第三章[休みとトラブルの一週間]第二十五話
「あれは…」
六人の内誰かが呟く。
リジェネの家の例の空間を、プリズムハートの歌によって地上に上がった。
その原理は不明であるが。
そして、そこにいるはずのデザイアは…
「これって…」
結たちが見た[ヴァリアント]ではなく。
吹雪やプリズムハートが戦った新型でもない。
そこにあるのは―いや、その上に浮遊するのは堕天使を連想させる者。
[ヴァリアント]と新型が融合した、偽天使型[ルシファー]。
一切の攻撃を受け付けず、十数人のパッケージを纏った宝玉種を一瞬にして全滅させた過去最大級の強さを持つデザイアである。
「あれ?こんなのだったっけ?」
吹雪が首をかしげる。
こんな巨大なデザイアはいなかったはず。
「落ちてきた奴じゃ、ない…?」
同じことを思う結と凜華。
体を動かさず、ただそこにあることが当然であるかのように漫然と浮遊する[ルシファー]。
その存在感は圧倒的だ。
「その身に秘めて!」
「あ…」
プリズムハートが力強く歌いきる。
それと同時に、安全な場所の上に移動させられた一行が、ゆっくりと森の中に降ろされる。
先程の場所の真上は、新型デザイアの謎の能力による重力強化で、ほとんどが崩落状態だったからだ。
「ふ~」
プリズムハートが満足げに息を吐く。
久しぶりに歌い切れてうれしいのだ。
ここに来てからはいろいろあって満足に歌えなかったからだ。
―なんで、あんなところにいたのか覚えてないけど
「えええええ!……あれ、どうする…?」
驚きを顔に表しながら結が凜華の方を向いて言う。
デザイアである以上は、倒さなければならない。
けれど、この大きさは…
「あの時のぐらい、ですね…」
海岸線基地で戦った[インパクター]なみである。
あの時は、シユなど機巧種や、基地の人たちの援護があった。
それによって、[インパクター]の撃破に成功した。
だが、今回はそんなものはない。
「でも、こんな目立つデザイア、ヴァルキュリアスがほっとくわけが、ないんだけどなぁ」
凜華が呟く。
彼女らは、今ヴァルキュリアスが大陸に侵入した他のデザイアの始末に忙しいことを知らない。
一応ヴァルキュリアスは、ここにデザイア討伐のためにルビリントたちを出していたのだが…
「あら。あそこ…」
尾ひれを地面につけて槍を地に刺し、バランスをとるリジェネ。
彼女がふと木々を見ると、そこには。
「宝玉種?」
その声に反応した吹雪がリジェネと同じ方向を見て言う。
そこには、アーマード・パッケージを纏った一人の宝玉種の少女がいた。
だが、機体はひどく損傷し、大破と言って差し支えない状態だ。
本人の傷、体の魔力結晶のダメージはそれほどないようだが。
「あれ、他にも…」
さらにその周りを見ると、何人もパッケージを纏う、または搭乗した宝玉種が倒れ伏していたのが確認できる。
見える範囲では、全員傷の度合いは同じである。
タクティカル・パッケージは四肢が大きく損傷。
コクピットの装甲も損壊しているのがほとんどだ。
アーマード・パッケージは武装が損失、使用者の体を覆う装甲は破壊されているものが大半である。
「ひどい…」
「あれがやったの…?」
そう言って、[ルシファー]の方を見つめるリジェネ。
「これって…」
結たちもその惨状に気付く。
その光景は目視できる範囲の隅々まで広がっている。
誰一人として、目を開けない。
生きてはいるようだが。
「どうする?」
周囲の惨状を見、どうするか意見を集う。
そして、
「そんなの決まってるよ☆全員助ければいいんだよ!」
プリズムハートが明るい表情で言う。
すると、有言実行と言わんばかりに機体のスラスターと背の翼で空に飛び立つ。
[夢装者]の背部ユニットが翼に干渉しないように展開し、音楽を奏で始める。
同時に再び精一杯歌い始めるプリズムハート。
彼女の口から紡がれるメロディーは、生きるものを癒す聖歌だ。
その歌声が周囲に響き渡り、
「……」
一番近くいた宝玉種の少女がそれを受けて少し反応を示す。
効果があるようだ。
「この歌…効果なの?」
「まぁ、あの方たちが回復している理由って、これしかなさそうですしね」
「う~ん。でも歌ってこんな効果あったっけ?」
「確かに呪文でも歌詞に含まれていないと、こんなのありえないけど…」
「でも、こういう術式の文句なんて含まれてないっぽいけど」
「そうだよね…」
歌は人を勇気づけることはできるが、体を癒したりすることは普通できない。
歌詞の中に魔術の呪文を仕込むことで見た目は歌が力を持つようにすることはできるのだが、プリズムハートの歌にはそういったものは聞こえてこない。
何かの異能なのか。
それとも、あの光り輝くデバイスが何か関係あったのだあろうか。
あれによって彼女の性格が少し変わったようだし。
「なんか不思議な天使だね」
「うん」
その時、
ブウゥゥン!
ただそこにあるだけだった[ルシファー]のツインアイが、真紅に輝く。
ウイングユニットが上下に大きく動き、複数の脚が蠢く。
長大な腕につく先端が鋭くとがった五本の指が開かれ、閉じられる。
そして、[ルシファー]の巨体が動き出す。
各部が紫に光る。それが、漆黒の巨体と合わさってその邪悪な雰囲気を際立たせる。
動き出す[ルシファー]。
それが最初に行った行動は。
「癒しの翼…え!?」
宙に浮かびながら歌を歌うプリズムハートへの攻撃だった。
長大な腕が振るわれ、その手に彼女のあまり大きくない体が掴まれる。
「っつ…」
その手自体も、また巨大でありもし力が籠められれば、彼女の体など一瞬で握り潰される。
だが、[ルシファー]はそんなことはせずに、
「え?う、うわわわわ!?!」
勢いよく彼女を空に向かって投擲した。
その速さは秒速70m程。
とんでもない速度で彼女は空に。
このレベルで急に投げられるとパッケージのスラスターのフル出力でも、聖翼種の翼でも抵抗はできない。文字通りすっ飛んでいった。
「あ~れ~」
若干ふざけたような声が聞こえてくる。
「ええ…」
プリズムハートを投擲した後、[ルシファー]は今唯一戦闘行動が可能な結たちの方を向く。
「え…?」
まだ攻撃も何も行っていないのになぜこちらの位置が。
ブウゥン
ツインアイが光り、次なる行動を開始する。
ウイングユニットが二つに割れ、その間から何かが顔を出す。
それは、子機型[ヴァリアス]に近い見た目をしているが、若干大きい。
そしてそれらには多くの武装が接続されている。
重装型とでもいうべきものだ。
「あれって…」
[ヴァリアス改]とでもいうべき小型デザイアがウイングユニットから射出される。
即座にそれらは散開し、攻撃準備を整える。
それを見た五人は、各々の武器を構えて戦闘態勢に入る。
「くっ…」
大型デザイアの脅威が迫ってくるのだ。
応戦せざる負えない。




