第三章[休みとトラブルの一週間]第四十一話
『それは私が説明してもいいですか……?』
「?」
聞こえてきた声はミューティの物だ。
そして、先のエリュシュオンと同じく姿が見えない。
こちらは何かしらに憑依して喋っているのだろう。
精霊種が発声器官のない物に憑いて話した時には、声はどこであろうと響くようになる。
そのため、まるでホールで大声で喋っているように聞こえる。
「全く話に入ってこないからいないかと思ったけど……」
『ひどいです……それはいいとしま……せんけど』
何に憑依しているのだろうか。
「何に憑いてるの?」
その疑問をエリュシュオンが口に出す。
『戸ですけど……』
「戸?」
『エリュシュオンが挟まっていた戸ですけど』
「え?」
エリュシュオンが声を上げる。
それに続いて三人はさっきまで彼女が挟まっていた戸を見る。
少し開いたそれに憑いているらしい。
「……ってことは」
『はい……』
精霊種が物に憑いているとき、それが傷を負った場合、少々痛みを感じる。
存在が揺らぐわけではないが、普段痛みを感じることなどない精霊種にとってかなりのきついものなのだ。それをミューティは危うく体験する羽目になった。
しかし、なら何故エリュシュオンが物騒なことを言った時に何も反応しなかったのだろうか。それは本人以外には分らなかった。
『ところで説明していいですか?』
人型の物体に憑依していたのなら両手をパンと合わせているところだろうか。
「うん」
「お願い」
結が最初に頷き、凜華もそれに続く。
「エリは知ってるから」
「え、知ってるの?」
「うん」
エリュシュオンが凜華の手の上で立ち上がる。
体に憑いている僅かな汚れを払う。
『じゃぁ。えっと……』
そしてミューティが[ルシファー]戦後の事を語りだそうとしたその時。
バンッ!
『ふげらっ!?』
突如として彼女の憑いている戸が勢いよく開かれる。
壁に打ち付けられ、ミューティが奇妙な叫び声をあげる。
大丈夫だろうか。
それはそれとしてその行為を行ったのは誰か。
三人は戸で遮られていたその奥、廊下に立つ人影を見つめる。
廊下にある窓から差し込む光が、その人影を照らす。
「あ……!」
結が照らし出された一人の姿を見てその正体に気付く。
一枚の布で作られた純白のワンピースに頭と胸もとに小さめの白銀の鎧を付けている。
その下に除く瞳は黄玉色。そして髪は銀。
きゅっと口が結ばれている。
そんな背低めの少女?が無表情で立っていた。
その右手には二振りの剣が握られている。
「……」
「師匠!」
結が声を上げる。
戸を開けて立った者。
それは結の剣の師匠、第五代剣聖『天』であった。
「……大丈夫ですね?」
「は、はい」
天の言葉に頷く結。
「……ならよかった」
ほっと息をつく彼女。
心配していたらしい。
「活動してから再開してからククルカンに倒れてるって来たから心配してましたけど……不要だったようですね」
「ククルカン?」
「……ああ忘れて」
「え、まぁ師匠が言うならそうしますけど……」
よく分からないが師の言葉だと飲み込む結。
何故ここで十二勇者の<七剣聖>ククルカンの出てきたのか不思議だったが。
「じゃ、黙る」
その言葉を最後に黙ろうとする天。
と。
『……あの~私と喋り方がかぶっているのはちょっと……』
開けられた衝撃による痛みで黙り込んでいたミューティが、話す。
「……喋り方?ああ。ククルカンに合わせてたんですけど……もういいや。そもそもそんな声出すの好きではなかったし」
「え?」
結がぽかんとした顔をする。
「口調素じゃなかったんですか?」
天のですます口調は作っていたものらしかった。
デザイア襲来前から結は天と関わっていたが、これは初耳だった。
「まぁ、それ言ったら私と結も同じような喋り方してるけど」
『……そ、そうですね。言われてみれば』
ミューティの声が小さくなる。
「……今度こそ黙る」
天が無言になる。そして徐に腕を動かす。
右手に握る剣の内一振りを左手で持つ。
そして、右手に残った方の剣を勢いよく放り投げる。
「え?」
「うわっ!?」
凜華が驚き、飛び退る。
直後、凜華がいた場所に剣が突き刺さる。
「あ、危なかった……」
凜華はエリュシュオンを片手に持って空いた手で額の汗をぬぐう。
冷や汗が出てしまったようだ。
「ちょっと、師匠……!」
結が声を荒げる。
急にこんな事されたら怒るのは当然だ。
凜華は、取り合えず回避できたことで安心して怒りだしていなかったが、それを見ていた結はその限りではない。
「……避けれると判断したから」
黙るといったのに喋った。まぁ、しぶしぶ答えただけだ。
「信用されているのは嬉しいけど……」
「やめてくださいよ……」
ゆっくりと立ち上がって言う結。
その際少しバランスを崩しそうになったが、如何にか立て直した。
「これ、私の剣?」
天が床に放り投げたに近寄って引き抜く結。
「……」
こくんとうなずく天。
「これでどうしろと……?」
「……」
無言を継続し、今度は首を横に動かして結に視線を向ける。
身長高いものがやったらもう少しかっこよかったのだが、如何せん背が小さいせいであまり様になっていなかった。
「もしかして、表に出ろって?」
凜華がその動作の意味を看破する。
「え?そういう事なんですか?」
無言で再びうなずく天。
もう言葉を発するつもりはないらしい。
「何で急に?」
「……」
「いやそこは喋ってくだいよ……」
これは言葉にしてくれないとわからなないのだが。
しかし、無言である。そして先程同じ行為をし、天はその後廊下に出る。
そして左手の剣を右手に持ち替え、廊下を走っていく。
「……凜華の言う通りっぽいけど」
本当に何で急に。つくづく結には分らなかった。




