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推しとの青春へのプロローグ

第一話ですが、前日譚の感覚で読んでいただけると幸いです。

※まだ推しは出てきません

「ふぁ〜ねっむ〜」

とある日曜の朝、起きてそうそう眠いと呟きながら1階のリビングの椅子に腰掛ける俺。

うん、なかなかにダメな人間だ…

「起きてすぐに眠いって、はぁ、ダメな兄貴…しかも隠れヲタクだし」

「いや、ヲタなのは関係ないだろ」

「うわぁ〜、なんの捻りもなく普通にツッコんでるし」

「…うるせぇなぁ〜っ…」

と、毎朝の様に七瀬と俺はたわいもない兄妹会話をしていた。


「今日は現場あるの?」

「あぁ、昼過ぎには現場向かうよ」

「ふぅ〜ん、暇だしたまにはななも行こうかな?」

現場とはアイドルがライブをするライブ会場の事だ。

地下アイドルヲタクな俺は今日も今日とてヲタク活動

略してヲタ活をするのだ!!

しかし、七瀬の奴いま自分の事をななって言ったな…

「なにが目当てだ?」

「え?www」

「え?wwwじゃねーよ!!今、ななって言ったろ!」

七瀬は普段の一人称は"私"だが"なな"になる時もある。

"なな"と言った時=私のお願い聞かないと泣くよ?

という暗黙の脅しである…

過去数回この場合のお願いを無視した事があるが、それはそれは恐ろしい目にあったので無視はしないと心に刻んでいる。


「いやいや、今回は何もないよーw」

「"今回は"って、今までも自覚はあったんだな…」

「あはははwww」

「誤魔化すの下手くそかよっ!」

「なんていうか、少し懐かしくて今日はななも行こうかなって…」

「そっ…かぁ、七瀬が行きたいなら止めはしないよ」

七瀬は元アイドルだ。

4◯グループや〇〇坂みたいなメジャーなアイドルではなかったけど、地下アイドルとして妹贔屓をしなくとも質の高いアイドルだった。1年前のあの事件があるまでは…


「怖くないって言ったら嘘になるけど、ななも少しずつでも前に進みたいって思ってるからさ…」

「そっか、じゃあ一緒に行くか?」

「うん!!」

「じゃあ昼食べて少ししたら行くか」

「りょ!」

「了解って言えよw」

「はいは〜い、りょ!」

「ったく…w」

昼飯には少し早いので2階の自室に行こうと席を立つと

「お兄ちゃん!」

「ん?」

「…いろいろとありがとうね」

「気にすんなよー、兄妹なんだからさ」

妹からの素直な感謝の言葉が照れ臭くて振り返らずに自室に戻った。


「あれから1年か…」

自室のソファーに座って左手を見つめながら

1年前の事を思い出す。

1年前、七瀬は所属のアイドルグループでセンターとして活躍していた。

地下アイドルとはいえど、センターに立つプレッシャーや他のメンバーからの嫉妬に悩んでいた七瀬にしつこく付き纏う男が現れた。

そんな七瀬の身を案じて帰りは俺が現場まで迎えに行っていた訳だがその頃から事実無根の悪評や悪い噂が飛び交うようになり、七瀬は日に日にやつれていった。

元々が華奢な七瀬がどんどん痩せ細っていくのを見てるのも辛かったが「アイドルは私の憧れだから!」と言って頑張り続けていた。


しかし、そんな状態でライブ等の激しいパフォーマンスとセンターに立つ重圧に長く耐えられる訳もなく、ほどなくして七瀬は倒れた。

病院での診断結果は極度のストレスと栄養失調で家族と運営陣の話し合いにより、心身的にもしばらくの間はアイドル活動は控えた方が良いという判断に至った。

活動は出来ずともメンバーが立つステージはみたい!

という事を聞かず現場に行ったが、本来は自分が立つべき場所で踊って歌って輝くメンバーの姿を見た七瀬はながら「私、頑張ってたんだけどなぁ…」と涙で顔を濡らしながら小さな声で呟いた。


「七瀬が頑張ってたのは俺が1番知ってるよ。もし七瀬に文句言う奴がいたら俺が全力でお前を守るから」

七瀬が本気でアイドルをやっていたのを知ってるからこそ七瀬に言わせてはいけない言葉を言わせてしまって悔しい想いで一杯だった。

「お兄ちゃんで守り切れるかな…不安しかないw」

「おいっw」

少しだけ笑顔になる七瀬。


ライブも終わり俺たちは家に向かって帰宅している途中

人通りが少なく薄暗い公園を横切っていると、

「七瀬ちゃん、その男は誰?!」

俺たちの目の前に薄汚い格好をした40代半ばくらいの男性が現れた。

見た事がある顔だ。七瀬のファンだが過度な発言や迷惑行為で出入り禁止処分になった男だ。

「やっぱり、彼氏が居たんだね…彼氏と遊びたくて活動休止中なのかな?」

「初めまして。七瀬の兄の京介です。何か誤解されているようですので一点だけ、妹は体調の問題で活動を休止していますので。彼氏も居ないと聞いております。」

「そんな嘘が信じれるかっ!僕が七瀬ちゃんにどれだけの金を使ったと思っているんだっ!」

「それはあなたがあなたの意思で使ったんですよね?七瀬が無理矢理使わせた訳ではないですよね?」

「う、うるさいっ!うるさいっ!うるさぁーいっ!」

男はカッターを取り出して七瀬に突き刺そうとする。


ぐさっ

「あ…、お前が悪いんだっ!僕は僕は…」

男は血に濡れた手を見ながら言った。

「てめぇ…2度と俺の大切な妹に近づくんじゃねぇぞ」

うろたえて逃げ去る男を確認した後、俺はカッターを放り投げ左手を止血する。

カッターを手で握りしめた為に左手が切れていた。

泣きながら持っていたハンカチを俺の左手に巻き付ける七瀬とそんな妹を慰める俺。

ほどなくして救急車で搬送され俺は数針縫われた。


病院で処置を終え警察の聴取を受けていると警官から犯人が確保されたと知らせを受けた。

この事件がきっかけで七瀬はアイドルを辞めてしまった

「アイドルよりもお兄ちゃんの方がななには大切だから」寂し気な表情でそう言って活動休止からの卒業だった。


あれから1年…

当初は塞ぎ込んでいた七瀬もだいぶ元気になり昔のように輝く笑顔に戻っていた。

過去を回想していると丁度昼飯の時間に

「よし、腹ごしらえして出発だ!」

この後、いよいよ現場に向かって出発だ。

待ってろよぽんさま!きたんが今からいくぞ!!笑


この時は、推しとの青春がこれから始まるなんて知る由もない俺は再びリビングへと降りていく。

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