第三章[休みとトラブルの一週間]第五十六話
「ピ、ガガガ」
「無理をさせていることなど理解している。許容数の五倍近い数を同化させているからな。だがそれでいい」
「ガガガ……」
「最終的には自爆させればよい。それでこちらに影響を与えた者の片方は消える」
「ワタシの観察者を利用して開門者を使うなんてな、アハッ!何やってんだ!」
「……いいだろう?」
「よかねぇよ!」
「だがすでに送った。諦めろ」
「カッ!」
「……うがが」
「イグジスターも何か言えよ!」
「ピガッガッガ」
「ッチ。他のもう一つの奴とやらを狙うと……するわけねえだろ!」
「もう一度言う。諦めろ」
「は!」
「俺様がやる」
「ヴィーヴィルが行くらしいよ~!」
「そうなのね」
デザイアの繭の少し上。
封鎖、隔離された階層の上。
白銀を見下ろす者たちがいた。
ヴィーヴィル、日花里、アクエリア、プリズムハート、以下十数名。
二日前に起こったデザイアの地下パッケージ格納庫同化案件。
発生数分後に、階層との連絡途絶からその事実が判明した。
基地の指令の命で、その他の者が繭の破壊を試みるも失敗。
パッケージの攻撃は結たちの例と同じく一切通用せず。
魔術によるものもその例に漏れず。
デザイアは今なおもそのまま。
だがそれを放置しておくのはあまりにも危険。
いつなん時動き出すか分からず、どれほどの脅威かを量ることも不可能。
早期の撃破が必要である。
そのため基地に在る物、または基地にいる者の力など、ありとあらゆる手段を用いて破壊実行の試行錯誤がなされている。
彼らがここにいるのもそう。
既に残されている手段は一つのみ。
ほんの少しであっても、傷をつけることができた手段すべてを一斉にぶつける。
物量で押し切るという方法である。
単純極まりない方法ではあるが、現状の手の中で最も効果的な物かつ、最良と思われる。
大規模広範囲破壊兵器を使用することも有効な手段かもしれないが、地下に向けてそんなものを撃つなど危険でしかない。
仮にデザイアを撃破できたとしても、周囲一帯は崩壊を免れず、上に在る基地もそれに連動して崩れ落ちるだろう。
それに地下の者や、海上のデザイアに対する対抗策であるクローディアを失うことになるのはまず間違いない。
見返りに対して犠牲が大きすぎる上に、その見返りはないかもしれない。
故に広範囲破壊兵器は使用。
この一斉攻撃も一点に対する攻撃がほとんどである。
「始めるわ。でもその前に」
「あたっ!?」
「なんでまた<神格付与>使ってるの?」
「必要だから!」
「あららら……」
アクエリアがため息をついて左右に軽く顔を振る。
プリズムハート(リリエル)は彼女の知らない時に、例のロストアームズを使用して変身してしまっていたようであった。
「やるぞ」
「どうぞ~」
日花里がパッケージを展開して飛び上がる。
武装の発射準備に左右のユニットが光る。
「ふ~」
ヴィーヴィルが竜化し、四脚のそれぞれ五つ、計二十のかぎ爪をゆっくりと動かす。
金属のごとき硬度を持つそれが、明かりを受けてギラリと光る。
その光の反射が、かぎ爪の重厚感を演出する。
アクエリアは自身の神器を構える。
プリズムハートはパッケージ[夢想者]を展開して武器である槍を。
他十数人も各々準備する。
様々な力の発動が十秒前後ほどの時間まで迫る。
「これで終わりかの」
アメヴィスが額の汗を拭く。
二日という長い時間をかけ、ようやく[弩級可変攻撃空母]一番艦クローディアの整備は完了した。
剥き出しであった箇所は全て、刻印術式によって形作られた装甲によって覆われている。
箱のような飾り気のない鈍い色の見た目。
脅威の硬度を誇る巨体。
一見すると何の武装もないように見えるが、重厚な装甲内部に無数の武装が隠されている。
格納庫もかなりのサイズの物が存在し、デザイアの出現前にすでにかなりの数のパッケージが積み込まれている。
