第三章[休みとトラブルの一週間]第五十一話
「も~……」
落ちてきた宝玉種の少女が頭の魔晶石をさすりながらゆっくりと起き上がる。
その表面にはわずかな傷があった。
宝玉種の十二勇者、<永久光輝>ルビリントだ。
結たちはそんなこと、知る由もなかったが。
「成功じゃな。のお」
「……何~?」
その宝玉種の少女がアメヴィスを不機嫌そうな顔で見た。
「折角傷癒してたのに……」
プクーと少女が頬を膨らませる。
「かかか!よいではないか」
「……ひどいよ~。それで何のつもりなの?」
「作戦あるじゃろ?それの配属場所の説明を頼みたいのじゃ」
「ふぇ!?なんで?」
「童は[アクトフェルト]の移送をしたいのじゃ」
「あく?何?」
「開発した新型じゃよ。あれを持っていくんじゃ。準備ももうほとんどできておる」
アメヴィスが格納庫の開きかけの扉の間を親指で後ろに指す。
そこには例のコンテナが鎮座している。
「……それで代わりにしてってこと?」
「うむ。一応知っておるじゃろ」
「私担当じゃないけど……」
「まぁ頼む。童は、やるの面倒くさくてのう」
「それで私がやらなきゃいけないのは……」
「アメヴィス様、まだですか」
「急に誰?」
凜華が呟く。
いつの間にかコンテナの上には腕を組んだ筋骨隆々の青年が立っていた。
短い黒髪に鋭い眼光。目の色は黒。
その恰好はタンクトップに襤褸マント、そして短パンである。
種族は人類種か魔人種あたりだろう。
「おお、すまんすまん」
アメヴィスが彼の方を見て言う。
「なんか完全にタイミング見計らって来たよね」
「ちょ、ちょっと、アメヴィス!」
ルビリントがアメヴィスに向かって言う。
その間にアメヴィスはササっと格納庫の外に向かって歩いていく。
ルビリントに説明を放り投げて。
「完全に押し付けるつもりじゃん……教えてもらう立場のこっちが言うのもなんだけど」
凜華が呟く。
結は「・・・」状態になっていた。
「いや、私は……?」
一方ルビリント。
「アメヴィス!待ってよ!」
「それじゃあ、の」
「ああ……!」
ルビリントが手を伸ばす。
彼女はその場から動けない理由でもあるのか、それと叫ぶ行為のみであった。
魔晶石の傷は残っている。生命活動にかかわっているそこに、傷があることで体に負荷でもかかっているかもしれない。
「行っちゃった……」
結たちはアメヴィスの動きをただ目で追う。
アメヴィスの方は。
「アメヴィス様、さっきからレクチャーしたり、何のつもりですか」
「すまんのお。ちとな。お主もおるのを完全に忘れておった」
「はっ?ふざけないでください」
「お主、様付けで呼んでおるくせにたまに無礼な態度とるよのお。別に良いが」
「ふん。ま、いいから行くんでしょう?俺の機体じゃないが」
「まぁ、お主のはTCPA-10[バーレント]だしの」
「だが、その話は今はどうでもいい」
「いいのかいな」
「俺は早く作戦でデザイアぶっ潰したいだけなんで」
「ふむふむ。武装もちょうどよいしな。[爆砕鉄球]で」
「楽しみだ」
「ではいくぞ」
「……おい」
「うぬ?どうした」
「どうやってコンテナの上から動かすんだ」
「……ふむ。そもそも誰がここまで運んだんじゃったか」
コンテナを運んだのはいったい誰なのか。
魔術で運んだわけではない。
コンテナ自体かなりの重さがある。
そう簡単に運べない。
いや、それはいいとして輸送を理由にルビリントに作戦の説明を押し付けたのに、自分で運ぶわけではないようである。
「我が[α(アルファ)]でやったんだけど、な!」
コンテナの格納庫側。
結たちは気付かなかったが、そこには一体のタクティカル・パッケージがしゃがみ込み、その金属の手をコンテナの側面に触れさせていた。
この機体が押していたのだろう。
因みにそれに搭乗していたのはオルトロであった。
機体は最初のタクティカル・パッケージ、TCPA-01[α(アルファ)]である。
一機目ゆえに問題が山済みで、もう実戦で使われるようなことはなく格納庫で作業用機械ぐらいに扱われていた。といっても、タクティカルの試運転でトラブルが発生したときに
機体輸送を行うぐらいで、後は格納庫の作業員の暇つぶしに使われていた。
機体自体そんなに大きいものでは無く、すぐに起動できるものであったためだった。
「ふむ。完全に忘れられているな」
そのコクピットの中でオルトロが顎に手を当てて状況を分析していた。
「では動くか」
そう言うと彼は操縦桿を握りなおす。
「よし。いく、ぞ!」
声と同時に機体が動き出す。
人型機体のその頭部が少し上に上がる。
その頭部のバイザー型センサーが弱めにひっそりと再起動を示すかのように光る。
作られた無機物の腕がコンテナに力をかける。
「ふ、ん!」
「のわっ!?」
「な!?」
コンテナが唐突に動く。
その上にいたリジェネたちがそれに驚き、バランスを崩しそうになる。
青年は即座に這いつくばって如何にかし、アメヴィスは思わずヘルメットを被りなおした。後者は次の瞬間には思い切り頭をコンテナの表面に打ち付けたが、ヘルメットのおかげで助かった。
「なんじゃ?」
「ああ、そういえば。そこのだったな」
「おお、そうじゃった」
オルトロが[α(アルファ)]でコンテナを運んでいたことを思い出す二人。
そうしている間にコンテナは進んでいき、その先にはいつのまにか完全に開かれていた転移門がある。
「これでいけるのな」
「まぁな。行きましょうか」
「お主、あらい言葉遣いか改まった言葉遣いにするかはっきりしたらどうかとも思うのじゃが」
「インパクトがないと名もない脇役はすぐに忘れられるでしょう」
「言うほどインパクトのあるものでもないと思うがの」
「あん?」
「かか」
「この……」
そんなやり取りをしながらアメヴィスたちは転移門の中に消える。
「これで、終了、だ!」
オルトロがやり遂げたといわんばかり言った。
「……」
ルビリントが結たちの方をみる。
見られた彼女等は無言状態。
「説明、いる?」
「なんかよく見る流れ……」
ルビリントの問い。凜華の呟き。




