第三章[休みとトラブルの一週間]第三十四話
――自分からこんなに動くようになるなんて
友が死にかけるのを二度見、その恐怖もまた二度味わったからか。
守りたいという気持ちはどんどんと膨れがっていった。
初任務の時は無理そうならすぐに他人を頼ろうという考えがあったのだが、そうするくらいなら自分が如何にかしようという気持ちが今は強くなった。(まぁ、今のは倒せそうだからやってるが)
なんだか分からないが、自分にはちゃんと力があるらしいのだから。
頼ることは悪い事ではないが。
先の出来事で、守るために頑張ると決めたのだった。
その思いは、力に結び付く。
それ故に、負荷からを退ける力を獲得、または覚醒させることができたのかもしれない。
「はっ!」
[ルシファー]のもとに迫ってく結。
四つのアームドユニットの剣と彼女の手にある剣。
そして、背の幻想的翼がここでの最後の戦いに使う力だ。
!!!!!!
[ルシファー]が左腕を振るう。
結はそれを回避せず、
「!」
剣を一振り。
ダメージの蓄積でボロボロになったそれは簡単に両断される。
断面は凹凸がなく、綺麗に叩き切られていた。
「加速!」
スラスターの出力を上げる。
両断した腕は放置。
例によって光の粒子と消えた。
その確認は放棄。
一直線に突き進む。
目指すは[ルシファー]の下半身。
内部機構が覗くそこだ。
その中を一気に突っ切って、コアを破壊する。
間違いなくコアは内部にある。
それは過去のデザイアの討伐記録からも証明されている。
重力操作と脚以外力を喪失し、それが結に聞かなくなった奴には、抵抗する手段はほとんど残されていない。
一応再生しているが、遅すぎる。
[インパクター]の十分の一程度のスピードだ。
戦闘能力の回復する頃には、とっくに堕ちているだろう。
もうその巨体にできることはない。
[ルシファー]が雀の涙ほどの抵抗を見せる。
残った脚が穴をふさぐようにゆっくりと動く。
ビームは放ってこない。
例え放ってきても、数が半減している。
弾幕は薄くならざら追えず、ダメージの影響で出力も恐らく低下している。
[ソードデバイス]のアームドユニット四機で防御可能であったであろう。
どちら等にしろ好都合である。
それらを剣で振り払って排除すれば突入できるのだから。
アームドユニットを正面に持ってくる。
それらを一つに合わせる。
四つの剣が先を重ね、それらは三角錐の形をとる。
突撃形態である。
勢いを殺さず結は[ルシファー]の下半身、[ヴァリアント]だったそこに突っ込む。
ランス変わりとなったアームドユニットを前にし、進路上の障害物を破壊し、侵入する。
止まりなどせず、その内部を突き進む結。
そして。
「あった!」
ついにコアを発見する。
赤く輝く球体。
それがアームドユニットの隙間から彼女の目に映る。
即座にアームドユニットを回転。スラスターの向きを反転させる。
減速。
それにより角度を調整するわずかな時間が生まれる。
剣が届くようにする。
またスラスターの向きを反転させて加速。
剣を突き出す。
背の幻想的翼が光を剣に纏わせる。
輝くそれは、
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
結の叫びとともにコアに突き立てられる。
同時に光が一層強くなり、コアにひびが入る。
それは一瞬のうちに広がっていき、ついにはコアが崩壊する。
「やった!」
嬉しさのあまり声を漏らす結。
周囲が光の粒子となって消えていく。
戦いが終わったのだ。
結はその様を見ながら滞空する。
そして、徐々に外が見えるようになっていく。
と言っても火が落ちた今、全ては暗闇で何も見えないが。
「これで、みんなの……」
周囲のデザイアの一部が完全に消失する。
撃破したのだ。
このデザイアを。
そう思い、下を見ようと……
「!?」
アンカーが迫る。
直前でそれを察知。
ギリギリのところで回避。
しかし、アームドユニットが一機持っていかれる。
「何!?」
一回転して離れてから言う。
上を見上げる。
そこから、[ルシファー]の上半身が降ってくる。
但し、だいぶ小さくなっていた。
結が最初に倒した[エクスマキナ]ぐらいのサイズに。
落ちてくる間に、元の装甲が消えてゆき、いつの間にか一体のデザイアの形になっていく。
プリズムハートが以前倒したものと同じ型。だが、そんなこと結が知っているわけもない。
それが結のもとに迫ってくる。
「っつ!」
アームドユニットの剣をデザイアに向ける。
対すデザイアは射出しっぱなしのアンカーは放っておき、左手のクローを彼女に向ける。
鋭くとがった指先が脅威を現す。
そして、それらが打ち合う。
剣は壊れない。
けれど、デザイアの手も壊れない。
