第三章[休みとトラブルの一週間]第五十四話
「っと」
一分前。
転移門から地下格納庫区画に降り立った結たち。
[プラネシア]の基地の格納庫に匹敵するどころかその数倍の規模だ。
あちこちにタクティカル・パッケージが設置され、整備が行われている。
中には巨大な機体や、人型すらしていないものもある。
すでに開発されている機体のほぼ全てが揃っている。
天井は遥か高くにある。
ギリギリ人の肉眼で見えるぐらいだ。
相当深い所にあるのだろう。
ここまで広いのは建造されたある巨大艦艇を奥に置き、そこにパッケージを運び込むためである。この区画が作り上げられたとき、いつ反攻作戦が行われてもいいように広大な空間が確保されたのだ。
竜化した幻竜種が十数体いてもまだ余るほどの空間が。
因みに艦艇がある場所とパッケージを置く場所は区切られており、運び込む時は間の分厚い隔壁を上げて行われる。今は閉じているが。
『準備中ですね』
機体の片膝をついて格納庫の床に座り込むミューティ。
その足元に立つ結と凜華。
「あれ。これからどうするの?」
「……さぁ」
来たまではよかったのだが、それからどうするべきか結たちには判断しかねた。
アメヴィスが送ったメッセージには準備を行えとあったが、やれることは特にない。
機体の整備についてなら結のは強化改修、ミューティの物は完全な状態だ。
凜華のデバイスに異常がないか調べるだけだろう。
だが直前まで展開はできていたため、恐らく問題はない。
それをやってとしても、その後どうしても暇になる。
「……とりあえず移動する?」
「う、うん」
『あの私、このサイズですけど』
「でもあそこに見える通路、結構大きいけど」
凜華が格納庫の一角から見える通路を指さす。
格納庫の天井程ではないにしてもそれなりの高さ、広さがある。
幻竜種の竜化状態でさえも通れるようにであろう。
ここには幻竜種などの基礎的な戦闘力が高い者はいなかったが。
ミューティが機体に憑依した状態でも十分通行可能だ。
「じゃぁ行こっか?」
その時。
『このぐらいな』
突如格納庫に光があふれる。
中心で門形成。
両扉が生成。
枠が構築。
個別のパーツ統合。
門が完成する。
『開門者よ』
開門。
発光。
そしてそれは現れる。
ブゥン
バイザー型の頭部が赤く光る。
青く透明な部位を持った白銀の腕が伸びる。
はるか遠くまで伸びるそれは壁に触れる。
展開。
起動。
同化。
開始。
現れたそれ、新たなデザイアが格納庫の侵食。いや、同化を開始する。
ゆっくりと床に装甲に覆われた足がつき、大型の肩部がうっすらと光る。
さらに数体のデザイアが出現。
同時にそれを送り込んだ門が閉じ、溶けるように消滅。
時同じくして光も消える。
残ったのは壁と同化を進めるデザイアのみであった。
「何でいるの?」
光が収まったとき結たちの内誰かが呟いた。
ブゥン
バイザーが光る。
それを起点としたかのようにデザイアの腕が半分に割れる。
透明部位の方はそのまま。
白銀部分が自由可動するようになる。
一旦だらりと垂れ下がる其れは、その先の三本になった指をガキガキと動かす。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「……多すぎて見てたら目がおかしくなりそうなんだけど、「」が。なんか模様が見えてきそう」
呆然。
格納庫にいる者ほぼすべてが呆けた顔となる。
そんなことは気にせず(気にするということができるかは不明だが)デザイアが動き出す。
壁と同化するデザイアはその場を動かず、残りの地上高機動型[エクスマキナ]のような重装甲のデザイアがその場を動き出す。
「な!?させんぞ!」
魔人種の男一人がパッケージを即座に展開し[エクスマキナ]系デザイアに突撃する。
機体はARPX-07[ストレイフ]である。
