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アポカリプス・デザイア  作者: 結芽月
第三章[休みとトラブルの一週間]
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第三章[休みとトラブルの一週間]第四十二話

「師匠、ここで何するつもりなんですか?」

 走っていって最終的に外に出た天を追い、こちらもまた外に出てきた結たち。

 一行が向かったのは、結の家裏手の少し小さめの、それでいて奥行きのある庭だった。

 所々に苔むした岩が設置され、奥の方には小さめの古風な池がある。

 遠目から見れば風情があって非常に良いものだ。

「そういえばこの庭見たことなかったかも」

 手に乗せたエリュシュオンを落とさないようにしながら呟く凜華。

 凜華は依然来たことがあったものの、家の中には入ったがこの庭には出ていない。

 その代わり結の家の内部はそれなりに知っている。

畳やモダンな部屋が乱立した統一性のない家。住んでいる者たちは着物姿が多いので和に統一する方がいいと思ったのだが。

 まぁそれはともかくとして。

「結構いい感じ」

 やはり風情があっていいと凜華は思った。

 一方結と天。

「……」

もう一貫して無言のままでいる天。

その彼女が剣を結の方に向けて顔をクイッと動かす。

「かかって来いって……?」

 話さないせいでただただ分かりづらい。

 素ではなくても口に出してくれていた方がやはり伝わりやすかった。

 まぁ剣関連のことなら身振り素振りで容易に理解できる。

 今度は問題ない。

「けど何で急に……」

 結は先程と同じような思考を繰り返す。

 起きて早々、剣を打ち合わせるように無言で要求してくる天の意図は不明である。

 だが剣の事は真面目にやる。

 そう言う取り決めであるのだ。二人の間では。

「……やる」

 突如、天の全身から闘気(オーラ)が放たれる。

 天の顔が真剣な表情になる。

「いや急に何……?」

 突発的なその行動に反応して後退る凜華。

 危うくエリュシュオンを落としそうになったが、

「もう飛べるからいいよ」

 そう言ってエリュシュオンは凜華の手から離れ、その顔の横辺りに滞空した。

 一応その後に十分に結と天から離れておく。

「本当に急だね」

 エリュシュオンが凜華の傍らで呟く。

「そうだね……」

 結を見ながら言う凜華。

 その見られている結は。

「じゃぁやりますよ」

 剣を鞘から抜く。

 抜剣だ。

 着物姿に剣というのは少し違和感がなくもないが、当人たちは気にしていない。

 天の方も己が剣を抜く。

 こちらはあまり違和感はなかった。

 早朝の日差しが彼女の頭と胸の鎧に反射することで磨き上げられたそれが白銀に輝く。

 それに彼女が持つ剣はそれなりに上等な、それなりの鍛冶師に鍛えられたであろうものであった。

 付け足して全身から立ち上る闘気(オーラ)だ。

 それらが統合されることで存在感が大きくなり、嫌がおうにでも彼女が強い存在であることを周りに感じさせる。

「さて……抜いた?」

「はい、師匠……何度も……いや、もうしつこいからいいかも……」

 同じことばかりでただしつこいと思ったのでこの事はいったんここで終いにしておく。

 天は準備万端だ。それに雑念がある状態で挑むのは失礼である。

 そう考えて雑念を払う。

「……」

無言になり剣を構える。

結が構える剣は天の物には劣るもののそれなりのワザモノだ。

十分に打ち合える。

前回、前々回のデザイアとの戦闘では使う機会が相手のサイズの都合上なかった技術が、

今目を覚ます。

「真剣そうだね」

「うん」

 二人の雰囲気によって若干蚊帳の外にいる感じがした凜華とミューティ。

 そこに。

「やってるわね」

「あ、おばさん」

「おはよう、凜華ちゃん」

 歩いてきたのは結の母だった。

 家の外側に付いている木製の渡り廊下から歩いてきたのだ。

 凜華の背後に来た彼女のその背後には、ガラス張りの部屋があった。

 少しガラス戸が開いている。

 彼女の服装は結と同じ着物だ。ただし裾を絞ってはいない。

「お、お邪魔して、ます?」

「はい」

「あの質問いいですか?」

「まぁ当然ね。どうぞ」

 体の向きを結の母の方に向け、取り合えず一つ目の質問を行う凜華。

「私たち何でここにいるんですか?」

「それは……」

 キィィン!!

