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第十四話 私と湊二郎さま。


 湊二郎様がお茶を購入して戻ってくるとちょうど鉄道が到着しました。



「湊二郎さまっ、参りましょう」

「ああ」



 私と湊二郎様は鉄道に乗り、向かい合う席に座りました。

 すると、鉄道は扉を閉めてゆっくりと動き始めました。



「鉄道に乗るのは久しぶりですね」

「この街に来た時以来だな」



 鉄道は私たちの住む街を離れて行きます。本を何冊か用意しておきましたので、これを読んで時間を潰そうと思います。



「湊二郎さまっ、こちらを」



 私は1冊の本を湊二郎様に渡します。



「こんなモノしか渡せなくて申し訳ありませんが、お誕生日プレゼントです」

「コレは……医学の本か。心雪、ありがとう」



 湊二郎様に笑顔で言われてしまい、恥ずかしくなった私は湊二郎様から目を逸らしてしまいました。



「にしてもよく見つけたな。この辺だと全然見つからなかったのに……」

「柚葉ちゃんに頼んで、本屋さんで取り寄せて貰ったんですよ」



 取り寄せてくれる本屋が中々見つからず、結構苦労したんですよ。柚葉ちゃんが。

 ……帰りにでもお土産を買っていってあげましょう。


 そして、そのまま鉄道の中で時を過ごし、目的の駅に着きました。



「心雪、ここって……」

「湊二郎様は来るのが初めてですね。ここは私が産まれ育った街です」



 この街を離れてもう90年経つというのにほとんど変わってませんでした。

 私は湊二郎様を連れて紗由理様のいる場所へと向かいました。



「湊二郎さまっ、紗由理様のお墓ですよ。最後に来たのは16年も前だったので不安でしたが、街があまり変わってなかったので助かりました」

「婆ちゃんのお墓……」



 私はお墓に花を入れ、お線香に火をつけます。



「湊二郎様」



 私は湊二郎様にお線香の半分を渡します。お線香を受け取った湊二郎様はお線香をあげました。そして、湊二郎様が御祈りするのを終えた後、私もお線香をあげました。



『紗由理さまっ、「愛おしい」ってなんですか?』

『説明はできないけど、いつか心雪にもわかるようになるよ』



 私の中で懐かしい記憶が蘇ってきました。私が紗由理様と一緒に過ごした大切な記憶。私の宝。

 すると紗由理様との記憶がより鮮明に、多くの思い出が蘇ってきました。

 私は堪えきれずに涙を流し、その場に手をついてしまいました。



「ううっ……さゆりさまっ、()()は紗由理さまに会いたいですよぉ!」

「心雪……」



 それから1時間ほど私は紗由理様のお墓の前で泣きぐしゃりました。

 最後には湊二郎様が私の頭を撫でてくれて、そのまま湊二郎様に泣きついてしまいました。



「湊二郎さまっ、ご迷惑をお掛けしました」

「俺は婆ちゃんと心雪のことはよく知らないけど、心雪が婆ちゃんを大切にしてるのはよくわかったよ。婆ちゃんもそれが分かれば天国で笑ってるだろ」

「湊二郎さまっ……」



 湊二郎様は笑いながら手を出して、私のことを見てきました。



『心雪、湊二郎を頼んだよ』



 ……そうでしたね。紗由理様にはもう会えませんが、私が今すべきことは湊二郎様のお世話です。紗由理様の最後のお願い。これを無視するわけにも参りませんね。



「はいっ、そうですね!」



 私は湊二郎様のお手を取り、二人で駅へと向かったのでした。



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