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偽善者殺しの絲瀬   作者: 椎凪瑰
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1話 「友達」

――暗い路地裏で、一つの舌打ちが響いた。

 

 「ああ、やはり偽善者は嫌いだ」


 うつむいた少女を見つめながら、俺はヒーローを憎悪ぞうおする。

 

 「おいお前、名前はなんて言うんだ?」

 「橘樹芽衣たちばなめい……」

 

 橘樹芽衣と名乗る少女を隣に、俺は溜め息を吐く。

 

 「お前の事情は理解した。いいぜ、着いてこいよ」

 「ならよかった。ありがと」

 

 笑顔でそう答える芽衣。

 どことなく俺は自身の胸が温かくなったような気がした。

 

 ――なんだ、これは。

 

 無性に感じる違和感と謎の温かさが、とても不思議で仕方がなかった。

 俺は不快感に眉をひそめる。

 

 「術式A展開――【偽装フェイク常世とこよ齷齪あくせく

 

 そう唱えた瞬間、俺と芽衣の周囲の景色が一変した。

 それにいち早く気付いた芽衣が驚きの声を上げる。

 

 「術式A……それも聞いたことない異能と技名……」

 「だろうな。この術式は俺が全部作ったものだからな」

 「作った……?」

 「ああ、そうだ」

 

 異能というものは生まれた時誰しもが会得している謎の超能力のようなものだ。

 更にその異能を行使する際には術式というものを唱えなければならない。

 そしてその術式にも『ランク』というものが存在している。

 最も低いランクがE。上のランクはD、次がC、その次がBそして最も高いランクがAだ。

 Aランクの術式を操れる人間など、俺を含めて世界では10人程だと言われている。

 

 「凄くても術式Bを使えるに留まるしな……お前はどこまで使用できる?」

 「B……」

 「意外と凄いな。異能は何が使える?」

 「【幻影】っていうやつが使える」

 「聞いたことないな……」

 

 異能の種類は様々だが、基本的な異能は三つだ。

 

 ――水、火、土。

 この三つが主な異能だ。しかしこの三つではない異能も存在する。

 例えば俺の使う【偽装】だ。

 このような特殊な異能のことを俗に『特異能力』と呼ぶ。

 

 芽衣は特異能力を使用できる特別な人間なのだ。

 しかしながらヒーローにも特異能力を持つ者もいる。

 基本的にヒーローは水か火か土を扱っているが、枠外の能力を使う者が時々いる。

 

 まあ俺の相手ではないが。

 

 「取り敢えず、お前は風呂に入ってこい。汚いままだと嫌だろ?」

 「分かった……」

 

 芽衣は脱衣所へと向かって行った。

 俺はソファに座り、芽衣が話した事情とやらを思い出していた。

 

 『――人を660人殺してる』『私の異能が勝手に発動して……何人もの人を殺めてきた』

 

 だから寄る宛ても無く、俺の元へと来たというわけだ。

 『偽善者殺しの絲瀬』とまで異名を付けられ、ヒーロー達から恐怖されている人物ならば自分を救ってくれると思ったのだろうな。

 

 「しかし、芽衣の異能がどういったものなのか気になるな。今度試してみるか」

 

 もちろんヒーローを捕まえてモルモットにしてな、と心の中で言いながら俺は息を吐く。

 

 「まあ、今姉貴は寝てるし。今は楽に過ごせるなぁ」

 

 姉貴は俺に対してゲームの協力プレイとやらを強制させて来る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姉は、頭も小学生の儘だ。

 要するに考え方がまだ幼稚だということだ。

 

 「変な思考を持ち合わせてなくて良かったぜ。まあ出かける時はとても大変だがな」

 

 姉が外に出るたび何かを見つけてははしゃぐので、かなり精神的にきつい。

 ぐ、親になると大変なんだなと痛感して俺は育ててくれた両親に感謝と尊敬の念を送った。

 

