第三章[休みとトラブルの一週間]第三十二話
「体が軽い……」
バハムートの眼前のに躍り出てくる[ヴァリアス改]を片付けていきながら呟く結。
翼のせいか体がよく動く。
そこまで使っていない機体を、長らく使っていたかのように操れる。
時節、凜華が被弾しそうになるのを剣を振るって防ぐ。
「あ、ありがとう」
凜華はその急な強さに驚く。
剣が使えたのは前からだったが、機体をこうも使いこなせるほど経験を積んでいないはず。にも拘らず、自分よりも高度な動きを繰り返している。
ヴァルキュリアスに入ってから、ずっと行動を共にしてきたし、一緒に戦ってきたのだが(一戦のみだが)。ここまで差がつくものか。
「っつ!それ!」
思考をいったん中断し、接近した[ヴァリアス改]に背部アームに持つ近接ブレードを叩きつける。
コアに当たり、敵は光の粒子に変わる。
何回も繰り返すうち、目に見えて[ヴァリアス改]の数が減ってくる。
[ルシファー]は既に出し切っている。
増えない以上、減ってくるのは当然だ。
「近くなってきた」
イアが呟く。
敵の数が減少することによってバハムートが進みやすくなってきたのだった。
「あと少し。くふ。じゃぁ出力上げるか!」
バハムートが口内に火をため込む。
数発分の爆炎を一気に解き放つつもりなのだ。
最初程の威力の物は体力的に打てないからだ。
灼熱が吹き上がる。
バハムートの翡翠の目がデザイアとの戦いの楽しさにらんらんと輝く。
「ふ~」
彼女のその様子はまるでおもちゃで遊ぶ子供のようだ。
ただただ純粋。
まぁ今はたかが外れているだけだ。
普段はもう少し落ち着いて……いるとはいいがたいかもしれない。
「これで一掃!!」
叫び。
バハムートの口から爆炎が広範囲に放たれる。
「「うわっ!?」」
それに気づいて二人は慌てて高度を上げて回避。
爆炎は空に残る[ヴァリアス改]を瞬時に燃やし尽くす。
避けようと軌道変更したものもいたが、爆炎は広範囲にわたって放たれた。
一つ残らず炎によって敵は装甲を溶かされ、コアが融解。
光の粒子に代わる。
「これで邪魔ものは全滅。後は…」
「[ルシファー]だけだな!」
彼女等のその先、見定めるかのように一行を見つめる[ルシファー]。
ウイングユニットが切り離される。
[ヴァリアス改]が全機撃破され、手持ちもなくなった今用済みとなったという事か。
それとも自分所に結たちが来ることを察知して、戦闘の邪魔になるものを排除したのか。
いずれにせよ。
「本番の始まりだ!」
バハムートが叫ぶ。
後はこいつを倒せばここでの戦闘は終わりだ。
「あの~」
結と凜華がバハムートとイアのもとに降りてくる。
「危うく巻き添え食らうところだったんですけど……」
冷や汗を流しながら凜華が言う。
「お?すまんすまん!早く[ルシファー]と戦いたくて雑魚どもはとっとと潰しておきたかったんだよ」
その声を聴いてバハムートが笑いながら答える。
「[ルシファー]?」
二人が首をかしげる。
別に元からそんな名前がついているわけではないのだ。
言われても二人にわかるわけがない。
「あのでっかいデザイアの事だよ。名前がないと潰しがいないからな」
「ああ……」
頷き、納得する二人。
ふと。
「あれ、デザイアに名前つけて」
「そうした方が潰しがいがあるとか言うのって…」
二人がバハムートの正体に気付く。
「名乗ってないね!名はバハムート。幻竜種の十二勇者<覇竜帝>バハムートだ!」
彼女が名乗る。
それを聞いた二人はおおっと反応を返す。
まさか組織末端の自分たちが、かの有名な十二勇者に会えるとは思っていなかったのだ(ククルカン以外で)。
だが、今はゆっくり話をしている時間もなかった。
ゴオォォォォォンン!!!!
突如の咆哮。
四人が聞こえてきた方を振り向く。
その発生源は[ルシファー]。
ツインアイが紅く光る。
多数の脚が蠢く。
長大な腕が何度目か動き出す。
四人はその元に接近していきながら言葉を交わす。
「とっとと行って。そしたら後はこちらでやる」
「さっきからいろいろ疑問が多いんだけど……まず、あんた誰?」
凜華がイアに問いかける。
けれど彼女は無言。
その視線はずっと[ルシファー]に。
「こいつは、今禁忌?犯したとか何とかのあれ潰すことしかたまにないんだよ。こいつは……」
ギロッ!
