第四章[B.H.S.D作戦]第三話
数分後。
一つの光の奔流が海を駆け抜ける。[グレイプニールⅡ]発射の光だ。結界はどうにかデザイアの攻撃を防ぎ切ったのである。だが相当な威力だったため、結界は防御達成と引き換えに崩壊してしまった。
「いくぞ!」
「イエスイエス!」
クローディア、以下量産艦艇が戦闘形態に移行し、発進する。その無数の巨体が矢じり型に並びを変えていく。先頭にあり、先陣を切るのは当然ながらクローディア。
その巨腕が戦闘の意志を示すかのように打ち合わされる。
ブリッジのモニターがオレンジ色に変化する。
次いでそれまでその姿を現さなかった部位がその真の姿を世界にさらす。
クローディアの装甲という装甲をスライドさせて出現したのは計40のカタパルトだ。側面に15、艦体上部の背部に25。前者はタクティカル・パッケージ、ストライク・パッケージ用、そして後者はアーマード・パッケージ用。
普通であるならば半生身のアーマード・パッケージ装着者を打ち出すなんて論外でしかないが、迂闊に個々人で出ても海上ではどこから攻撃が来るかもわからず、危険が大きすぎる。出撃時の速度も遅いため、被弾率は上がる。そして海上のデザイアは陸の者より遥かに強い。
もしそうでなかったならば、パッケージを一定数揃えた時に臨海の奪還ぐらいはできただろう。だがそうではない。まず、あれらは大きい。[インパクター]程ではないにしろ、だがそれでも[エクスマキナ]より大きい。確認できているのは[レヴァナント]と[インパクター]のみなのでさらに巨大なものも存在するかもしれない。
とにかく。危険が大きいのでそのまま出すなど、これこそ論外である。
「発進準備はできておるな。一気に加速するぞ。デザイアと会合したら即出るのじゃぞ」
アメヴィスが艦内に指示を響かせる。手元にある放送用のスピーカーを使ったのである。
しかしまだ敵に遭遇していないのにカタパルトを開くとはどういうことか。尋ねるまでもない。アメヴィスが格好いいと思ったからである。
確かに地下格納庫に在った時ののっぺりとした無機質な見た目より、現在の展開できるありとあらゆるものを展開した現在の方が派手かつ、デザイン性がある。
アメヴィスはロボと同じく変形するもの大型物体は全て好きなのである。
結たちは出撃に備えてアーマード・パッケージ用のカタパルトのある場所、艦の上部区画へ向かう。ミューティやパールは使用パッケージの種類が違うために別の区画へ。
「デザイアは私が倒す」
「……結ってこんなだったっけ。う~ん?」
凜華の獣耳が疑問でぴくぴくと動く。
結の雰囲気が随分と重くなった言うかなんというか。
やや堅物感が増した。
「う~ん、ほいっ」
「ひゃっ!?」
普段こんなことなどしないが、随分と結が様変わりしていたので、今までの感じが残っていないか首筋を撫でて確認する凜華。
「な、何するの凜華!?」
急な凜華の行いに驚く結。割と普通の反応が返ってきた。
結は顔を赤らめている。
「そんなに硬くならなくてもいいのに。ね?不安抱えてるんだったらいってね」
「う、うん」
「うん?……なんで遠慮気味?もしかして、信頼できない?」
「そんなこと……!」
「ならいいよ。ふふ。いこ!」
「え」
凜華は特に怒っていない。結は軽くからかわれたようであった。
凜華は結を追い越し、先に笑って進んでいく。
「待って!」
元は彼女の前にいた結が、今度は凜華の後を追う。
加速するものが複数。それらは背部の羽根型のユニットを広げ、高速で海上を駆け抜ける。その余波で海水が巻き上がる。まるで海の表面を巨大な棒でも直進しているかのようだ。
ブゥゥン
それらの大きな一つ目が光る。今は機首となっている両手区部の先端がガキゴキと動く。赤い光が尾を引き、あふれ出た光が海の表面を鮮やかに装飾する。
これらはデザイア、遊撃型[ディーヴァ]である。高速で相手を翻弄する強力なデザイアがクローディア艦隊の発進の少し前にその拠点たる[レヴァナント]から出てきたのであった。これは攻撃の第二陣だ。
恐らくまだ後続は出るが、これが砲撃後最初の攻撃隊であることは間違いないだろう。
そして、クローディア艦隊は列から外れたはぐれ[レヴァナント]に近づいていく。
「これが……」
「格納庫、ね」
豪速でクローディアが海を割いて艦隊を引き連れ、航行している最中。
