第三章[休みとトラブルの一週間]第二十四話
湖の上。
そこに浮遊する新型デザイア。
巨大なウイングユニットを背後に持ち、二つの腕は巨大かつ長大。
前後に長い腰部には、多数の脚。
その先端は鋭くとがっている。
そして、その躯は漆黒。
遠くから見たその姿は堕ちた天使のごとく。
識別名を付けるとしたら。
「偽天使型[ルシファー]…」
かつていた聖翼種の男。
禁忌に手を染め、他の種族にもその名が知れ渡った大罪人。
思わずその名をつけてしまいたくなる程、そのデザイアの放つオーラは禍々しかった。
それの持つ力は強大。
単純な破壊力ではない。
世界に干渉する。
重力を操作し、そして…
数分前。
「この!」
ルビリントたちが新型デザイア、偽天使型[ルシファー]に攻撃を加える。
大型射撃武装を持ったタクティカル・パッケージが地に降り立ち、それらをぶっ放す。
[ζ(ゼータ)]のレールガンや、[Δ(デルタ)]のトライアングルキャノンなど、遠距離武装が次々と使用される。
その他、アーマード・パッケージを纏った“子”らが持つ射撃武装を幾度にもわたって使用する。
多くの攻撃が[ルシファー]の全身に、休む暇もなく、隙間もなく降り注いでいく。
それら一つ一つが、小型デザイアなら一瞬で撃破できる威力は持っている。
だが、
「何で…!」
アメジスタが顔から汗を流しながら、呟く。
「ううん…」
その近くを飛行しながら、エナフィリウムバスターキャノンを撃つルビリントが不安そうな声を漏らす。
今も攻撃を続ける“子”らも同じような様子だ。
その理由は、
「ルビリント様、全く攻撃が…」
“子”の一人が声に焦りをにじませて言う。
そう。先ほどから延々と攻撃を続けているのに、全くダメージが通っている様子がないのだ。
防御力が非常に高いのか。
そうだとしても、周囲からずっとビームなどが飛んできているのに、未だ損害が見られないのはおかしい。
“子”らが使う機体に搭載されている武装の中には、中型以上のデザイアを退けるほどの威力を持つ物もある。
少しは通用してももいいはずなのだが。
「…まだ格闘は試していません。直接剣戟を叩き込めば…」
ARPX-05[ガイアール]を纏うアメジスタの“子”らが接近戦を挑むことの許可を彼女に求める。
まだ、遠距離攻撃を行うのみで物理攻撃を行っていないのだ。
もしかしたら通用するかもしれない。
試す価値はある。
特に射撃武装のようなものは、[ルシファー]には見られない。
長い腕にさえ気を付ければ、接近戦は可能であろう。
「…分かったわ。ルビリント」
「うん?」
「この“子”たちが接近戦を挑むつもりらしいの。射撃が当たらないように“子”たちに注意をお願い」
「…一度止めた方がいいんじゃ?」
「攻撃を止めたら、反撃の可能性があるでしょ?」
「確かに…」
あえて弾幕に隙を作り、そこからこの“子”らを突入させよう。
そう考えるアメジスタ。
あまり人数はいないし、おそらくそれで問題ない。
「じゃ…みんな!」
そうして、自分の“子”らにメッセージを伝えるルビリント。
それに忠実に応える“子”たち。
自分たちの親にあたる始祖の彼女に従うのは、当然のことである。
「よし。それじゃ行って!」
弾幕に穴ができたことを確認し、アメジスタが指示を出す。
それを受け、[ガイアール]を纏う“子”らがそこ、に機体背部のスラスターを全開にして突入する。
「ふっ」
そして、格闘用装備のストライクブレードを振りぬく“子”ら。
それに、機体両肩の大型装甲についているユニットが宙を舞って、合体する。
接続されたユニットから炎が吹き上がって、刀身を包み込み、紅き大剣が完成する。
「フレイアブレード!」
ARPX-05[ガイアール]。
四肢を大型の装甲で包み、肩部と背部には大型のスラスターが搭載されている、格闘用のアーマード・パッケージだ。
腕はアーマーで覆われ、腕を延長。
その先端には強度が高く、汎用性に富んだマニピュレーターが接続されている。
足もまた延長され、跳躍力の高い仕様となっている。
主な武装は、実体剣のストライクブレードである。
それに肩に取り付けられた出力ユニットを合体させることで、デザイアに打撃を与えられる武装、フレイアブレードとなる。
火属性の特殊な術式を付加することで出来上がるのだ。
“子”らはそれを振りかざして[ルシファー]に接近する。
「この!」
そして、彼女等は十分に近づいたところでそれを思い切り振りかぶる。
炎剣の先端が伸び、それが[ルシファー]の表面装甲の迫る。
だが、[ルシファー]はそれには気付かず、一切何もしない。
ただ浮遊するのみだ。
そして、いくつもの剣戟がそれの装甲を襲う。
襲うはずだった。
「?」
“子”らの目が、驚愕で開かれる。
それも当然だ。
伸びたフレイアソードのその先端は、[ルシファー]にある程度近付いたところで突如その動きを止めた。
そして、全く動かなくなる。
そこに固定されたかのように。
「これは…!」
そしてよく見ると、剣の先端に明らかに変なものが存在している。
いろいろを変化させ続ける何か。
まるでポリゴンの様な見た目をしたそれが、それぞれの剣の周囲に波紋のように広がっている。
いったいこれは…
その時。
キュイイイイイイイインンン!!
それまで微動だにしなかった[ルシファー]の頭部バイザーが赤く光る。
そして、そのバイザーが突如として砕け散り、内部のツインアイが再度赤く光り輝く。
同時に。
「はっ!?」
「これは…!」
重力が強化される。
できるはずのない事が行われる。
星の中心地点にある者にしかできないことが。
「くっ!?」
アメジスタが苦しげにうめく。
また、ルビリントも、彼女等の“子”たちも。
強化された重力によって体に猛烈な負荷を受ける。
宙にある者たちは、急な重力の増大によって地に次々と落とされていく。
それを免れた者も、現状の高度を維持するのが精いっぱいだ。
「な…に…?」
これによって地にいる者も行動不能になる。
機体が潰されるのは如何にか回避できているのだが…
現状では武装を上に向けることも叶わなくなってしまっている。
一体この現象は…
「!?」
ルビリントが気付く。
強烈な負荷をその身に受けながら。
次なる脅威を。
それは、
「く…る…!」
それは。
[ルシファー]の長大な腕と複数の脚による全周囲への攻撃だった。
それらは、周りにいる全ての宝玉種に襲い掛かる。
勿論、ルビリントやアメジスタも例外ではない。
「うわわわわわわわ!!!」
悲鳴が上がる。
瞬息の攻撃によって、彼女らは即時に機体が破壊される。
まだ対空出来ていた者たちは勢いよく地に落ちていき、すでにいるものは地に伏す。
この複数の一瞬の攻撃によって。
ルビリントたちは戦力のほぼすべてを失った。
ギュン!
[ルシファー]のツインアイが、彼女等をあざ笑うかのように赤く光る。




