第三章[休みとトラブルの一週間]第二十六話
「そこ!」
凜華が飛び回りながら自信の機体、ARPX-16[影華]の重奏砲[穿]を使用、空から迫る[ヴァリアス改]の一機を撃ち落す。
重装型であっても、あくまで武装が多いだけで防御力は通常の物と大差ない。
恐らく、普通のエネルギーライフル程度でも撃破可能だろう。
だが、
「数が多すぎる…!」
吹雪が呟く。
彼女もARPX-04[インフィニット]のアームズクリエイトでライフルを生成して、[ヴァリアス改]に応戦している。
すでに何体かは撃破しているのだが、なかなか数が減らない。
「まだ来る…」
[ルシファー]の方を見上げてみると、ウイングユニットから次つぎと[ヴァリアス改]が射出されてきている。
その勢いは衰えることを知らない。
一体どれくらいの数が格納されていることやら。
「っつ…それ!」
四つのアームズユニットのスラスターを使用して、複雑な軌道を描く結。
その中で、接続された武装を使用し攻撃してくる[ヴァリアス改]に、背中から引き抜いた剣で反撃する。
結の機体、ARPX-03[ソードデバイス]には遠距離武装がない。
そのため、こうして倒すしかないのだ。
「はっ!?」
死角から[ヴァリアス改]がミサイルやガトリングを放ちながら突っ込んでくる。
それに気づき、体をスラスターに急制動で回転。
剣の側面を前に出しつつ、上に飛び上がる。
剣が[ヴァリアス改]の攻撃を防ぎ、彼女の体を守る。
そして勢いで彼女が元いた位置を[ヴァリアス改]が通り過ぎる直前、前側のアームドユニットを伸ばす。
そこに取り付けられている大剣が飛行する[ヴァリアス改]の胴を貫く。
コアを直撃したのか、すぐに光の粒子となって消える。
だが、まだ敵は迫ってくる。
まだ実戦経験が浅い中、頑張ってデザイアの連続攻撃を捌いている。
けれど、体力はどんどん消費されていく。
機体の魔力は、マナブーストジェネレーターが賄ってくれているためまだ持つが、疲労はどうしようもない。
『皆さん!』
そんな時、地上の方から声が聞こえてくる。
ミューティの声だ。
『今から、私がこれで一気にデザイアを薙ぎ払います!』
声のする方を[ヴァリアス改]の攻撃を受け流し、迎撃しつつ見る三人。
その先には、一機のタクティカル・パッケージがたたずんでいる。
しかし、各部は大きく損傷しており、塗装も剥げている。
左腕はなく、残りは右のみだ。
その機体は、TCPA-05[λ(ラムダ)]。以前パールが使用していたものと同じ機体だ。
今ある武装は右手の大型砲のみ。
だがそれは本来、中型デザイアを一発で撃破できるほどの威力、長大な射程、広範囲砲撃
を持つ。
[ヴァリアス改]の軍勢を滅するぐらいは可能だ。
あくまで万全の状態での話だが。
「ミューティ!それどこで!?」
『比較的損傷が軽微そうなものに憑依させてもらいました。エリュシュオンはリジェネさんに守ってもらっています!乗ってた方もです!』
精霊種は物体に憑依することでそれを自由自在に操る。
それを最大限活用できるように、単純な可動フレームで構成されたのがストライク・パッケージだ。
だが、別にタクティカル・パッケージでも憑依は問題なくできる。
ただ、動かすときに機体の魔力伝達回路に魔力を送り、関節部のモーターを動かすなど、ややこしい操作が必要なため、反応速度が落ちてしまうという欠点があるのだ。
『この角度で撃ちます!多分損傷具合から見て一度しか撃てませんが、その分最高出力で行きます。当たったら無事ではすみませんよ!』
「分かった。結、吹雪!」
「う、うん!」
「わ、わかったっと!」
[ヴァリアス改]の猛攻を如何にか防ぎつつ、射線上から退く三人。
それを確認して、憑依した機体の砲の発射角を調整するミューティ。
その機体の右肩の装甲の上でリジェネが、
「問題ない?」
『はい。魔力伝達は順調です』
「それはよかった…っと!」
急降下してきた[ヴァリアス改]に槍を一振り、一刀両断して撃破するリジェネ。
彼女がそこにいる理由だが、単純に大して飛べないからだ。
