プロローグ 「女子高生」
「――続いてのニュースです。東京都渋谷区にて一人の男が住宅街に放火するという事件がありました。男は駆け付けた“ヒーロー”によって取り押さえられ、その後駆け付けた警察により逮捕されました」
――20〷年、突如として“ヒーロー”というものが姿を現した。
正義を掲げる彼らは警察と協力し、政府公認の組織となっている。国中の人々から敬愛され、こうしてニュースにまで取り上げられている。
「はぁ……」
普通ならヒーローが悪者を捕まえ、それを喜ぶべきだろうが――彼は違った。
「偽善者共はやっぱり俺が殲滅しないとなぁ……!」
お茶の間で騒ぐ一人の青年。
ぼさぼさの黒髪を躍らせ、赤い瞳を輝かせ、笑みを湛えながら――少年、砿絲瀬は殺意を滾らせた。
「絲瀬、夜だよ。五月蠅いから叫ばないで」
「はい……」
ソファに寝転びながらゲームをしている少女が絲瀬を睨む。
絲瀬は肩を竦めながら謝り、暇なので引き続きニュースに目をやることにした。
「――そうだ、絲瀬。暇なら私と一緒にゲームしない?」
「俺は今ニュースで犯人の犯行手口を真剣に見て参考にしてるんだぞ、そんな暇があるわけ――」
「いや、絶対に暇でしょ? もうニュース終わってるし」
確かに終わっていた。
そして少女はこちらを見つめて、
「ね? ゲームしようよ、絲瀬」
「ぐっ……わかった」
絲瀬は渋々と頷き、少女とゲームをすることにした。
――まあ、こう見えても俺は『偽善者殺しの絲瀬』なんだがな……。
心の中でそう呟きながら、絲瀬は溜め息を吐いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――ヒーローの殺害現場で、一人の少女と一人の少年が話をしていた。
「お願い、助けて――!」
「助けてって言われてもな……」
俺は一人の女子高生に対してそう返事をする。
出会い頭に「助けて」などと言われたら誰だって困惑するだろう。
特に――犯罪者の俺にとってはあまりにも異様だった。
「おいお前、俺のことは知ってるよな?」
「『偽善者殺しの絲瀬』だよね、知ってるよ」
「それならなんで――なんで俺なんかに助けを求めるんだよ。俺は犯罪者だぞ?」
「それでも、それでも……」
少女は胸に手を置き、一度悲しそうな表情をしてから――
「――私、ヒーローに狙われてるの」
その言葉に、俺は大きく目を見開いた。
そして俺は溜め息を吐きながら、
「仕方ねぇな……話、聞かせろ」
いつの日かの自分を思い出しながら、俺は少女へと語り掛けた。