第十一話 結果的には大勝利……でしょうか?
私は湊二郎様と温泉に入るため、湊二郎様が服を脱いだのを確認してから湊二郎様の服を回収し、縁側の方へと走りますが、湊二郎様の方が速くてすぐに捕まりました。その際の時間は五秒にも満たない非常に短い時でした。
「おい、なにしてる?」
「湊二郎様が一緒にお風呂に入ろうと言ったんじゃないですかっ! だから私は覚悟を決めて湊二郎様を温泉に誘ったんですよっ!」
「え?」
全く身に覚えがない湊二郎様は目を泳がせていました。ですがこれは事実です。湊二郎様は確かに「一緒に入るか?」という使用人にとっては拒否権のない言葉を投げ掛けたのですから。
「言葉は上手く変えてそうだが、嘘ついてるようにも見えないし……言ったのかな?」
湊二郎様って意外と鋭いですね。どこでそんな技術を学んだのですか。
「じゃあ入るか」
「えっ!? そ、湊二郎さまは変態なのですかっ!?」
「つべこべ言わずに行くぞ」
湊二郎様は私の手を引いてお風呂場まで向かいました。
そして、絶妙な空気が漂い始めました。
な、なにかお話をしなくては! で、でも何を話せば……!? あっ、でも恥ずかしいぃ……
「(勢いで誘ったけど、なんというか気まずい。でも心雪ってこんなに……)」
湊二郎様からの視線が凄いです。これは見られてますよ。私の身体、湊二郎様に見られてますよ! 私はいったいどうしたら良いのですかっ!?
「と、とりあえず身体洗ってくれ」
「は、はいっ! ただいまっ!」
私は湊二郎様を椅子に座らせ、タオルで湊二郎様の身体を綺麗に洗います。いつもより入念に。こういう時でないとできませんから。
湊二郎様の身体を綺麗に拭いた後、今度は自分の身体を拭きます。
そして、温泉にゆっくりと浸かりました。
「湊二郎さまっ、気持ちいいですね……」
「そうだな。たまにはこういうのもアリだな……」
湊二郎様が空を見上げながら呟きました。その呟きを聞いた私は顔を赤面させて湊二郎様から距離を取りました。
「そうやって私とお風呂に入ろうとするなんて湊二郎さまのヘンタイっ! スケベっ! ええっと……じ、児童ポルノっ!」
「言葉を模索するな」
「あうっ!」
湊二郎様は私の頭を軽く叩きました。私は頭を抑えながら湊二郎様の横に移動して、湊二郎様と夜空を見上げました。
「綺麗ですね……」
「ああ、そうだな」
ただ空を見上げてボーっとするだけで時間が過ぎていきました。
湊二郎様は私にキスをしてきません。女の子を待たせるのはよくありませんよ。って私が勝手に期待してるだけですけど。
私はそろそろ上がろうかと思い、立ち上がろうとするとうっかり足を滑らしてしまいました。
「きゃっ!?」
私はその場で転びましたが、なぜかとても柔らかい感触があったのです。
この感触は以前にも味わった、あの温かいものでした。でも、以前よりも段違いのぬくもりでした。
「心雪、大丈夫か?」
そして、その優しい声にも聞き覚えがありました。私は肩をピクリと震わせ、恐る恐る顔を上げると湊二郎様の顔が近くにありました。
しかも、密着度も以前とは話になりません。私の心臓がドキドキと波うつのがハッキリとわかりました。
「こ、心雪……?」
「湊二郎さまっ……ごめんなさいっ!」
私はその一言を放つとそのまま湊二郎様の口唇と私の口唇を重ねました。
そして、私は気を失ってしまったのでした。