ユニットを分離、合体することで高速移動用のバイクを構成し、それに乗って攻撃するという機体だ。
バイクの正面部位にあたる部分を装甲として胸に、後輪を移動用として両足に、機関部を背に付けた形が通常形態だ。
通常武装は腕のタイヤを転換したシールドと、同じ場所に取り付けられる格闘用のブレードである。
前者は高い防御力を、後者は高い切断能力を持つ。
因みに胸部装甲には小型のライフルが収納されている。
装甲を前面に倒して中から取り出す方式である。
そして、この機体は扱にくいが慣れれば高い性能を発揮できる。
「ふっ!」
魔人種の男が格闘用のブレードを構える。
攻撃対象は[エクスマキナ]系一体である。
ブゥン
反応が返る。
しかし、したのは……
「食らっごふっ!?」
新型の方であった。
同化した腕半分が、同化対象である壁の一部を引き剥がして横から彼にぶつけたのであった。
引き剥がしたといっても、同化は継続しているので、剥がされた壁からはデザイアから出たと思しき銀色の物体が覗いている。
「ああっと!打たれた!?」
そう言った少女が、横に吹き飛ばされた彼を受け止めようとしたが叶わず。
「おぶっ!?」
彼はまだ同化されていない壁に突き刺さった。
「おおっと!突き刺さった!」
彼女は実況しながら彼を引き抜きにかかった。
反撃と言わんばかりにデザイアが動きだす。
一度目の行動。
それは。
「げっ!?」
誰かが叫ぶ。
新型がとった行動は壁をさらに引き剥がし、格納庫の者を押しつぶそうとすることであった。
「何!?」
誰かがパッケージを纏い、壁を攻撃する。
だがしかし効果がない。
壁は迫るのみである。
状況は変わらない。
いや。
ブゥン
突如新型が動きを変える。
格納庫がうねる。
[エクスマキナ]系がすべて跳躍する。
一部が腕からソードを出し、落下し格納庫内にいる者に攻撃を開始する。
「のわっ!?」
結たちは慌ててパッケージを展開して攻撃から逃げる。
他のアーマード・パッケージ持ちは同じように機体を。
そうではない者は前者に抱えてもらうなりでデザイアの脅威から逃走する。
宙で一部の[エクスマキナ]系の胸部が開く。
現れしは砲撃のための球体。
それが光り、格納庫内に閃光が降り注ぐ。
攻撃は高位置からの一方的なものである。
急なこれには射撃武装持ちの者でも反撃できなかった。
各所で爆発が起き、ついで床がうねる。
新型による同化が進んでいるのだった。
「いたっ!?」
爆発に押され、結と凜華は通路に転がり出る。
頭を思い切り床にぶつけた彼女等はしばし伸びる。
一方ミューティは[エクスマキナ]系と対峙する。
『なんで唐突に……!』
STPA-05[シルフィード]が大剣を両手に構える。
ブゥン
新型が再度動く。
行動は。
「あ、オワタ」
またしても誰かが呟く。
最後に通路に放り出されたものが一名。
「ぶっ……ぶ……」
リジェネが通路の壁にぶつかって結、凜華と同じく伸びる。
それと時を同じくして格納庫が変形していく。
中にいる者たち、結と凜華、リジェネ以外がその中に飲み込まれていく。
『え、え?ちょっと待っ……わっ!?』
STPA-05[シルフィード]の両足が切り落とされ、倒れる光景が通路から見えたが、
通路側の三名は気絶状態ゆえに気づけなかった。
『ちょ、ちょっと、ここでこんな扱いですか!?こんな……!?』
其の声と同時にミューティは機体ごとうねり、新型デザイアの同化に飲み込まれていった。
「……あれ」
凜華が起き上がる。
彼女はゆっくりと通路から格納庫内を見る。
最後には新型デザイアのバイザー型頭部の不気味な光が見えた。
「……急展開すぎない?」
格納庫内の者は飲み込まれ、難を逃れたのは三名のみ。
「これでどうしろって……?急にチートじみたの登場させて……」




