第三章[休みとトラブルの一週間]第四十三話
「ふっ」
「はっ!」
声を発し、結と天が再度ぶつかる。
そろそろ五分ぐらいになるといったところだ。
「前回で終わりじゃないんだ」
「まぁ、まだ終わる気配がないしね」
「でもそろそろ終わるんじゃないかな」
三人は(二人と一体の方が正しいのかもしれないが)、変わらず立ったまま結たちの事を見物していた。
「そろそろ」
「っ師匠……!」
天が決着をつけに動いた。
結はそれに対抗せんとまた動く。
「終わらせることにする」
師がついにこの仕合を締めくくろうとしたのだ。
ならば全力を以て相手する。
そう一瞬のうちに考えた結。
「師匠……!」
バットを構えるがごとく剣を構え、距離をとる。
天から吹き上がっていた闘気が一点に収束する。
その一転とは彼女の腕だ。
周囲に放出されていた力は転じて剣の攻撃力に変換される。
彼女がまるでゲームで大技を放つかのような予備動作を行う。
この言い方だと少し凄みにかけてしまうかもしれないが、それは決して弱いものでは無い。
天の百パーセントの力かは分からないが、それでも見る者に何かを感じさせるほど、大いなる力だ。魔力は込められていないはずなのに目に見えない、波を発生させていた。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
いつの間にかひたすら笑うようになっている天。
その雰囲気が、
「いや師匠……」
ただひたすらに、
「怖いんだけど……」
凜華がその光景を見る。その額からわずかに汗が垂れていた。
天の素はこんな感じだったのか。
凜華は彼女の普段の態度とやらを知らないが、それでも通常落ち着きのある者が急にこんな風に態度を豹変させたらそれなりに恐怖を感じる。
「これで最後そうね」
結の母が呟く。
急に始まった試合の決着は近かった。
何故天がこれを始めたのかは未だ誰にも分からなかったが。
「ふふふ……いわゆる最後の一撃」
彼女は仕合とかでは性格が変わるタイプなのか。
いや、それでも序盤は無言で静かな感じだった。
徐々に過熱していけば変わってしまう系統なのだろうか。
「くっ……」
師に巨大な存在感を感じる結。
だがひるむわけにはいかない。
「これで……!結!」
「師匠……!」
対峙する二人。
それを見る凜華達。
後、彼女等に完全に忘れられているミューティ。
その空間。
そこで視点は結と天に。
最後には無言になる二人。
そして、双方が地を蹴る。
地面に僅かに食い込んでいた踵が彼女らの動作で土を巻き上げ、押し出される体が空気を押しのけ突き進む。
剣、そう互いの剣がそれぞれの力を発揮し、ぶつかり合った。
その動きは一瞬。並みの者では追う事ができないその動き。
ぶつかり合った剣のそのせめぎ合いもまた一瞬。
瞬き一つ。
そのわずかな時間が経つ時には。
「!?」
天の剣が宙を舞った。
日の光を反射したそれが回転する。
彼女の目が驚愕で開かれる。
その視線の先に在るのは当然のことながら結。
けれど、その姿は……
「それ、は……?」
その背には光の紋章のような幻想翼が輝いていた。
第二権能;反攻
最後の一瞬。
天の剣が地に落ち、突き刺さる。
えぐられた地面から土やコケが飛び散る。
また、同時に結の翼も消えた。
「終わったわね」
師と子の仕合がここに決着した。
「凄かったね」
凜華の傍らに在るエリュシュオンが感想を口にする。
「……さっきの何?」
天が呟く。その言葉には驚きと困惑が含まれていた。
「……はい?」
聞かれた結が首をかしげる。
握っていた剣はゆっくりと鞘に収められた。
「もしかして、魔術でも使った?」
「使ってませんけど……?」
頭にはてなを浮かべながら結が返答する。
嘘をついている様子はない。それを理解した天は。
「まぁ、結が嘘ついたと子は見たことないしっか」
それ以上追及することはやめ、地に刺さった自身の剣を抜きに歩いていく。
「?」
「ククルカンなら何か知ってるんじゃ……」
「何か言いました?」
天は結と少し離れたところに立っていた。
そのため結には彼女が呟いた言葉は上手く聞き取ることができなかったのだ。
「何でもない。気にしないで」
「分かりました……」
一応それで納得しておく結。
それはいいとしておいても。
「終わりましたけど。師匠、何で急に仕合したんですか?」
「勝ち喜んでないの?」
「へ?あ。もちろん嬉しいですけど……完全に本気じゃなかったですよね」
「気付いてたんだ。でも結構だしたけどね」
その言葉を聞いて、
「いやああいうノリだったら本気でやったんじゃないの……?」
凜華が言った。
「それはいいんですけど。でも記録更新なのかなぁ」
「ちょっと認めたくないけど。さっきのあれあるし」
「?……何回も話ずれたけどこの試合をした理由を」
「ああ、理由?体大丈夫になったかの確認だけど」
「へ?」
ポカン。
あんぐりと口を開ける結。
その理由で仕合したのか。
体が回復しきったかを仕合で確認するとは。
それで体を急に思いっきり使って壊しでもしたら元も子もない気がするのであるが。
「………心配してくれたのは嬉しいです。師匠、ありがとうございます」
「別に」
素っ気なく答える天。
「えぇ……」
遠目に見る凜華が若干の呆れで額から汗を一滴流す。
天が言っていた理由で仕合を行うのは、彼女にもよくわからなかった。
「さて」
結の母が手をポンと叩く。
「仕合が終わったなら二人とも仲に入って。朝ごはんにしましょう。他に聞きたいこともあるだろうしそこで。もちろん凜華ちゃんたちも」
「あっ、ありがとうございます」
その言葉を聞き、頭を下げてお礼を言う凜華。
「別にいいわよ。凜華ちゃんの家には連絡入れといたし。お兄さんが出て伝えとくって言ってたから。昨日の昼」
「昨日……昨日の昼!?」
「凜華どうしたの?」
凜華の叫び声を聞いて鞘を両手に抱えて彼女のもとに走ってくる結。
「あの、おばさん。今昨日の昼って言いました!?」
「ええ、言ったわよ?」
「あのデザイアとぶつかった後、もう日は落ちてた。そっから考えると昨日の昼に連絡って無理だし、じゃぁそれって……」
「あっ」
その言葉を聞いて気付く結。
「それって、私たちが寝てたの一日半以上ってことに……」
「お母さん!」
己が母に問いかける結。
「ええ、寝たわよ。一日半以上」
「……二度目じゃん」
「そうね」
[インパクター]戦後と同じ行動を繰り返すことになってしまった。
「二度目?ネタの使いまわし?」
今度は凜華がよく分からずに言った。




