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第五話 タダでは動きませんよ?


 私と湊二郎様は共に朝食を済ませると柚葉ちゃんと多久郎さんが帰られるとのことなので、玄関までお見送りをしました。



「またいらしてください。湊二郎様が言う限り、いつでも歓迎致します」

「心雪ちゃん、ありがと。じゃあな湊二郎。また明日!」

「ああ、またな」



 柚葉ちゃんと多久郎さんをお見送りすると湊二郎様が居間でお勉強を始めたので、私は台所へと向かいました。

 私は食器洗いと洗濯があるので、湊二郎様がお勉強をしてる間に済ませてしまいましょう。


 食器を洗い終えると私は裏庭に流れている川で湊二郎様の衣類をキレイに洗います。



「そろそろお湯が沸く頃ですね」



 台所に戻るとちょうどお湯が沸きました。私はやかんを鍋つかみを使って持ち上げ、お湯を茶葉の入った急須(きゅうす)へとゆっくり注ぎ込みます。

 少し経ってから私は湯飲みにお茶を注ぎ、湊二郎様に差し出します。



「湊二郎様、お茶です」

「ああ、助かる」

「調子はいかがですか?」



 湊二郎様は今年、高校受験をするため、例年より多くお勉強をしております。

 私は湊二郎様の近くに居たいのですが、お勉強の邪魔をしてはなりません。

 私にできるのは湊二郎様の体調管理とわからないところをお教えすることだけです。



「ここの問題なんだが……」

「コレですね?」



 湊二郎様は私に問題集のわからない箇所を見せて訊ねてきます。

 私はすぐに脳内で答えを模索し、考えられる限りの知識を使って暗算します。



「この分数の数列は分母毎に計算してみると良いですよ。例えばここをこうすると……」



 私はペンを持って1つ1つ、丁寧に教えます。



「こんな感じです。いかがでしたか?」

「ありがと。助かったよ」

「はいっ、どういたしまして」



 私は小さく笑いながら返事をして時計を見るとお買い物に行かなければならない時間になっていました。



「では私はこれからお買い物に行ってきますが、なにか食べたいものはありますか?」

「じゃあ……フルーツポンチ食べたい」



 湊二郎様がフルーツポンチを食べたいなんて珍しいですね。いつもなら林檎とか仰るのに今日はフルーツポンチですか……



「ふふっ、わかりました。デザートはフルーツポンチにしましょう。では行ってきます」

「いってらっしゃい」



 私はお財布と買い物かごを持ち、下駄を履いて玄関を出ました。



「ここからがまた遠いんですよね……」



 私は苦笑いをして歩き始めました。家から商店街はとても遠く、辿り着くには小一時間ほど掛かってしまいます。

 そういえば長老がお呼びでしたね。荷物が重くなってしまうと大変なので、先に寄ってしまいましょう。



「(遅いぞ)」

「おはようございます。長老」

「(心雪、これから商店街に行くようじゃな。それならコイツをパン屋の婆さんに持って行ってくれ)」



 長老が出してきたのは袋一杯に入ったキノコ類でした。

 これはまたいいように遣われてますね。



「構いませんよ。もちろん無料(タダ)では動きませんけど?」

「(……チッ)」



 舌打ちですかッ!? もういいですっ! こんな人の頼みまで聞く必要ありませんッ!

 私はその場を立ち去ろうとしますが、長老の手下たちが私の前に立ち塞がりました。



「「「「(行かせませんッ!)」」」」



 ……なるほど。今回はこの子たちに取っても重要な案件というわけですか。



「邪魔です」

「(ここから先は!)」

「(通さないニャ!)」

「お疲れさまでした」



 私は立ち塞がった猫さんたちを無視して商店街へと向かいました。いくら立ち塞がっていたとはいえ、所詮は猫さん。相手にもなりません。



「(心雪! 待てっ!)」



 長老の声が聞こえ、私は後ろを振り返ります。

 ようやく決断したようですね。



「どうしたんですか?」

「(わかった。心雪の願いを無償で聞いてやる。だから今回ばかりは頼む!)」



 長老たちはその場で土下座しました。長老がここまで必死なところを見るとさすがに私も悪い気がしてきますし、湊二郎様を待たせる訳にも参りません。

 無償で聞いてくれるのなら御安いモノです。



「わかりましたよ。持って行ってあげます。約束は絶対ですよ?」

「(ああ、わかっておる)」



 私はキノコの入った袋を受け取りました。ちょっと……いえ、かなり濡れていて、可能な限り触りたくありません。速達しましょう。



「では長老、また今度」

「(ああ、頼んだぞ)」



 私は急ぎ足で商店街へと向かって行きました。


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