第四章[B.H.S.D作戦]第六話
それは唐突なことだった。
[レヴァナント]が動く。その巨体の脚が地を離れる。背部の計二十九枚の板が蠢く。半数は地の端に突き刺さって肥大化し、もう半分は仮初の羽を形作る。
足元の隊員たちはそれに気づきつつも、他のデザイアへの対処で忙しく対応できない。
それをいいことに、[レヴァナント]はゆっくりと浮かび上がる。
「この!」
数秒後。唯一反応できた誰かが砲撃を加える。しかし、デザイアの装甲は立った一発のその攻撃を通さない。その威力はかなり高いものであったのに、だ。
ブゥゥン
赤い二つの瞳が動き、隊員を見下ろす。無機質の中に破壊の意思を宿したそれは、見る者を恐怖で固まらせるのには充分だった。
「ひっ!?」
半壊したパッケージを纏う隊員の顔がこわばる。
対して[レヴァナント]はすぐに興味を失ったかのように視線を別の場所に移動させる。その目に映るのはデザイアの軍団と戦闘中のクローディア、以下艦艇群。武装を展開し、[インパクター]などとぶつかり合うそれらだ。
その周囲ではタクティカル・パッケージが武装を放ち続け、爆発の光が空を彩っていた。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン
腕の巨大な砲が持ち上がる。そこに光が収束する。
同時にその身は完全に空に上がる。地は未だ戦場。そこからデザイアは離脱する。
そして[レヴァナント]は見据える。その対象は艦体の中心、クローディア。腕を振りかぶり、デザイアに幾度となくパンチを見舞うこの戦場最大のサイズを誇るそれだ。
砲を前に向け、[レヴァナント]は態勢を変え、一気に。
加速した。
「な、[レヴァナント]が接近してくるごわす!」
「なぬ!?あれには飛ぶ機能なんぞなかったはずじゃぞ!?」
「いえ…………飛んでるのではなく、斥力場か何かを発生させてそれで浮かび、力場を使って加速し、背の板で滑空してるんです!」
「全説明ありがとうな。ま、それもあり得ないはずなんじゃが。よく分からん存在じゃし、突然変異的な何かかの。とにかく対処じゃ」
そう言ってアメヴィスは操縦桿を握りなおす。彼女のモニターに映るデザイア群を見、その最奥に見える[レヴァナント]に狙いを定める。
「行くぞ!」
クローディアが腕を引く。同時に艦体各部から一気に武装が放たれる。
狙ったわけではないが、[レヴァナント]を狙っていた攻撃は、いくつかデザイアを撃破する。
「お主ら、残りの[インパクター]を頼むぞ。そちらが撃破し、こちらが倒せば後は火力に物を言わせた攻撃で相当すればこの戦場突破じゃぞ」
『お――――――――』
艦体に指示を飛ばすアメヴィス。その最後の言葉に、他の艦の者たちはここでの戦いの終わりが見えてきたことに沸く。
そしてクローディアは艦隊を離脱。同じ行動をとった[レヴァナント]と対峙する形になる。残りは今なお砲撃を続ける[インパクター]らとだ。
「おお、そうじゃった。アーマード部隊を下がらせる準備をするのじゃ」
このように状況が変化してくるとアーマード・パッケージ部隊があそこで戦い続ける理由がなくなってくる。そもそも撃破対象は[レヴァナント]。それが離れてしまった以上、意味がないのだ。あのデザイアだらけの戦場にいつまでもとどまっていては彼女等の身が持たない。
「ここで[レヴァナント]を潰し、次へ繋げるぞ」
「イエス!イエス!」
「了解っ!」
クローディアは手の状態を確かめるかのようにそれをゴキゴキと動かす。頭部に当たる部分がブゥンと光を増し、迫るデザイアの姿を映す。
「戦闘開始!」
「はぁ………はぁ………」
「もう、無理かも………」
結と凜華は互いに肩を貸しあって物陰に座り込んでいた。よくもまあデザイアの地にそんなところがあったものだが、とにかくあったのだから利用しない手はない。そこで二人はパッケージを解除、再展開して後、戦闘の疲れを癒していた。
デザイアの数は度重なる戦闘で初期の二割程度にまで減少していた。少しの間、身を隠していて気づかれない程度にはなったのだ。
それでもまだ危険は十分にある。あまり油断はできない。できないのだが、体は休みたいという希望を是が非でも押し通す気のようだ。彼女等の体は全く言っていいほど動かなかった。疲労は溜まりに溜まっている。
「間違ってもそのまま寝ないでくださいね」
「それは………大丈夫」
「うん…………」
「眠そうじゃないですか!?」
疲労が蓄積している以上、体は眠りたいと必死に叫んでいる。それに前線にいるという意識で対抗し、目を開けている両名だった。
しかし、今彼女らの、デザイアとの戦闘が止まってから数分。睡魔の囁きは彼女等を眠りの領域へと誘おうとしていた。
「………う、う~ん」
「………ううう~ん」
「本当に危ないじゃないですか!眠気に負けないでください!」
その時だった。
ザッ
「「………?…………!…………」」
デザイアの一体がぬっとその姿を現す。
種類は球体に四つの脚と四つの機銃のような物がついたもの、迎撃型[インターセプター]である。最初期に確認されたデザイアの一種で、それなりの装甲と機動力を誇っているものだ。そしてまだ無傷のようである。
「来ちゃいましたよ!」
「あ……」
「うん……」
「眠いんですね!?命の危機なのに!?」
[インターセプター]が動く。球体の上につく機銃もどきを結と凜華に向ける。それを見た結と凜華は。
「「眠い」」
………………?
