第三章[休みとトラブルの一週間]第四十六話
「もう、食べられない……」
「寝言ならよくある台詞だよね……」
結と凜華が腹をさする。
机の上の料理は漏れなく平らげられていた。
腹の空きやすい幻獣種の凜華はともかく、人類種の結の食べっぷりは普通ではなかった。
まぁ、結のそれは今に始まったことではなかったが。
「それじゃ、片付けましょう」
結の母が立ち上がって机一面に並べられた皿を何枚か重ねて台所に持っていく。
「わ、私も……」
一足遅れて結が立ち上がる。
急に立ち上がったことで腹に収まった料理が揺れ、一瞬バランスを崩しかけるが。
「おっと。大丈夫?」
「う、うん。ありがとう凜華」
とっさに片手を出してくれた凜華のおかげで助かる。
お礼を言い、皿を片付けにかかる。
「よいしょ」
「……私もやるか」
凜華が呟きとともに立ち上がる。
いまだ数多く残る皿を抱えて二人は結の母と同じように台所に持っていく。
「ありがとう。結、机拭いといて。凜華ちゃんは座って待ってていいわよ」
「うん」
「はい」
結は台所から布巾をとってきて机を拭きに行く。
湿った布が机に残った汚れを拭い去っていく。
その水分によって机の表面が湿り、部屋の照明を反射して光る。
綺麗になったようだ。
「ふぅ」
凜華が息をついて椅子に腰かける。
結は布巾を台所の母に渡した後、続いて着席する。
一方結の母は。
「よし。これで終わりね」
魔術を行使して皿の洗浄をいつの間にか終えていた。
何枚もの皿が浄化水に付けられていた。
「そろそろ話をしましょうか」
手を手むぐいで拭きながら結の母が机に戻る。
それを袖口にしまい、彼女が席に着く。
「私も参加させてもらいますよ」
「あら。今は……ミューティちゃんでいいのかしら」
「はい。それでいいです」
『エリの意識はあるんだけどね』
ミューティの頭の中でエリュシュオンが呟く。
「来ていたのね」
「どうも」
ミューティはぺこりと頭を下げた後、ゆっくりと机に舞い降りる。
これで話をする準備は完了だ。
全員が揃った。
「じゃぁ質問しあいましょう。聞きたいこと、あるでしょう?」
「え、ああうん。確かにある」
結が頷く。
「私もだけど」
凜華も同じようにする。
ここに至るまでの事で分からないことがいくらかある。
それをこれから教え合う。
「それでは」
結の母がポンと手を叩く。
「ふ~ん」
「そういうこと」
数分後。
ある程度話をし合い、事の顛末を共有した三人。
「凜華。運んでくれてありがとう。それにお母さんも治療ありがとう」
「別にいいよ」
「娘のためだし、当然よ」
凜華は快く返事し、結の母はウィンクして見せた。
「おばさん、連絡とかもろもろありがとうございます」
「結のお友達なんだし当り前よ」
今度は凜華が結の母に家に連絡したことなどの礼を言う。
結の母は、今度は静かに笑って返答した。
これで[ルシファー]戦後の凜華の行動、彼女が落下した後の結の母の動きの説明が終了した。
「ところで」
「他に何かあるの?」
「うん。なんで私の部屋の天井、穴空いたままなの?」
「あっ、ああそれね……ごめん!忘れてた☆」
「え」
手を合わせててへぺろと言わんばかりに舌を出して茶目っ気のある笑顔を見せた結の母。
彼女は目に見えて老けているわけでもなかったので、違和感は少なかったが、それでも大人の人類種の女性がそんなことをやるのはイタかった。
「純粋に忘れちゃった☆」
「ええ……」
「直すための素材がなかったからだけどね」
「うわっ!?師匠!?」
食事前に姿を消した天がいつのまにか結の背後に立っていた。
結が驚きの声を上げる。
「忍者みたいに出てくるじゃん」
「気配遮断でも使えるんですか?」
「まぁそう。普段使わないけど」
凜華とミューティが呟き、天がそっけなく答える。
「そうそう。倉庫漁ったけど使えそうなものなかったし。その後家事してたらすっかり、ね」
「そ、そうなんだ……」
結の母も天も魔力を物質化する系統は使えないのだった。前者の方はそれ以外幅広く使えるのだが。
「師匠、何で戻って来たんですか」
「伝えとくことがあったから来た」
「?」
そう言うと天はどこからか二つの物体を取りだした。
「ほらデバイス」
「え、はい」
「お、おっと」
急に放り投げてきたデバイスを受け止める結と凜華。
「あれ。これ……」
「どうしたの結?」
「これなんか……」
結のデバイスは。
「変わってる……」
「ホントだ」
形が変わっていた。
前の物よりデザインに重きが置かれ、恰好よくなっていた。
「師匠。これは……?」
「それ?壊れたから基地で直してもらった。まぁ、持ってったのはククルカンだけど」
「直してって。明らかに形変わってるし。修理というか改造なんじゃ」
「直すだけの予定だったけど、作戦の事とか、後担当者の趣味でこうなった」
「作戦?」
二人が首をかしげる。
「それに関する連絡はそこに来てるはずだから」
そう言ってデバイスを指す天。
アーマード・パッケージの展開デバイスは簡易的な連絡機器の役割も兼ねているのだ。
できるのはメッセージの送受信だ。
そのデバイスには一つのメッセージが届いていた。
「送られてきたのは二日前か。何々……『六日後、海上のデザイアに対する大規模攻勢を行う。各隊員は最寄りの基地に向かい、機体の装備換装、作戦の説明を受けよ。詳細は各々確認せよ。その際、四方のいずれかの海岸線基地群に配属されることとなる。独立部隊の者たちは作戦開始二日前までには現地に集合し、準備を行え。以上。 アメヴィス』、へぇ……え?」
「作戦!?打って出るの?」
「そう。大陸にデザイアが侵入し、制海権を奪取した奴らの動きは活性化しているらしい。
だから大陸内部のデザイアを殲滅した後、反攻作戦を実行する」
「侵入したのって……」
「そう。あなたたちが戦った巨大なのもその一体だったはずよ。倒せなかったら危うく首都を落とされるところだったらしいわ。あまり詳しくは知らないけど」
結の母も会話に加わる。
「だから結たちの戦いの意味は大きかった。結構評価されているらしい」
「えっと、そのどうも」
戦いの意味は大きかったと聞いて嬉しくなって顔を赤らめる結。
二年前のようにデザイアに生きる者たちが虐殺されるようになることを未然に防げたという事を改めて実感でき、嬉しかった。
「基地に行けば作戦の詳細はメッセージの通り聞ける。参加可能な状態なら行ったら?」
「結、どうする?私はあなたの意見を尊重するわよ。あなたの事は信頼しているから」
「お母さん……」
しばし考えこむ二人。
体力的にも精神的にも既に回復。
かなり回復が早い二人だった。
「私が会話に入り込む隙が無いんですが……」
『そだね』