「あら、始まったみたいね」

「あ、はい。結たち何でこんなことしているんですか?」

「まぁそれはそのうち分かるわよ」

 結と天が打ち合いを開始していた。

 剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。

「凄い……知らなかったけど」

「そういえば、あの子見せる機会がなかったのよね。見ていたら?」

「強いのは知ったけど、あんな技とかできたんだ」

「まぁ、使い機会なんてそうそうないわよね」

 手を顔に当てて言う結の母。

「あれ、人とかぐらいのサイズの相手じゃないと使えないし」

「そういう事」

 人類種や幻獣種、聖翼種ぐらいの大きさの相手限定なら、披露する機会もなかったのだろう。だが、その技術はかなりものであるのだろう。

 凜華の目にはその動きを追うことは困難を極めた。

 神速の剣技が結と天の間で炸裂する。

「今はこれ見てる、凜華ちゃん?質問は後で一緒に答えてもいいわよ。結も何かしら聞いてくるかもしれないしね」

「じゃぁそれでお願いします」

 凜華はそう返事をして結と天のぶつかり合いを見る。

「分かったわ。まぁしばらく見学しておくことにしておきましょう」

 そして結の母も二人を見る。

「……!」

「……」

 二つの剣閃が交わる。

 結の剣と天の剣が互いをねじ伏せようと交錯する。

 本気の殺意を持った戦いではないが、それでも二人は互いに真剣である。

 これまで他者にあまり見せなかった彼女らの剣技が、日の目を見る。

 それを見る者は三人……いや四人か?

「……?他に誰かいる?」

 背後に気配を感じて振り向く凜華。

 その視線の先には結の母の背後にあるガラス張りの部屋だ。

 家の側面から突き出ている日よけ用の竹の厚板が朝日を遮り、それによって部屋画の中が影になっている。

 そのせいで中が見えずらい。

 しかしそれでも、中に一人誰かが立っているのが分かった。

「何処かで見たことがある気が……?」

 瞬間。その姿が消滅する。跡形もなく。

 目を凝らして見るが、いかなるものの姿も確認することは叶わなかった。

 気のせいだったのかと思う凜華。

 しかし、確かに……

 ガキィィン!!

 金属がぶつかり合う音が凜華の耳元に届く。

 結たちの仕合を見ていたことを思い出し、思考を切り上げて意識をそちらに向ける。

「……ふっ」

 天が不敵に笑う。

 剣を合わせ押し合っていた二人が足を蹴って距離をとる。

 それぞれの履くブーツや、下駄のような靴が庭の地面を削り、跳躍時の衝撃を強引に押し殺し、土が低く宙を舞う。

「問題なさそう」

「……?」

 笑いながら天が剣を左腰に構える。

 闘気(オーラ)がより一層濃くなり、剣が朝日を反射して煌く。

 それを見て結は剣を構えなおす。

 目を細めて天を観察。懐に飛び込む隙を窺う。

 天は笑みを浮かべながらもそこに真剣みを織り交ぜて構えている。

 静寂。わずかに吹く風が池の湖面をわずかに揺らす。

二人の視線が交錯する。

 先に仕掛けたのはどちらであったか。

 凜華達が気付いた瞬間、二人は再度剣を打ち合わせていた。

 だがすぐにまた離れ、そして剣を打ち合わせる。

「……!」

 結が剣を振り上げ、天が剣を振りかぶる。

 閃光がいくつも作られては消える。

 打ち合いが重ねられていく。

 剣撃、剣撃。

 ひたすらに続けられていく。

「ふっ、まだ終わらない」

 突如、天の動きが変わる。剣閃と一体化したかのように鋭い動きが披露される。

「この動き……!」

 結が額から一滴汗を垂らす。

 天の姿が目に追えなくなって行く。

 結はそれに対抗しようと動きを速くする。

 加速した二人が鎬を削り合う。

 剣を振りぬく。振りかぶる。ぶつかり合う。跳躍し、空中で体制を変え、飛び降りざまに反撃する。

 攻撃、攻撃、攻撃。

 防御、防御、防御。

 その繰り返しが無限に繰り返される。

 その時間は結と天には永遠のように思えて、けれど凜華達には短い僅かな時間。

 師と子の技のぶつかり合いは続く。

「す、凄い……こんなに強いなら小さめのデザイアだったら剣だけで倒せそうだけど……」

「獲物があれだと難しいわね。ワザモノなのは確かだけど、デザイアの装甲を突き破る強度はないかも。でも技術は転用できるからそれでデザイア倒せるかも」

「前の二戦ともそんなの使ってなかったけど……」

「二戦?」

「あっ」

 結の母が[ルシファー]戦について知っているわけはない。

 当然の反応だ。

 彼女が知っているのは[インパクター]戦のみである。

 これは自分たちも何か説明をする必要がありそうだ。

 そう考える凜華であった。


『いや、私は?完全に存在なかったことにされているんですけど……』

 完全に忘れられていたミューティが呟いた。


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