第八話 野菜は食べませんよっ!?
昼食を食べ終え、柚葉ちゃんと適当にお喋りをすると柚葉ちゃんは夕食を作らないといけないとのことで、帰っていきました。
「さて、私も湊二郎様の為に頑張らないといけませんねっ!」
今晩はすき焼きです。いつもよりお肉が多めに買ってあります。とりあえず野菜とかを切る前にお米から炊いてしまいましょう。
「湊二郎様、受かってると良いのですが……」
先ほどまでは柚葉ちゃんとお話に集中してたのであまり気にしなかったのですが、急に不安になってきました。
あれだけたくさん勉強したのですから受かって欲しいです。やっぱり努力は報われるべきですね。
私が夕食を作っていると玄関の開く音が聞こえたのでそちらに向かうと湊二郎様がご帰宅になられてました。
「ただいま」
「おかえりなさいませっ、湊二郎さまっ!」
私は湊二郎様の荷物を預かり、居間へと運びました。
「あ、あのっ、お受験……どうでしたか……?」
私が湊二郎様に訊ねると湊二郎様は私の頭を撫でてきました。
「なんですか? ふひゃあっ!? 耳はやめてくださ━━━━ひゃんっ!?」
「心配かけたな。大丈夫だ。しっかり受かってる。多久郎もな」
湊二郎様はそう言って入学手続きに必要な書類を見せてきました。
私は耳を触る意味はあったのかと頬を膨らませて無言で訴えますが、湊二郎様は目も合わせようとしませんでした。
「とりあえず合格おめでとうございます。夕食はもう少しでできますので、先に着替えてきてください」
「ああ、わかった」
湊二郎様が自室に戻られるのを確認すると私は歌を歌いながら野菜をお鍋の中に入れて煮詰めていきます。
「蒼い空の中でっ♪ 全てを護るせかいっ♪」
「なんでその曲をチョイスした……」
「湊二郎さまっ、それは紗由理様が私に教えてくれた初めての歌だからですよ」
「ウチの婆ちゃんがどんな人だったのか。ますます謎になっていくんだが……」
私が歌っていたのは小学生が卒業式の日に歌う曲です。普通なら歌うようなモノではなかったかもしれませんね。
湊二郎様も小学校の卒業式で歌ってましたね。
……そういえば中学校の卒業式はもうすぐでしたね。
「湊二郎様、中学校の卒業式はいつですか?」
「いや、お前来なくていい。というか来るな」
「ッ!?」
紗由理さまっ、湊二郎様が反抗期に……私は一体どのようにしたらよろしいのでしょうか……?
「どうしてもダメですか?」
「ダメだ」
「どうしてですかッ!?」
私が湊二郎様に顔を近づけて聞いてみるも、湊二郎様は私のことを冷ややかな目で見てきます。
私、なにかしましたか……?
「小学校の卒業式だ。ボロクソに泣いてたじゃねーか。卒業生よりも泣いてただろ。体育館中に響いた泣き声が恥ずかしいんだよ!」
「あー……」
そんなこともありましたね。それは大変ご迷惑をお掛けしました。どうも申し訳ありませんでした。
「でも今回は大丈夫ですよ!」
「一体どこからその自信が出てくるんだ……」
なぜか湊二郎様は頭を抱えていました。すると夕食のすき焼きが完成したようなので、私はご飯をよそい、テーブルに並べます。
「湊二郎さまっ、お肉ですよ。今日はいつもより多いですよ。お受験、お疲れさまでした」
「ああ、今日までありがとな。小雪のおかげだよ」
「いえっ、湊二郎様の努力の結果ですよ」
私はお肉や野菜などを掬って湊二郎様のお皿に入れてから私のお皿にお肉と豆腐だけを入れます。
「「いただきます!」」
湊二郎様は私のことをジッと見つめてきます。なんでしょうか? あまり見られると少し困るのですが……
「心雪、俺がよそってやるよ」
「いえっ、大丈夫ですよ」
湊二郎様が私のお皿を持っていこうとしたので、私は湊二郎様の手を掴んでそれを阻止しました。
「……心雪、お前野菜が食べられないだろ?」
私は湊二郎様の鋭すぎる言葉に声をつまらせ、沈黙の時間が続きました。
「おかしいと思ってたんだよ。1人で食べてた時よりも明らかに野菜の量が減ってたからな」
「あうっ!」
「そっか。自分は食べたくないからって俺に食べさせてたのか」
「ふぐっ!?」
湊二郎様の図星過ぎて私の心に刺さりました。
別に私だって野菜を食べられないわけではありません。ただ身体があのおぞましい野菜という植物を口に含みたくないと訴えてくるのです。
「心雪、俺が小さい頃に好き嫌いは人を小さくするって言ってたよな?」
「さ、さあ……なんのことだか覚えてませんね」
「アレってわざわざ自分の身体で調べたのか。偉いな。じゃあ検証も終わったことだし、食べようか?」
湊二郎様は菜箸で野菜を掴み、私のお皿に入れようとしてきたので、私はお皿を手で覆い、野菜が中に入らないように完璧な守り体勢に入りました。
「やけどするぞ」
「無駄ですよ。湊二郎様がなんと言おうと私はこの手を絶対に退けたりはしま━━━━むぐっ!?」
私がお皿を覆っていると湊二郎様は菜箸を私の口の中に入れてきました。
私はそのまま意識を失い、その場に倒れました。
「きゅうぅ……」
「マジかよ」