第十七話 湊二郎様のご両親ですっ!(1)
俊太郎様からのお手紙を湊二郎様にお伝えするために急いで家へと戻りました。
「湊二郎さまっ! 俊太郎様からお手紙が来てますよっ!」
俊太郎様は紗由理様の息子様……つまり湊二郎様のお父様です。普段は滅多に手紙を寄越さないので、それほど重要だということです。
私は湊二郎様にお手紙を渡すと、湊二郎様は手紙の封を切り、中身を渡してきました。
読んでくれということなのでしょう。私は手紙を開いて読み始めました。
「『湊二郎と心雪へ、3日後の昼に会社の都合で小春と一緒にそっち行くから駅までお迎え頼む。心雪、すき焼き食べたいからよろしく』とのことです」
俊太郎様の手紙は乱雑過ぎます。全く成長していないようです。
それはともかく、姉様も来るのですか……またややこしくなりそうですね。
私は苦笑いをして手紙を閉じると湊二郎様が私に訊ねてきました。
「手紙短っ!? そして軽っ!? というか3日後って何時だッ!?」
湊二郎様に聞かれたので、私はお手紙の発送日を計算してみました。
ここは田舎なので都会からのお手紙は最低3日掛かります。なので……
「今日ですね。夕食の買い出しも必要なので、ついでに駅まで寄って行きます。湊二郎様はご自分のお部屋を綺麗に片付けておいてください」
「……そうだな。じゃあ頼む」
私は湊二郎様に見送られて商店街へと向かいました。
湊二郎様のお部屋は昨夜、湊二郎様が探しものをなさっていた時に散らかして、そのままになっています。湊二郎様が1人でお片付けできるのかが心配ですが、押し入れに押し込むぐらいならできると思います。
「牛肉を貰えますか? いつもの2倍」
「心雪ちゃんの家にお客さんでも来るのか?」
「はいっ、今日来ると手紙に書いてあったので」
私はお肉屋さんと軽い世間話をした後、野菜屋さんと魚屋さんにも寄って、数日分の買い出しを済ませます。
全て買い終えると、駅の方に向かってお二人を迎えに行きます。
「……なにをしてるんですか?」
「心雪、久しぶりだな。1日放置されたこっちの身も知らずによくそんなこと言えるな」
俊太郎様は姉様と草むらで横になっていました。私が訊ねると昨日来たような感じでした。どうやらお手紙よりも早く来てしまったみたいですね。
「お手紙なら先ほど届いたばかりですよ。きちんと計算してから出してください。姉様も確認ぐらいしてください」
「私に言われても困るわ。俊太郎が1人で勝手にやったことだもの」
この私と同じ銀色の髪に碧い目を持つ獣耳の少女は私の姉です。施設に居た頃からあまり話す機会も無かったので、姉様と呼んでますが、どちらかというと人生の先輩という感じがします。
そんな姉様は湊二郎様のお母様です。最も、母親らしさなんて微塵もありませんがね。
「少しぐらい成長していて欲しかったですね」
「失礼なッ!? 見ろッ! この筋肉をッ!」
何もない筋肉を見せてポーズを決めている俊太郎様。こんな人を湊二郎様にお見せしなければならないと考えると、先が思いやられますね。
私は俊太郎様に近づいて買い物かごを持たせました。
「その筋肉は有効に使ってあげますね」
「重っ!?」
「もう1つありますよ」
「ちょっ!? ヤメッ!?」
私は俊太郎様に買い物かごを持たせて、姉様と家へと向かって歩き始めました。
「相変わらず仲良しですね」
「心雪はどうなのよ?」
「え? 私ですか?」
姉様に訊かれて私はどうしたら良いのかわからず、ただ俯いただけでした。
しかし、姉様はまるで私の心を読み取ったのかその口を開きました。
「バカみたいね」
「え?」
「男なんてエッチなことすれば一発よ。私だって……いえ、なんでもないわ」
姉様は少し顔を赤らめて視線をどこかに逸らしました。
でも、私には1つの疑問が浮かび上がりました。
「えっちなことってどんなことですか?」
私がその質問をすると姉様だけでなく、荷物を持たされている俊太郎様も深いため息を吐きました。
「キスとかでいいんじゃね?」
俊太郎様の言葉を聞いて、以前私が温泉で湊二郎様にキスしたことを思い出してしまい、顔を赤らめました。
「ふむふむ、心雪からの俊太郎への好意は充分と……」
「ちょっとメモしないでくださいっ! というか買い物かごを地面に置かないでくださいっ!」
私は俊太郎様に軽く注意して、俊太郎様が重いと言っていた買い物かごを持ちました。
ちなみに荷物は全然重くないですよ。女の私でも余裕で持てるぐらい軽いです。俊太郎様の筋力が弱すぎるだけです。
少しは運動ぐらいして欲しいものです。
「お家はもうすぐですので、早く行きましょう」
私は姉様と俊太郎様を連れて家へと向かったのでした。