第三章[休みとトラブルの一週間]第二十九話
時間は少し遡る。
「暇」
プラネシアの例の会議室。
明かりが落とされたそこで、他の者たちが出払った事で一人になったイアは暇を持て余していた。
彼女は戦闘力もなく、また技術もないので、やれることもなかったのだ。
特殊な力、権能をもってはいるのだが。
まぁ、昔から積極的に何かすることは少なかったのだが。
「様子、見てみる…?」
何となくで、視る(、、)準備をするイア。
水晶が光り、本が宙に浮かぶ。
彼女の瞳が金に変わる。
能力解放の言葉を口にし、自身が今いる大陸を“視る”。
「順調に狩れてるみたい」
大陸のある戦場を見て呟くイア。
そこでは、侵入した新型のデザイアの討伐任務が行われていた。
新型デザイアは高い隠蔽能力を持っており、発見するのは難しい。
だが飛ぶことはできないので、それらは地を行く。
そのため移動時にどうしても音が出る。
それを察知できれば攻撃を加えることができる。
幸い、新型デザイアの耐久力は大したことがないので、見つけることさえできれば撃破は容易だ。
ヴァルキュリアスの隊員たちは、そこんところうまくやっているようだ。
「問題なさそう」
因みに、新型デザイアの大まかな位置を教えたのはイアである。
円卓会議終了後、会議に参加していたものの一人が大雑把でもいいからデザイアの位置情報をくれといってきたので、かなり頑張って視て(、、)教えた。
その時の疲労を休めるために、イアはここに留まっていたのだ。
「こっちも」
各地の基地の様子も見てみる。
ちゃんと話がとっているらしく、パッケージの改修などがしっかりと行われている。
海岸線基地でも、例の巨大兵器の準備も……
「ん?」
あちこちを見ていたイアがあるところを見て疑問を声に出す。
プラネシアから少し離れた森林。
その中にある湖の上に、巨大な物体が浮遊している。
堕天使を模したような見た目をしているそれは。
「……デザイア!?…でもこんな大きなのが…いたんだった」
[インパクター]の例を思い出すイア。
先例があるのだ。
今更驚くことでもないと思いなおす。
「ルビリントたちだ」
視て(、、)いる(、、)場所に、ルビリントたちの姿を見とめる。
どうやら、あの巨大なデザイア撃破のために戦っているようだ。
パッケージの武装が大型のデザイアに襲いかかっている。
「これだけ、叩き込んだら倒せそう」
そう呟き、また別の所を視よう(、、、)と視線を動かそうとするイア。
その時、
「あれ、何?」
視線を外そうとした矢先、ルビリントたちが一撃で倒れ伏すのが…
「え?」
驚いて視線を戻す。
「今のは!?」
視界の端にしか映らなかったが、デザイアの腕と脚が彼女らを攻撃し、全滅させたのが見えた。
そんな馬鹿な。
そう思い、デザイアを注視するイア。
こんな一瞬でルビリントたちを倒すなんて。
だが、デザイアもそれなりの損害を負ったはずだ。
あれだけ攻撃を受けていたのだから。
だが、
「傷がない…?」
イアの見たデザイアの巨体には、傷一つなかった。
どんなに硬い装甲であったとしても、絶対に損害が出るはずだ。
「ん?」
そう考え、デザイアの全身をくまなく観察するイア。
そこで違和感に気付く。
デザイアの装甲の一か所。
そこに存在するポリゴン。
「何でこんなものが…」
これは、あるはずがない物だ。
通常、自然現象でも発生しえない。
どんな手段でも、絶対に。
だがそれが、デザイアの装甲にある。
「まさか…」
いや、しかしそんなことが……
「処理に干渉して…」
そこまで考えた時、突如としてイアの頭に血が上る。
もし自分の考え通りなら……
「禁忌法則に抵触…」
この星の禁忌にデザイアは触れたということになる。
侵してはならない絶対の法則に。
ならば、
「潰す。抵触したのなら」
自分たち以外に許されない、その行為を犯したのなら、断罪しなければならない。
潰すという行為によって。
「今、出れる?」
視(、)る(、)のをやめるイア。
水晶の輝きが消え、本が彼女の手元に戻る。
イアは他に誰もいなくなった会議室を見回す。
入り口の扉を暗闇から探し出し、円卓の側面を通って、会議室の外に出る。
