第三章[休みとトラブルの一週間]第四十四話
「はぁはぁ……」
「疲れた~?」
「そりゃぁ……あんなに……やったら疲れる……もうやだ……」
「でも~、これで最後だし~?」
「何回も……何回も……転移して……使いつかれた……」
「あたしが~、肩代わりしてるんだから~、頑張って~」
[プラネシア]のヴァルキュリアス基地格納庫。
その奥に、二人の隊員が立っていた。
片方は<透宝輝>エーテル、もう片方はまさしく魔法使いといった格好の少女。
彼女のフードから覗く羊のような角が彼女の種族が邪翼種であることを指し示している。
その手に持つのは、先端に球体状の漆黒の魔晶石が付けられた杖だ。
「後……一回やるなんて……」
その邪翼種の少女が極度の疲労を浮かべて呟く。
彼女はそれまでヴァルキュリアスの隊員たちのうち、アーマード・パッケージを使う者たちのデバイスを回収していたのだ。
タクティカル・パッケージは追加装備でも持っていけば済むが、アーマードはそうではない。デバイスに刻印された情報をもとに機体を構築するため、それをいじらないと装備の変更もできないからだ。
常時展開してるわけでもないのでタクティカルのように装備を持っていけばいいわけではない。単純にかさばり、邪魔になってしまう。
だが、反攻作戦のためには換装は必須なので、やらなければならない。
そこで問題が生じる。
デバイスは各々好きなように持ち歩いている。
それをいじることは基地の技術者たちがやらなければならない。
これらのことから、所持者たちは換装の事を知ったうえで基地に持って行って最適な処置をデバイスに施し貰わなければならない。
ここだ。
基地が近くにいない者もいる。
彼ら彼女らがいるのは大陸。
この大陸にはそれなりに基地があるものの、そこに至るまでの距離は長い。
海上のデザイアの侵攻開始までに着けるとは限らない。
そうなると困る。そのため、
「あちこちね~」
転移術式を使える者たちが、その負担を分散させてくれる者とともにイアの情報(イアの名前は大半の者には伝わっていないが)をもとに、基地付近にいない者たちのデバイスを回収し、いずこかの基地で刻印情報の書き換えを行い、アメヴィスの通達によって東西南北の基地に集まっていく彼らに後日渡すのだ。
けれど、それができる者は数少ない。
普通、その性質上転移術式なんて扱えた物ではないからだ。
よって、その数人がこの数日間ほぼ休みもなしに働きづめになったのだ。
その不可はパートナーありでも尋常ではないのだ。
「なんでそっちは割と元気そうなの……」
「う~ん?一応始祖様からかなり初期に生まれたから体力的に余裕があるんじゃないの?」
「……どういう事……」
一方、格納庫の下。
そこは新型のタクティカルなどの建造や調整を行うための実験施設だ。
広さは格納庫と同じくらいで、地下にある関係で頑丈な材質で作られている。
ただし、かなりの高さがある。
そこには今はほとんど物などなく、在るのは一機のタクティカル・パッケージのみだ。
「もう出来上がってきた、な!」
「そうだな。くふふふふふ……」
そしてそこにいるのは、クライシスとオルトロであった。
彼女等はそこの立った一機の調整を行っていたのだった。
「いや~、やっぱりこういう機体を作るのは胸躍るねぇ」
「そうだ、な!」
二人はそのタクティカル・パッケージを見上げる。
その機体は通常のタクティカルの二倍近い身長がある。
バイザー型の頭部に、角ばった胸部。
両腕に装備されたアーマー。
機体のあちこちにある謎の駆動ユニット。
うす暗い施設内の中に、それはただ静かに佇んでいる。
「やっておるか?」
「お、アメヴィス様」
二人が背後を向く。
そこには隊員たちへの通告を終え、[プラネシア]基地に帰還したアメヴィスがいた。
「ようやく戻ってこられたのじゃ」
「こいつを見に来たんです、か!」
「そうじゃ。最強を目指した機体の調子はどうじゃ?」
「問題ないですね!」
「うむ。妖精糸の挿入も大方完、了!」
クライシスとオルトロが腕組みをして大声で言う。
それを聞いたアメヴィスは、
「くふふふ」
笑いながらどこからかスティックをとりだす。
それは先端に赤いボタンがついた握りて付きの物だった。
何かのスイッチのようだ。
「では仮お披露目じゃな」
ポチッ!