互いの耐久性が、相互の切断性能を上回ったのだ。
火花が散り、相互の武装が重なり合う。
続いて、デザイアの躯が結に圧し掛かってくる。
このタイプは飛行能力がないらしい。
デザイアの体重が、体に襲い掛かる。
「お、重い…!」
人型ロボット型だけあって見た目通りの重さだ。
「こ、この…!」
叫んで機体を操作。
デザイアを振り落とそうとする。
背の幻想的翼が光る。
突如。
「……な!?」
機体が自壊した。
その装甲が一瞬で瓦解。跡形もなく消え去る。
ほとんどダメージも受けていないのに急になぜ……
そんな思考が一瞬頭をよぎる中、デザイアはその背のバックパックのようなものを展開する。
そこからエネルギーが放出。
結を地に落とさんと、デザイアが力を入れる。
背のそれは飛行ではなく、ジャンプ用の物なのだろう。
結は背の幻想的翼を輝かし、抵抗する。
と、デザイアの右腕のアンカーが元の一に戻る。
それが結の顔に向けられる。
ゆっくりとそれは縦に割れ、醜悪な中が見える。
それを合図としたかのように、
「ぐぅ!?」
「みんな!」
最後の重力強化が行われる。
皆の体が地に埋まっていく。
パッケージは潰れ、消え去る。
皆が等しく押しつぶされようと……
「こっのぉぉぉぉぉ!!!」
右手を握る。
そこに光が収束。
幾度となく作られた槍が出現する。
其れに気付くが早いが、結はそれを。
「はッ!!!」
デザイアの右腕の付け根に思いっ切り突き立てる。
貫く槍は見事デザイアの腕を根元から叩き切る。
腕は即座に光の粒子となって消える。
しかし。
「…………」
重力の強化は破られない。
その脅威から逃れているのは結のみである。
デザイアが左手を振り上げる。
それを以てして結を細切れにするつもりだ。
すでに結はきづだらけのボロボロの身である。
食らったらひとたまりもない。
いや、そもそも傷がなくてもそんなもの食らったら、肉塊に変えられるのは確定事項だが。
『もうここでの遊戯も終わりだ。最初に我が力に抗った貴様を殺し、閉幕としよう。あちらの奴の方が危険度は高そうだが、これではそんなことをすることなど不可能故にな』
「!」
気のせいかデザイアから声が聞こえた気がした。
けれどそれについて深く考える時間はない。
早くこいつを撃破しないと、ここ一体の者たちがもれなくあの世行きになってしまう。
左手を伸ばす。
同じように槍が生成される。
それを振るい、一撃を如何にか受け止める。
しかし、その衝撃で槍が手を離れ、消滅する。
一応その手の半分を破壊することには成功した。
けれど、まだ二つのクローが残っている。
それが結の背からその体を切り裂かんと迫る。
気づくが、対応などできない。
半秒後には、背中からブスッ!だ。
その時。
「処理遅効」
地に付すイアが呟く。
その身に纏うARPX-14[リブート]の背の懐中時計を模したユニットが動く。
針が反時計回りに廻る。
指す数字は三時だ。
力が解放される。
世界の処理の一部が減速する。
その影響はこの戦場一体だ。
一秒の長さが、27倍となる。
その中で唯一動けるイアは。
「ルケーノ」
一つの名を呼ぶ。
けれどそこにはそんな名前の者はいない。
彼女が呼んでいるものは、ここにはいない。
その詳しい存在座標は不明。
けれど、大まかな位置は分かる。
呼ばれるものは地上ではなく地下、その奥深く、マントルの中の特殊空間内にいる。
「ウガアァァァァァ!!!」
獣のような声がイアの言葉に答える。
誰にも踏み込めず、誰にも見られないその姿。
ところどころが灼熱に赤く染まる岩石をその身の一部とした■■種。
腕は岩石によって包まれ、土人形のごとき見た目となっている。
但し、それは土人形より力強く存在感が強い。
その他の部分は、やはり同じような岩石に包まれている。
幼子のようなその躯。
顔はこれまた岩石で形作られた赤と黒の仮面で見えない。
彼女は唸る。が、その奥には確かな知性がある。
こんなところにいる以上、言葉など習得するに値しなかったのだ。
「ルケーノ。分かる?今、禁忌を二つも……いや三つも犯した者が目の前にいる」
「グルルルルゥゥゥゥゥ……」
うなりで肯定する■■種、ルケーノ。
仮面の奥の瞳が紅く光っている。
そこにあるのは怒り。
自分にしか許されていない、力を使った罪者を許さないという。
異常は先程より感知している。
そのものがある位置さえつかめば即座に制裁を加える用意がある。
「座標を教える。……送った」
「グルルル。グゥグゥ!」
歓喜するルケーノ。
位置情報は掴んだ。
後は。
「お願い。あの大罪者に制裁を。私はもうやった。もう一柱も。後はあなただけ」
「ガアァァァァァァ!!!」
咆哮で分かったと伝える。
準備は既にできている。
もう力を行使するのみ。
罪を贖ってもらう!!