 「上がったよ」

 「ああ。というか明日、お前の異能を一度目にしてみたいんだが……いいか?」

 「うん、いいけど……」

 

 なにやら芽衣は不安げな表情をした。

 すると姉の部屋の扉が開いていることに俺は今気づいた。

 

 「何してるの? こんな夜遅くに」

 「げっ、姉貴……ていうか姉貴は夜更かしするなよ。成長に睡眠は最も重要だぞ」

 「してませーん。それに私、寝ても成長はしないんですけど」

 「そうだったな……でも体力も小学生の儘だから気を付けろよ」

 「分かりました。ところで、この子は?」

 

 姉は芽衣を指差す。

 そして俺は途轍とてつもなく嫌な気配を感じた。

 

 「もしかして彼女さんとか? いやぁ、絲瀬も立派になったねぇ」

 「ち、違うわ! こ、こいつは俺に着いてきた女子高生だっつの」

 「女子高生と交際してるんだー」

 「ちげぇよ! ああ、もういい。とにかくこいつとは恋人同士じゃない。いいか?」

 「はーい」

 

 姉とそんな会話をしていると、不意に芽衣が笑い出した。

 

 「ふふっ、絲瀬さんって面白いんだね」

 「なんだよ、悪いか?」

 「悪くはないけど……あの、その、意外だったから」

 「そうかよ」

 

 すると姉が、

 

 「絲瀬はこう見えて面白いんだよ。揶揄からか甲斐がいもあるしね」

 「そうですね」

 「おい」

 

 俺は目を細めて二人を見る。

 

 「まあ、こいつは橘樹芽衣っていう名前だ。で、こっちは俺の姉貴で――」

 「――どうも、姉の砿維緒あらがねいおでーす」

 「おい。あとこの台詞を言うの二回目なんだが」

 「えへっ」

 

 舌を出して悪戯いたずらっぽく笑う姉に、溜め息を吐く俺。

 やはり姉といると自分のペースが乱される。

 

 「じゃあ私寝るね。もう眠いし」

 「ならなんで起きてきたんだ? 普通に寝ていれば良かったのに」

 「それは絲瀬が女の人と話してるからだよ。気になるじゃん」

 

 さすが俺の姉だ。

 姉は「おやすみ」と言って部屋に戻った。

 姉に「おやすみ」と返した俺と芽衣。

 すると芽衣が口を開いて、

 

 「本当に姉なんですか? 私にはあなたの娘にしか……」

 「それは違う。姉貴は身体の成長が小学生から止まったままだから、年は取らないし見た目も変わらない。まあ俺は23歳だし、そりゃ娘に見間違われても自然か」

 「小学生から止まってる……大体何年生ですか?」

 「小三だ」

 「え、小学三年生ってことは……外見はまだ8歳じゃないですか!」

 「そうだな。ていうか、お前急に敬語使うようになったな」

 

 俺の指摘に、芽衣は顔を赤くして下を向く。

 

 「すみません……つい」

 「そんなに恥ずかしいことなのか?」

 「実は昔、友達から敬語をやめてタメ口で話してほしいと言われたことがありまして……それでなるべくタメ口で話すようにしていたのですが……つい素が出てしまいました」

 「なるべく初対面の人には敬語を使った方がいいぞ。タメ口とかは仲が良い人だけにしろな。まあ俺に仲が良い人は姉貴ぐらいしかいねぇがな」

 「でしたら――」

 「ん?」

 

 すると芽衣が笑みを浮かべ――、

 

 「私と友達になりませんか?」

 「友達……」

 「はい!!」

 

 俺は聞きなれない言葉に眉を顰める。

 『友達』。

 何か大切なことがあったような気がするが、思い出せない。

 

 「友達になってくれるのか?」

 「はい――友達になりましょう!」

 「ああ、分かった」

 

 初めてできた友達という存在に、俺はつい口元がほころんでいた。

 

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