デザイアはそのやる気のなさに呆れたのか一旦動きを止める。また数秒後動き出す。だが、それだけあれば十分だった。
ブゥゥゥンガッ!?
「「ふぁ」」
「何か今までで、一番余裕にあしらった気がするんですが」
「「?」」
結と凜華が構えていたのは刺装小砲[貫]、重奏砲[穿]だ。それが[インターセプター]の中心を打ち抜いたのだった。
ゼロとは言わずともかなりの至近距離。それで二人で同時にほぼ同じ場所を攻撃すれば装甲が厚い方でも貫通させることはできる。
そしてデザイアはあっさりと撃破され、光と消える。
「圧倒的カマセ感……何のために出したんだろ……」
「扱い雑だったってことですか?マスターたちが瞬殺したんじゃないですか」
「まあ、そうだけど」
「デザイア倒したいのにとにかく眠い………」
そうして十数秒。本当にどうでもいい会話を続けていた時だった。
「いつになったらここのたたか」
ドゥンンン!!!!!!!!!!!!!
突如、結たちの隠れていた物陰、それを作っていたものが内側から爆ぜた。
驚いた結と凜華は思わずスラスターを全開にして距離をとる。
「な………」
「に………」
ブゥゥン
「デザイア!?」
「じゃぁこれって…………」
このデザイアの地に何でもないただの物が在るわけがない。当然デザイアと関係があるだろう。その可能性は一応結たちの頭の中にはあるにはあったが、それを考慮して行動できるほど余裕がなかった。今はつかの間の休息である程度回復している。余裕は多少できた。
ガンッ!
二度目の襲撃者が地を踏みしめる。
「これは………」
そのデザイアは銀の装甲を持ち、青い発光部分を持った、ロボットの様な見た目の中型だった。肩が大きく、その先についている腕の先端の五指の手はゴキゴキと動いている。
「ここに来て新しいの登場させるなんて………」
ブゥゥン
バイザー型の頭部が緑色に光る。
今までに見ない妙な雰囲気を持つデザイアを警戒する二名。
一見すると丸腰のようにも見えるが、そんなわけはないだろう。何かしらの機能を確実に持っている。
「何かしてくる前に早く撃破するよ!」
「うん、結!」
結と凜華。彼女らはそれぞれ別の方向へ。互いに射撃武装を構え、新型デザイアを見据える。
「「食らえ!」」
同時の叫び。それぞれの武装から弾丸が発射される。
その間デザイアは動かない。本当に、身じろぎ一つしない。
弾丸は突き進む、デザイアの胸元を狙って。そして、そして、デザイアは。
ガンッ!
「「「え!?」」」
攻撃を防いだ。
結、凜華、ミューティの間に衝撃が走る。攻撃の直前まで、デザイアに動きはなかった。なのにデザイアは攻撃の防いだのだ。一体どうやって…………
「あっ」
「何か気付いたの?」
「あれ」
凜華が指をさす。その先にはある物体。楕円形に五つの、三の節をもつ物体を取り付けた灰色のもの。つまりデザイアの手だった。
「あれで防いだの………?」
その手は手首の付け根から出たワイヤーのような物で接続され、宙に浮いている。それで防いだという事は、それは高速で動けるという事だろう。何をしてくるか分からない。要警戒だ。
そう結たちが考えた時だった。
ブゥゥン
動いた、その手が。
その動きを警戒し、近接武装を手に取る結たち。しかし、次に来た攻撃は想定外の物だった。
「な!?」
「これは!?」
衝撃で思わず声を上げる。
デザイアはバイザー型の頭部を威圧のためか緑色に光らせた。