ルケーノがゴツゴツした両腕を上げる。
赤熱するそれに力が収束する。
四星種の一角がその力を開放する。
それは星を駆け回り、対象に襲い掛かる。
処理の速度が減速と引き換えに加速する。
デザイアが結をクローで突き殺そうとするその場。
そこに力が顕現する。
対象はデザイア。
実行するは、圧倒的負荷。
デザイア、元[ルシファー]が行ったもののそれに近いものが、仕返しとばかりに。
!?!?!?!?!?
デザイアを押しつぶす。
半分しかない左手はひしゃげ、胴と脚はグシャグシャニ。
頭は潰れ、板のようになっていく。
デザイアの動きが止まる。
その隙に、結は体に無理を聞かせてデザイアを振り払い、脱出する。
デザイアはそのまま地に落ちていく。
その間にも、その体は圧縮されていく。
そうなっていく中、急に重力強化が解除される。
地に付す皆は、その負荷から潰れ死ぬ前に解放される。
かなりギリギリであった。
「デザイアが潰れていく……?」
突如起こった事態に混乱する結。
潰れていくデザイアを見つめる。
数秒後。
「あれは……」
幻想的翼の恩恵で滞空する結は呟く。
その視線の先には、潰れていった結果球体状にまでなったデザイアがある。
そして、地面に落ちる。
鈍い音を立てて。
その見た目は、コアそのもの。
[ルシファー]が持っていた二つのコアのもう一つだ。
結は知らなかったが、[ルシファー]は新型と[ヴァリアント]が合体したものである。当然コアも二つ持っていたのだった。
落ちたデザイアの装甲は薄っぺらくなり、コアを僅かに覆っているのみ。
結よりも大きいいあの体が、どうしてこんな小さくなるのかは不明だったが、
「これでとどめを刺せる」
結は両手を合わせる。
その子から一段と大きな槍が黄金の光を伴って出現する。
日の沈んだ地にその輝きが広がる。
その光景は、まるで神が神造兵器を解放する光景だ。
「これで終わりいぃぃぃぃぃ!!!!!」
結が叫ぶ。
両手で握られる槍が、より一層強い光を放ち……打ち出された。
『これはいったい……なんだ!?』
誰にも聞こえぬ思考。
直後。
地上に落ちたコアに、その槍が突き刺さる。
コアは即座に砕け散る。
装填された意志は。
『くっ、こんな終わり方とはな。まぁいい。また機会もある……』
本体に帰還する。
コアを破壊した槍が光を放ちながら消滅していく。
「終わった……」
この森での対[ルシファー]戦は終わりを告げた。
「やった……」
槍が放つ光が勝利を祝うかのように、辺りを照らす。
それを見て結は、気が抜ける。
同時に幻想的翼が喪失。
彼女の体は力を失って落ちていく。
もう動けない。
思考もできない。
それぐらい疲れた。
もともと、ここには遊びに来たはずだったのだが、
こんなことになるとは。
それを最後に結は気絶する。
落ちていく彼女。
その体を受け止めたのは。
「あった。……ふぅ、終わっちまったか」
バハムートであった。
結がいた位置がたまたま彼女の真上だったからだ。
「ま、あの無双は楽しかったしいっか!」
さっきの強烈の負荷などなかったかのように元気な彼女であった。