バハムートが続けようとした言葉を彼女を人睨みして止める。
「お、どうした?」
「種族名を、十二勇者以外に教えるのはダメ」
「別にいいだろ?」
「良くな……」
「あいつの血族っぽいし」
「……?」
「ほら、そいつの背中の奴」
バハムートが結の方を向いてクイクイと首を動かす。
その言葉に「えっ?」と声を漏らす結。
「……確かに。大図書館にはそう記述されている。結はあの人の血族と」
「だろ?なら言っても……」
「攻撃!」
「おっと!」
迫る四人に[ルシファー]の攻撃が迫る。
だが、それは幾度となく行われてきた両腕の薙ぎ払い攻撃だ。
動きはもとより単調。
事前に察知できれば回避はできるものだった。
結と凜華は、先ほどそれに掛かってしまったわけだが、流石に今度は。
「加速!」
スラスターを全力噴射。
攻撃を避ける。
今度は成功した。
[ルシファー]の両腕が何もたらえられず空を薙ぐ。
グゥゥゥゥゥ……
舌打ち代わりに唸る[ルシファー]。
即座に腕を引き戻していく。
「そんなことは後。一気に行って!」
「そうだな。それ!」
加速するバハムート。
結と凜華もそれに続く。
「準備完了。後は触れるだけ」
「いったい何が?」
凜華が質問する。
「この機体の固有装備」
先程までは少したりとも聞かなかったイアだが、今度は答えた。
「固有装備?特殊な武装か何か?」
「詳しく答える必要はない」
「なにそれ」
その時、迫る三人を迎撃しようと[ルシファー]が無数の脚を動かす。その先端が開き、球体状の砲台が姿を現す。
光が集まり、ビームが放たれる。
四人はそれらを避けるため再度散開する。
もう[ルシファー]は目の前だった。
「あと少し!」
散開した三人は攻撃を加えるため加速する。
それを追って再びビームが放たれる。
「……!」
結は機体のスラスターをフル稼働。
複雑な機動を描いてビームの直撃を避けて行く。
「ふっ」
時に剣で薙ぎ払い、[ルシファー]に迫っていく。
それを防ごうと次々とビームが放たれる。
噴射。噴射。斬撃。噴射。急制動。斬撃。
それを繰り返す。
凜華も同じだ。
結より反応は良くないが。
一方バハムートは。
「さて、もうクライマックスだな!」
「ようやく」
[ルシファー]の両腕が彼女の巨体に迫る。
今度はそれを回避せず、
「ワンパターンだな!」
前脚でその腕をわしづかみにする。
!?!?!?!?
鋭いかぎ爪がその巨大な手を握りつぶしていく。
「今なら行ってもいいぞ!」
「分かっている」
彼女等の所にも無数の光が襲い掛かる。
バハムートが爆炎を吐いてビームを相殺する。
その隙にイアはバハムートが掴む[ルシファー]の両腕に飛び乗る。
バランスを崩しそうになるのを、腕部ユニットをバハムートの鱗を掴んできたときの要領で、巨腕の僅かな突起に引っ掛ける。
起き上がって、その上を走り抜ける。
[ルシファー]がそれに気づいて結や凜華を落とすのに向けていた脚をイアの方に向ける。
腕ごとイアを消し飛ばすつもりだ。
足の先端に光が収束していく。
イアは腕の上を走り抜ける。
跳躍するようなその走り方によって、彼女の体はすぐに[ルシファー]の胴体に迫っていく。
同時に、
「重奏砲[穿]!」
凜華が機体の主武装を使用。
打ち出された弾丸が[ルシファー]の巨体にぶち当たる。
爆発が起き、爆炎が上がる。
けれど例によって効果はない。
だが、衝撃で[ルシファー]の巨体が揺れる。
イアを狙うビームが放たれるが、それによって起動が逸れ、彼女にではなく、バハムートの方にあたる。
「ゴフッ!?……いいねえ!」
煙が上がるその中から傷だらけになりながらも、なお[ルシファー]の両腕を掴むバハムートの姿が現れる。その目は笑っていた。
「もう少し」
駆け抜けるイア。
彼女の機体の背部。
懐中時計を模したようなユニット。
その針が動く。それは零時を指す。
そして、彼女は胴体に到達する。
「ここが最も効き目がある!」
[ルシファー]は危険を感じ、体をよじるが意味はない。
イアは、両手を前に出す。
腕部ユニットのその先。
誰にも解することのできない模様がそこに浮かぶ。
「禁忌抵触者に制裁を!」
腕が[ルシファー]の胴に向かって突き出される。
模様の浮かぶそれが、装甲に突き立てられる。
刹那。
衝撃が巻き起こる。
!!!!!!
[ルシファー]が音なき怒りの叫びをあげる。
介入者による処理遅効を無効化。
処理実行。
そして、[ルシファー]のその強さが崩れ落ちる。




