第三章[休みとトラブルの一週間]第二十七話
「う…」
[ルシファー]の攻撃によって吹き飛ばされ、地に落ちた結。
パッケージに守られていたことで、大怪我は避けられたが、それでも体中が痛む。
機体は、腰のアームドユニットが二つ失われており、背部装甲はひしゃげてしまっている。
機関部のマナブーストジェネレーターは無事なようだが。
「くっ…」
痛む体を越して、残った後ろ側のアームドユニットを地面にさしてゆっくりと立ち上がる。
「デザイアは…」
痛みに耐えながら上を向く。
まだ[ルシファー]は健在であろう。
放っておくわけには…
「……え」
見上げたその先には、握り締められた[ルシファー]の手。
その隙間からは血が流れ、パッケージの腕が覗いている。
それは、凜華の機体ARPX-16[影華]のものだった。
つまり、あの手の中にいるのは…
「凜華!」
そこまで考えた時、すでに体は動いていた。
残るスラスターを全力噴射し、少し不安定な動きで空に瞬時に飛び上がる結。
「凜華――!!」
叫びながら[ルシファー]の腕に飛び込んでいく。
それに[ルシファー]が反応を示す。
ツインアイが紅く光る。
それと同時に、
「くっ!?」
下の方から[ヴァリアス改]が高速で迫ってくる。
まだ全滅させてはいないのだ。
襲ってくるのは当然か。
そして、今の機体の損傷ではその攻撃を回避することは難しい。
[ヴァリアス改]のミサイルや、ガトリングによる猛攻が、彼女に襲い掛かる。
やむなく向き直り、両腕で剣を横に構えて攻撃を防ぐ。
「う……」
如何にかそれを防御しきることはできたが、その際の衝撃で機体がダメージを受けてしまう。
それによって機体がかしぐ。
バランスがより悪くなり、高度の維持が難しくなる。
[ヴァリアス改]は速度を下げず、結に迫ってくる。
攻撃のショックで震える手を如何にか動かし、剣を振り上げ、迫る[ヴァリアス改]に攻撃を掛けようとする。
!
それに気づいた[ヴァリアス改]が急制動をかける。
軌道が逸れ、結の剣の側面にその体の下部が接触する。
それにより火花が上がり、その際の衝撃で結の手から剣が零れ落ちる。
[ヴァリアス改]はそのまま、彼女の肩の上を通過し、向こうに飛んでいく。
そして、結は接触の衝撃でさらにバランスを崩して一回転し、落ちていく。
アームドユニットは後ろの二つのみ。
接続角度の問題で、姿勢制御は叶わない。
けれど諦めず、残り二つのスラスターを全力噴射し、無理やり上昇する。
「凜華ッ!」
友の名を呼び、体中が痛む中、全力で[ルシファー]の腕に接近する。
それを見た[ルシファー]は。
ブウゥン…
その目が少し弱音に光る。
それはまるで、目を細めたかのように見えた。
[ルシファー]が首を動かす。
それと同時に握りこまれていた両手がゆっくりと開かれる。
まるで見せびらかすかのように。
凜華の血で部分的に赤く染まったその手を。
「ッ…」
マナブーストジェネレーターをフル稼働させ、無理やりにでもスラスターの出力を上げる。
速度が上がり、[ルシファー]の巨体に体が近づいていく。
剣を左手に持ち、空いた右腕を精一杯伸ばす。
開かれていく[ルシファー]の両手。
機体に無理を言わせ、速度を上げる。
ゆっくりと手の中が見えてくる。
指の先まで力をいれ、手を開く。
手の中には、
「はっ……」
思わず息をのむ。
目がこれでもかと開かれる。
衝撃で心臓の鼓動が一瞬止まり、息が止まる。
[ルシファー]の開かれた両手。
その右側には、幻獣化しているものの、体中から血を流して気絶する凜華の姿があった。
ここの湖に来た時から着ていた水着はところどころが破れ、その隙間から除くきづ着いた肌は痛々しい。
「……凜華……」
二年前、デザイアの初襲来時に凜華が結をかばって血を流した時の光景が、それに重なる。
「凜華…凜華…凜華ッ!」
そして、あの時と同じように。
「このっ!」
手を伸ばす。
友に向かって。
必死に。
だが。
……!
それを見た[ルシファー]は、まるでからかうかのように凜華を握った方の手を上にあげる。
「ッ凜華!」
叫ぶ。
だが、彼女に声は届かない。
そして、[ルシファー]は凜華の体を持つ右手を、
「はっ…」
彼女を潰せるぐらいの力で握り締める。
「くふっ…」
凜華が苦しげにうめき声をあげる。
全身からさらに血が噴き出し、彼女の幻獣化が解ける。
苦しげな表情を浮かべ、吐血する凜華。
体の傷が大きくなっていき、彼女の痛みを増大させる。
ブウゥゥゥン
[ルシファー]のツインアイが結を見て笑うかのように赤く輝く。
それと同時に凜華を掴む力が強くなる。
「く…ぅ…」
凜華のからだから力が抜ける。
「このおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
それを見た結の頭に血が上る。
そして、二年前の時と同じようにその手に光の槍が生み出され、
「凜華を!」
それを、
「放せ!」
[ルシファー]右手首に向かって投擲する。
――またあの時と同じようになるなんて!
槍は結と[ルシファー]の間の空間を瞬時に突き進み、その手首に迫る。
そして、あの時のように槍はデザイアの躯を貫く。
貫いた。
そのはずだった。
「え……」
槍は、[ルシファー]の手首を目の前にしながら、そこで直進を停止していた。
訂正。
停止させられていた。
槍の先端に現れたポリゴンのようなものによって。
「くっ!」
それを見て、今度は剣を両手で構え、[ルシファー]に直接攻撃を…
「ぐッ!?」
加えようとした時、[ルシファー]の左腕が振るわれる。
それは高度な動きが不可能となった結を正確にとらえる。
彼女の体をつかみ上げ、右手を同じく握りこめて結を苦しめる。
「こ…の…」
防御力も大幅に低下した機体ごと、圧力をかけられていく結。
その力は途轍もなく強く、抵抗がかなわない。
もとより痛んでいた体に更なる激痛が走る。
思わず握っていた剣を取り落とす。
体が悲鳴を上げている。
[ルシファー]はそんなことはお構いなしに、より力を入れていく。
結を握る左手だけでなく、凜華を握る右手も。
「り…ん…か」
強烈な痛みにさらされる中、友の名をかすれた声で呼ぶ。
そして、その体にかかる力は際限なく強まっていく。
「ぅ…」