これについては今回は使用されることはない。
既に効果がない事は証明済みであるからである。
「さて。ではやるかの」
アメヴィスたちがいるのは超重装甲に包まれ、守られたブリッジ。
その中は薄暗い。
中心に通路へ出るための扉。
周りにオペレーターたちのための座席。
扉の直線状に在る艦長用の座先。
それを取り囲むように幾つかの計器が設置されている。
そして、その真ん中。
座席の正面に設置されているのは大仰な物体。
操縦桿である。
「それ」
アメヴィスがその席に座り、ヘルメットをかぶる。
しっかりとヘルメットの固定ができたことを確認すると、彼女は操縦桿を握る。
「まさか作戦前にやることになろうとはな。じゃが……」
彼女が正面を見る。
ブリッジの正面には、装甲が見えるほど透明度の高い素材で作られたモニターがある。
途轍もなく巨大な。
左右にもサブモニターが存在している。
「アメヴィス様~。いくよん?」
「でごわすか?」
「うむ。いくのじゃ」
「イエスイエスーー」
ブリッジにいる者たちが一斉に作業に取り掛かる。
「では起動じゃ!」
アメヴィスが笑う。
「了解よん!」
艦体が震える。
多数直結型マナブーストジェネレーターが大量の魔力を吐き出す。
艦各部に流れる魔力の量が一気に上がる。
それによって振動が起こっているのだ。
「起動完了である!」
「イエスイエス」
艦体の各部がうっすらと光る。
魔力の影響であろう。
「では変形じゃ」
「やるの?やるの!」
弩級可変攻撃空母の“可変”の名の通り、クローディアは変形機構を持つ。
「それ!」
掛け声。
それと同時にアメヴィスが左右の操縦桿についている五つのボタンをすべて同時に押す。
同時にブリッジが明るく照らし出される。
光の出所は正面のモニター。
これこそは変形の合図だ。
艦体の一部に直線状に光が走る。
線が現れた部位がゆっくりと分かれる。
前面の上部がゆっくりと上に上がる。
上がった装甲が二つに分離。横にスライドした後、高さが元の位置に戻る。
それを合図とし、二つに分かれた装甲の先が開く。
出来上がったのは五つの指。
装甲は既にただの装甲ではなく、余りに巨大な腕へと変貌していた。
そして腕のあった部分には出っ張った構造物。
六角形を半分にしたような形で、装甲の下に沈む下部には透過性の高いモニター。
アメヴィスたちのいるブリッジである。
それがゆっくりとせり上がる。
ガコンという音とともに止まるそれのモニター部がオレンジ色に変化する。
戦闘形態に移行した証である。
続いて後部も変形を開始する。
走ったのは三つの線。
分かれるのは四つ。
持ち上がるのは四つの巨腕。
次いで側面の装甲もまた。
「これで完了じゃな」
完成したのは数分前の無機質な鈍い色の箱型と掛け離れた物。
かなり大まかなシルエットならロケットのようにも見え、細かく見ると、異形の怪物のようにも見える。
格納庫自体薄暗いので後者の性質が強い。
下から見れば強烈な威圧感があるだろう。
「では行くぞ!」
戦闘形態に移行したクローディアが腕を振り上げる。
重質量の五本指が握りこまれ、鉄拳と成る。
その単純でありながら強力な一撃がデザイアの繭破壊のため振るわれる。
「はっ!?」
何かを察知した結が起き上がる。
「食べ物……どうしたの結……?」
「何か……」
「……」
リジェネは無言。
凜華はぼんやりとしている。
結は立ち上がろうとするが、空腹で足元がふらつくため叶わず。
「何か……」
「いつからエスパーじみたことを……?」
直後。
強烈な振動が彼女等を襲う。
「あ…」
第三権能;守護
その力が結の正面で発現。
光の盾が彼女等を守ろうと展開される。
直後。
繭が爆発する。
原因は側面と上部から行われた複数の攻撃である。
白銀が吹き飛び、繭は消滅する。
次なる事象は。
「章ラスト……?」
新たなる形のデザイアの出現であった。