そこは魔性金属で作られた長い廊下だ。
「潰す…潰す…!」
そう呟きながら廊下を走るイア。
突き当りにある階段を駆け降りる。
ここは会議専用の区画だ。
他に誰もいない。
そのため、一切の邪魔なく突き進める。
目的の場所、最下層の格納庫に。
「ふっ」
イアは水晶と本をローブの中にしまう。
自由になった両手を使い、階段をショートカットする。
それを何回も繰り返し、最下層につくイア。
階段の終わった先にある通路を走り抜け、格納庫の入口につく。
ドアが横にスライドする。
それも待ちきれず、イアはある程度開いたところから勢いよく中に入る。
「お?イア様じゃありません、か!」
扉の近くで作業を行っていたクライシスが、持っていた工具を近くのカートに置いてポーズをとる。
結たちの時とは違い、一応敬語を使っている。
まぁ、こんなポーズをとりながらではあまり意味がないが。
「挨拶はいい。それよりあれ、渡して」
だが、そんなことは気にせずにイアは言う。
「あれ、とは…あれで?」
「そう。あれ」
「分かりました。ちょっと待っててください、ね!」
そう言うとクライシスは近くの棚に向かっていく。
「エンテ、あれ出して」
「へい?」
妖霊種の男が言う。
作業着を着たおっさん風の者だ。
「あれだよあれだよ」
「いや、そんな分かるだろみたいな発現されましても」
「察してくれよ…」
「わかりませんぜ…アッシそう言うノリは」
「はぁ」
「ため息とかやめてくだせぇ」
「私がとる」
「どうぞどうぞ…え?」
「イア様、場所分かるんですか?」
「…分からない。教えて」
「はいは~い」
そう言って、棚の一か所を開くクライシス。
それを見、その中にある一つのデバイスをとるイア。
一見普通のアーマード・パッケージのデバイスだが、そこに刻印されている機体情報は…
「じゃ行く」
そう言い、イアはローブを翻して格納庫の外、転移門のある方に走っていく。
「行ってらっしゃいませ!」
少しふざけた感じの声で言うクライシス。
それに返事はせず。
「通して」
「え?」
「早く」
「あ、はい」
作業員の一人がイアの気迫に押され、急いで装置を操作し、扉を開ける。
「リアライズ」
サラッと言い、機体を展開する。
デバイスから光があふれ、装備を形成する。
同時に扉が開き、外の光が彼女と機体にあたる。
その影が格納庫内に落ちる。
背中の大型のユニット、腕にある大型装甲の影が。
そして、イアは外に進む。
「あれ?」
「お?」
その先には、人影…竜影が一つ。
紅い鱗に覆われた巨竜が、転移門の目の前で四足で佇んでいた。
「バハムート?」
「イアじゃねぇか」
紅い巨竜、バハムートが首をかしげる。
何でここにと言わんばかりに。
その体はとにかく大きい。
「禁忌を犯した可能性のある者が、デザイアがいる。それを倒しに行く。そこ、今から座標いうから開いて」
「はい?いえでも、バハムート様が出るためにすべて使って大きいのを作っているのです。少し待っていただかないと」
「バハムート、譲って」
聞いてすぐにバハムートに言うイア。
「おう?さっき言ってたデザイアって強いのか?倒しがいあるのか?」
「ん?多分。でもそんなことはいいから」
「分かった。お~い変更頼む」
「え、今更ですか?」
「イアの行く場所でたのむわ」
「いっしょに来るの?」
「おう。強いなら潰しがいがある。今まで全く戦えてないしな。はよ」
「き、聞いてない…まぁ仕事はやるけど」
ブツブツ言いながら転移門の目的地の座標を書き換える。
転移門が揺れる。
すぐにその揺れは止まる。
座標の変更が完了したのだ。
「でる」
簡素に言って、地を踏み、勢いよく中に入ろうとするイア。
「おっと、乗ってけって」
「じゃぁ、よろしく」
「早!」
イアはバハムートの言葉に速攻乗る。
「まぁ、いいや。出るぞ!」
「速く」
「ほいほい。じゃ、楽しい楽しいバトルの始まりだな!!」
そう言って翼を広げ、転移門に飛び込むバハムート。
その上のイアの心は、
――禁忌を犯した者は許さない……
であった。
行先は、ルビリントたちを瞬殺したデザイア、[ルシファー]の存在する場所だ。




