第三章[休みとトラブルの一週間]第三十一話
「ん?ん?なんで抱かれてるの?私潰されたはずだけど……?」
――何か二年前見たい
あの時も自分は死にかけて……そしてこうして結に抱えられた。
傷が治っているのもあの時と同じ。
「あ、起きた…凜華、大丈夫?」
「うん。どういう状況?」
「あっちに竜が……」
竜は幻竜種の別名だ。
「へぇ、でっかい」
「古龍なのかも。かなりおっきいし。それにさっきの攻撃もすごかったし」
[ルシファー]の方を見る。
「え、効いてない?」
「何かあのデザイアにしたの?」
「私じゃないけど、あっちの竜がさっき炎を撃ったんだけど……」
「一切ダメージないねっと、結!」
「え?あ、うん!」
再度[ルシファー]の攻撃。
脚の先端が展開し、そこからビームが放たれる。
背の幻想的翼を動かし、その攻撃を回避する。
それを見て、
「結、何それ?」
「分かんない……気づいたら何か出てたし」
「飛行可能にする力…聞いたことないけど」
「覚醒者って言われたことあったけど、何なんだろ。説明されてないけど」
話す二人。
「いい加減に来る!!」
「へ!?」
大声。
唐突に聞こえたその声に驚く凜華。
「何か見たことあるもの出てるけど、それはいい。禁忌に触れたあれを殺る!」
発したのはイア。
「こいつお怒りだわ。はよやろうぜ!」
「そう!」
バハムートとイアが結たちの方に飛んでくる。
「[ルシファー]を叩き潰すんだ!」
「お、押し強いね…」
「でも、あれを倒さなきゃいけないのは確か」
地上の方を見る二人。
そこには立ち往生しているリジェネ、その横に浮かぶミューティ、それに地に伏した吹雪や宝玉種の者たち。
そのほとんどが傷を負っている。
[ルシファー]はいまだ健在。
倒さねば彼女等にもまた攻撃が降り注ぐだろう。
――さっきの凜華みたいに、なってほしくない……さっきもこれがなかったら本当に凜華を助けられなかった。三度も都合のいいことになるなんて思えない……だったら、未然に防ぐしかない…
そう考えた結は、
「凜華、パッケージって再展開できる?」
「あ、うん。デバイスは無事みたいだからこれ解除すればできると思うよ」
「じゃぁ、お願い。一緒に戦ってくれない?」
「……ミューティたちを守るため?」
「そう。さっきの凜華みたいなことになってほしくないの。今そう思った」
真剣な眼差しが凜華に向けられる。
其の瞳の奥にあるものを感じた彼女は。
「分かった」
真剣な面持ちで頷く。
これでも結構長い間を関係を持っている。
結の気持ちは目を見るだけでも理解できる。
決して軽いものではないのだ。
「解除」
凜華の体からパッケージの残骸が消滅。
彼女の手にデバイスが握られる。
「放すよ」
そう言って結は凜華の体から手を放す。
同時に凜華が、
「リアライズ!」
叫ぶ。
周囲から魔力が集められ、デバイスの刻印術式にあるデータをもとに機体を形成する。
「私も。リアライズ!」
結もそれに倣う。
同じように魔力が収束し、機体を再形成する。
光があふれ、消える。
そこにはARPX-03[ソードデバイス]を纏った結と、ARPX-16[影華]を展開した凜華が背中合わせに空にいた。
「あれ、何か軋んでる?」
再展開したパッケージの異音に気付く結。
「どうしたの?」
「なんか機体に負荷がかかっているような……」
背の幻想的翼を動かし呟く。
何故動いているのかは結にも分からない。
意識に反応でもしているのか。
この力を理解などできてはいない。
妙に都合よく出てくることだけがわかっているが。
「それなんじゃない?」
「そうかも。ま、大丈夫そうだからいっか。凜華」
「分かった。じゃ、あれ倒しに行くよ!」
やり取りを終え、[ルシファー]の方に向き直る二人。
巨体が身をよじる。
「ようやく。行く!」
「ははっ!いっくぜ~!」
イアとバハムートが声を上げる。
バハムートが翼を勢いよく羽ばたかせる。
その巨体が一気に加速し、[ルシファー]に迫る。
結と凜華もそれに続く。
結は剣を背中から引き抜き、凜華は重奏砲[穿]を構える。
『多少数が増えたところで。不安要素はあるにはあるが、あの程度ならこれが破られることはない』
誰にも聞こえぬ思考。
[ルシファー]のツインアイが紅く光る。
本気の戦闘形態に移行したのだった。
背中のウイングユニットが展開し、残った[ヴァリアス改]が射出される。
勢いよく飛び立ったそれらはすべての武装を起動。
ミサイルが打ち出され、ビームキャノンが火を噴く。
「いくよ凜華!」
「うん結!」
スラスターを完全開放。
突進を開始する。
各々が自己の判断で散開する。
「すげぇ弾幕だ!」
バハムートが興奮しながら言う。
飛行して攻撃を回避。
ミサイルなどは威力を絞った竜の息吹で迎撃する。
またがるイアは[ルシファー]から目を離さない。
「それ!」
凜華が重装砲[穿]を放つ。
打ち出された弾丸が飛行する[ヴァリアス改]の一機を打ち抜く。
!?