もともと[ウンディーネ]は地上型中型デザイア、[エクスマキナ]などとの戦闘が前提である。
空戦など想定外だ。
少しは飛べるが、結たちのように複雑な軌道を描くことは機体の性能的にも、本人の技量的にも難しいのだ。
そして、[λ(ラムダ)]に憑依したミューティから魔力の伝達を変わりやってくれないかと頼まれたのだ。
機体は大きく損傷している。
唯一残った右手の魔力伝達回路にもそれは及んでいる。
それによってミューティが機体に流す魔力がうまく送られていないのだ。
通り道が崩れていては通るものも通れない。
そのため、代わりにリジェネが送っているのだ。
それによって機体の腕はどうにか動いている。
ちなみにリジェネの横では、パイロットであった宝玉種の少女を、意識を表面に出したエリュシュオンが使える魔術であるヒールを使用して治療している。
プリズムハートの歌のおかげである程度傷は癒えている。
魔術で体の修復力を強くしてやれば、後は自力で回復できるはずだ。
機体を借りた代わりにやっているのだ。
『リジェネさん、そろそろ撃ちます。降りて構いませんよ』
「分かったわ」
そう言って槍を背中に懸架し、宝玉種の少女を抱き上げるリジェネ。
スラスターを使って、ゆっくりと地に降り立つ。
それをエリュシュオンが追う。
「降りたわ。もういいわよ」
『はい!』
その声を聴き、射角の細かな調整を終わらせたミューティが元気よく返事を返す。
そして、[λ(ラムダ)]の大型砲が[ヴァリアス改]の軍勢、その元の[ルシファー]に火を噴く。
出たのは真っ赤なビームだ。
『ぐっ!?』
瞬時に射線上の[ヴァリアス改]が薙ぎ払われる。
ビームは止まることなくそのまま、[ルシファー]に直撃する。
「やった!?」
結がそれを見て呟く。
『っつ…やっぱり壊れてしまいましたか』
[λ(ラムダ)]が膝をつく。
同時に右手もろとも砲が地に落ちる。
今の砲撃で機体が限界を迎えたのだ。
それっきり動かなくなってしまった。
『でも、今のはだいぶ効いたはず…』
ミューティが小さな声で言う。
[ルシファー]の体からはもうもうと黒い煙が上がっている。
だが、倒れる様子はない。
「…やったって言ったら…」
凜華が呟く。
それに呼応するかのように、煙の奥から赤い光が現れる。
[ルシファー]のツインアイの輝きだ。
「やれてるわけないよね。よくあるやつだけど」
[ルシファー]の右手が勢いよく振るわれる。
それによって生まれたによって煙が晴れる。
現れたその姿は先程と全く変わらなかった。
ようは、外傷が一つとして確認できない。
[ヴァリアス改]の数は大幅に減らすことはできたが、それを出してくる[ルシファー]に一切ダメージを与えられていない。
『効かなかったんですか…?』
ミューティが絶句する。
「あれ、結構威力ありそうなのに…」
結が残りの[ヴァリアス改]の相手を如何にかしながら呟く。
子機型は倒せても、母体が倒せない。
ただ、あちらもストックがなくなってきたのか、[ヴァリアス改]の射出速度はかなり落ちてきている。
[ヴァリアス改]は如何にかできそうだが……
「!?」
その時。
ブウゥゥン!!
[ルシファー]のツインアイが妖しげに光り輝く。
それと同時に、その長大な両腕が左右に勢いよく振るわれる。
「く…っは!?」
「のわっ!?」
それを食らった結と吹雪は勢いよく吹き飛ばされ、機体に損傷を追う。
「結!?」
それを見て凜華が付けに行こうとする。
が、
「うわ!?」
今度は左右に振るわれていた腕が逆方向に振るわれる。
その間には凜華が。
「え、え…!?」
それに気づいた時には、両腕は彼女が逃げれられない位置の間で迫っていた。
そして、結局回避もできず…
バンッ!!
あまりに簡素な音がする。
[ルシファー]の両腕が握りこまれる。
間に凜華を挟み込んだまま。
その隙間から赤い液体、血が吹き出て、パッケージの一部が落ちていく。
「マスター!!!!」
[λ(ラムダ)]から離れたミューティがそれを見て叫び声をあげる。
それに応える声はない。