結たちはアーマード・パッケージ用のカタパルトを見ていた。
格納庫はなく、ただ広い直方体の空間に、とこ狭しと並ぶ金網の檻。いや、檻と言っては語弊があるかもしれない。見た目こそそんな感じだが、それらは昇降用のエレベータである。そこにパッケージ装備状態で乗るのである。金網は中が見れるようになっているシャッターだ。
「圧倒的、ガ・レージ・感!」
それを見て片目を抑えてくつくつと笑う魔人種がいた。
「な、何か……」
「癖が強いね」
が、気にすることでもないだろう。
その時。
『総員戦闘体制じゃ。来たぞ』
艦内にアメヴィスの声が響き渡る。
言葉通り、会敵の合図だ。
同時に艦内が赤くなる。
アメヴィスの言葉を聞いたヴァルキュリアス隊員は全員、デザイアのとの戦いのため。アーマード・パッケージを纏い、タクティカル・パッケージに乗り込み、ストライク・パッケージに憑依する。結と凜華も例外ではない。
「結……ってあれもう展開してる」
凜華が言ったときには、既に結はアーマード・パッケージ、ARPX-03改弐[ブレイドプリンセス]を纏っていた。純白の装甲が艦内の明かりを受けて輝く。
「それじゃ、行こう」
「あれ。今度は逆に先に行かれてる」
凜華も、言いつつARPX-16[影華]を展開する。
次に行う行動はただ一つ。エレベーターに移動し、出撃する。
「じゃ、私はこっちに」
「うん」
二名は自分の行く方を指さす。凜華は最も近い位置にあるものを、結はその向かい側に在る物を選ぶ。
計25のエレベーターにはアーマード使用者による長蛇の列ができていた。
別に結たちだけがアーマード・パッケージを使うわけではないから当然だ。
数はエレベーターを超えるが、これの設置数にも限度がある。他にも作るものがある以上、刻印術式で作れる数は制限される。
「もうあんなこと」
パッケージという鎧に体を包み込んだ結は、ガントレットを握り締める。
思い返すのは[爆砕者]襲来時のこと。もうあんな事態を起こさないためにも、その他の事も思い、結はデザイアとの戦いへの意志を固める。
そして結の番がくる。
シャッターは既に上がっている。後は降りてくる固定台に乗り、体を固定し、出るだけだ。
結は進み出て固定台を待つ。数秒後に台がゆっくりと降りてくる。
それを見、結は飛び上がってそれに乗る。
脚部装甲が台の側面から延ばされたアームに固定され、アームドユニットが台底のスペースに収まる。この台は様々アーマード・パッケージ用に複数の突起や、凹み、アームが取り付けられている。
次いで結を固定した台は昇降用の用途の通り、上に上がる。ここから一気に真上に飛び出す、というわけではない。それでは格好の的となってしまう。だからもう一段階踏み、直上ではなく、真横に勢いよく飛び出すのである。
そのもう一段階とは。
「こんな風になってるんだ」
上り切った台。その先には長方形の小型のカタパルトがある。新たにアームが出てきて結をそれまでのアームの代わりにつかみ、カタパルトに彼女を倒す。結はアームドユニットの前半分を前に持ってきて手の置き場とする。後ろ半分のアームドユニットは側面に移動し足を横から支える。体勢は整った。
最後にアームが結をカタパルトのデッキに置く。これが勢いよく動けば、結は外の世界に打ち出される。
「後、少し」
アーマード・パッケージを扱う者たちの役目はレヴァナントの攻略である。海上戦では個人で戦うなど全方位敵だらけで危険しかないが、一直線に飛び、敵の懐に潜り込むには軽く小さい分、適している。
[レヴァナント]は強力なデザイアだが大きい分、懐に入られると対処が送れる。タクティカル・パッケージで接近すると気取られるうえに、標的が大きいため、普通に迎撃される結果に終わってしまう。だがアーマード・パッケージならその心配はない。
「結、出ます!」
結の声が狭い空間に反響する。
それを合図とし、カタパルトから結が勢いよく打ち出された。
カタパルトからは火花が散る。結の機体を押し出したためである。
結は衝撃を分散させるため、円錐を回転で再現し、アームドユニットを下半身に持ってい生き、加速する。
デザイアを倒すため、結は純白の鎧をまとい、スラスターから出る光の尾という翼を広げ、飛翔する。
対するデザイアらはそれぞれの眼に当たる部分を赤く光らす。まるで挑戦を受けてやろうとでも言っているようであった。