打ち抜かれたそれの躯には風穴が空き、コアを吹き飛ばされたことで光の粒子となって消える。
けれど、それに喜んでいる暇はない。
最初に比べてだいぶ減ったが、まだまだ[ヴァリアス改]は残っている。
油断は禁物だ。
「来た!」
結のもとに迫る編隊を組んだ三機の[ヴァリアス改]。
取り付けられた武装はミサイルポッドとビームキャノン。
当たれば大怪我は免れない代物だ。
それらを見、結は剣を両手で正面に構えつつ速度を落とさず突き進む。
剣の腹を楯とし攻撃を食らうのを防ぐ。
これは絶対切断と完全防御をコンセプトに設計され、データが刻印されたものだ。
生半可な攻撃では壊れない。
そのコンセプト通りの力を発揮する剣。
[ヴァリアス改]から放たれるいくつもの閃光を防ぎきる。
「ふっ!」
身を翻す。
四機のスラスター複雑稼動し、姿勢を制御する。
また別の角度から攻撃がくる。
次は三つのミサイルだ。
剣の防御範囲外から変則的な機動を描いて迫ってくる。
スラスター、左側の二機を操作。
急制動。
ミサイルの迫りくる方向に剣を向ける。
剣の表面の機械的な模様が輝く。
防御から攻撃へ。
剣が振るわれる。
「この!」
至近距離のミサイル。
それが結の正確な剣によって一刀両断される。
二つに分かれたそれは一瞬勢いのまま進み、彼女から離れたところで思い出したかのように爆発する。
その余波を背に受けるが、結はダメージを受けない。
間髪入れず[ヴァリアス改]のビームが来る。
それを察知。避けられないと悟り、再度の急制動で回避。
やったところで、急加速。
[ヴァリアス改]のもとに迫る。
剣を体の横に。
四機のスラスターを駆使してさらなる攻撃を避け、
「ふっ!」
剣を真横に振るう。
[ヴァリアス改]三機は散開しようとするが、剣の一閃はそれらを逃さない。
!?!?!?
捉えたそれらを一刀のもとにねじ伏せる。
上下に両断。
わずかな間中の真っ二つになったコアが見える。
だが、即座に粉々に砕け散りデザイアの体とともに消滅する。
消滅を確認して結は飛び上がり、[ルシファー]の方に向かう。
「それ!こいつらは雑魚だな!」
背にイアを乗せたたまま、バハムートは行く。
竜の息吹を放ち、その爪を以てして[ヴァリアス改]を切り裂き、蹂躙する。
相当な勢いでデザイアが減っていく。
「こいつらは前菜だな!」
楽しそうに声を上げる。
「バハムート」
「何だ?」
機嫌よさげに反応するバハムート。
「禁忌抵触のデザイアに向かって」
「?…[ルシファー]か!」
「そう。二人!」
「「はい?」」
「こっちの正面にいるデザイアを処理!裁きを下すためにあっちの大きいのに触れる必要がある」
「何するつもりなんだ?」
「あれが現在進行形で行う行為を打ち消す」
「行う行為?」
「処理遅効をやめさせる!結、凜華!」
「え、何で私たちの名前……」
「いいからやる!」
「従っとけって!こいつすごい力持ってるのは確かだから」
「こいつとは何!」
「すまんすまん」
「いいからやって!」
力のある声が響く。
それは思わず従わなければと感じてしまうものであった。
「と、取り合えず行こう!」
「分かった。結!」
結と凜華はひとまず、イアが自分たちの名を知っていたことの疑問は横に置いておき、バハムートの前に躍り出る。
「「それ!」」
それぞれの武装で[ヴァリアス改]を着々と撃破していく。
バハムートの背のイアは、
「その調子。ならば起動準備」
そう言う。
彼女のローブがはためく。
中の水晶が光を放つ。
それに呼応し、彼女の機体ARPX-14[リブート]の懐中時計を模したような大型ユニットが振動する。
短針と長針が回転し、指す時間が零時から六時に代わる。
不可視の力が放たれる。
戦闘の邪魔になるようなものではない。
けれど、それは周囲に目に見えぬ影響を与えていた。
!!!
[ルシファー]が驚愕からか目を見開くような動作をする。
「介入している分際で調子に乗るな」
冷たい声で言うイア。
その目の色は真紅に代わっていた。
機体の各部が光り輝く。
彼女は一度目を閉じる。
そしてカッ!と見開く。
機体に力が満ち、本機最大にして最強の装備の使用準備が行われていく。




