら俺にそう言った。

 

 「――ないだろ」

 「あ? なんだ?」

 「すまないじゃないだろ! お前は燐を吹き飛ばした!! そのせいで燐は死んだ!!」

 

 俺は赫怒かくど憎悪ぞうおを金髪の男に向ける。

 

 「殺す……殺してやるっ!!! お前みたいなくずは!!」

 「何言ってんだ兄ちゃん。俺はな、お前達みたいな貧弱で雑魚の一般市民を助けてやってる『ヒーロー』だぞ。人が一人くらい死んだところで何だ? それよりも犯罪者による被害の方が大きいわけ。ついさっきまで俺だって犯罪者と戦ってたんだから。な? 感謝しろよ」

 「黙れっ!!」

 

 俺は脳内で術式を唱える。

 

 すると目の前にいた金髪の男は爆発して死んだ。

 肉塊にくかい鮮血せんけつが飛び散り、俺の服に染みる。

 

 ――この服、俺の誕生日に燐がプレゼントしてくれたんだけどな……。

 

 「燐っ……燐……!!!」

 

 俺は泣きながら膝を付く。

 喪失感そうしつかんと絶望感で心があふれ、はち切れそうになる。

 すると、頭のどこかでぷつりと音がした。

 

 「燐を殺したのはヒーローだ。そうだ、ヒーローなんだ」

 

 俺は周りに集る野次馬を睨み付け、

 

 「術式A展開――【偽装】闇の篝火かがりび

 

 そう唱え、野次馬を一人残らず燃やし尽くした。

 

 ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ

 

 ――俺はソファから飛び起きる。

 今にも嘔吐おうとしそうな程の気持ち悪さが汗となって全身を伝う。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 荒い呼吸を繰り返し、夢の中に出てくる『燐』という人物を想起そうきする。

 

 「誰だよ……」

 

 この悪夢は見ることが多い。

 そして起きるたびにこういう状況だ。

 暫くして呼吸が整い、心も落ち着いたところで夢のことは忘れて朝食を作ることにした。

 

 「おはよ」

 「姉貴か、おはよ」

 

 俺は小さな姉と挨拶を躱す。

 

 「ふぁ~、ん。ところで芽衣ちゃんは?」

 

 欠伸あくびをしながら姉が尋ねる。

 

 「あいつなら俺の部屋で寝かせてるぞ……ってなんだその目」

 「ふ~ん、まさか私以外と一緒に寝たの?」

 「寝てねぇよ。勘違いするな」

 

 ジト目で俺を見つめる姉。

 

 「私は絲瀬と寝たかったけどね。お姉ちゃんだって夜は怖いもん」

 「ぐぬ、謎に可愛さをアピールしてきて憎めねぇ」

 「どうしたの? 絲瀬」

 「なんでもない。それより、できたぞ」

 

 姉が座るテーブルへと朝食を運び、俺は芽衣のところへと向かう。

 

 「おい、起きろ――って、起きてたのか」

 「おはようございます」

 「朝食作っておいたから食べてていいぞ」

 「ありがとうございます……それより、絲瀬さんのお姉さんは学校とかには行かれてるんですか?」

 「行ってないよ。ていうかもう卒業してるし」

 「そうなんですか……」

 

 リビングへと向かう芽衣に、

 

 「タメ口でいいぞ。常に敬語を使うのは疲れるだろ?」

 「そうで――そうだね。もう友達だから」

 「だな」

 

 すると、再び俺の胸に違和感がつのった。

 またかと思いつつ、俺はその感慨かんがいを無視する。

 

 「燐、か……」

 

 気にかかる少女を再び思い返す。燐という少女はなぜか、夢にだけ現れる。

 

 「それより、今日は芽衣の異能【幻影】について知らないとな」

 

 俺はそう思いながらリビングで姉と楽しそうに食事をしている少女を見た。

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