アメヴィスがその赤いボタンを押す。
直後。
「おお!」
明かりがつき、佇むタクティカルの姿がよりはっきりと浮かび上がった。
その藍色の装甲と、各部の結晶部位が明かりを反射して輝く。
「強そうじゃな。しかし、童自身で動かせないのが残念でたまらんな」
「アメヴィス様はクローディアの操舵をするんでしょう?」
「確かにそれは楽しみじゃな。それをいったらお主もローゼンティアを操縦できるじゃろ」
「ですね!」
「我も何か、使いたかったが、な!」
「すまぬなオルトロよ。高位技術者が一人残らず出払うのはさすがに不味いのじゃ」
「まぁ、それは分かっている、が!」
「やっぱりロボとか動かすのはロマンだからな!」
「そうじゃな!」
テンションマックスの三人。
「最後に乗ったのはスアウロじゃ。あれは合体ロボじゃったが、今はどうなってるんじゃろう」
「フォトレアヴの遺跡に封印しましたが、もしかしたらデザイア対策に誰かが掘り起こしているかもしれませんね!」
「だといいのぉ。合体ロボは戦わななきゃ意味がないからな。折角あの頃数年かかって作ったのじゃから、使ってくれた方がいいのじゃ」
「その通りだ、な!」
オルトロが手を嬉しげに叩く。
この三人、戦闘ロボがとんでもなく好きなのだ。
タクティカルの企画、開発のきっかけを作ったのも彼女等である。
三人はデザイアが来る前にはよく集まってロボットアニメをさんざん見ていた。
評価が低くてもロボアニメなら見るという主義で、ほとんどの作品を愛しており、もし悪い点があるなら、良い点を見つけそこを楽しんだ。
円盤が出たり、メカが立体化されたら即座に購入を繰り返した。
なんなら自分たちで作ろうとしたこともあったのだが、どうもメカ重視になってしまってそれ以外がおざなりになってしまう事が多々あったが。
「ようやくこの二年の技術の集大成が成ったなのじゃな」
「はい!しっかしアメヴィス様、もっとでかいほうがよかったんじゃないですか?」
「阿呆。それは否定できんが、でかすぎたら輸送に邪魔であろうが。転移門に入るギリギリのサイズじゃぞ。……いや、無理押し通してでもおっきくすべきじゃったか」
「我はこれぐらいが好きだが、な!」
「ふむ。まぁここまで作ってしまったから言っても仕方ないかのう」
「そうですね!」
全員の顔は興奮で弛緩していた。
「しっかし、流石アメヴィス様!妖精糸を武装に使うなんてそうそう思いつかないですよ!
それにこんなたくさん何て!」
「それほどでもないわ。何、オベリスクに頼んだら快く用意してくれたんじゃからな」
「妖精糸。変幻自在の魔製糸、か!こいつの戦闘、どんなものになるんだろう、な!」
「そりゃぁ、かっこいいだろ。何てったってあれだぜ。とんでもなくかっこいい動きしてくれるに違いない!問題は……」
「最強ってコンセプトの機体、墜とされる気がしてならぬのじゃ」
「終盤までは頑張るのかもしれんが。でも墜とされる気がする、な!」
「総合スペックはタクティカルの中では最高となってはいるが、それが逆に不安だな」
「または、何か乗っ取る系のデザイアが出現して、敵の物となってしまうかもしれぬな。新型機は奪われたりすることも少々あるからな」
「そこも心配である、な」
そんな会話が目の前で続けられているが、当然のことながら機体は反応することはない。逆に反応したら恐怖を感じる。
「まぁ、この機体、TCPA-11[アクトフェルト]を信じるしかないのじゃな」
アメヴィスが言う。
特殊な装備を全身に施したその機体の方をみて。




