第三章[休みとトラブルの一週間]第十六話
「ぷはっ!」
リジェネの手で水上に引き上げられ、思いっ切り空気を吸う凜華。
結構な時間、水中にいたせいで危うく結と同じように気絶する寸前だったのだ。
人類種より体が丈夫な幻獣種だからどうにかこうにかなった。
「ひ、ひどい目にあった…」
そう言いつつ、結を起こしにかかる凜華。
「結、起きて」
そう言って、彼女は結の頬を力いっぱいつねる。
しかし彼女はなかなか起きない。
「お・き・て」
さらに力を入れて彼女の頬を左右に広げる。
するとそのうち、
「…はふ?は、はふはふはふっは?(え?な、何しているの?)」
目を覚めし、凜華に頬を引っ張られていることに驚く結。
起きた時に急にそんなことをされていたら、そうなるのも当然か。
「よし、起きた」
彼女の頬から手を放して、水に身を預ける凜華。
「ここ、どこ?」
下半身を沈ませながら結が周りを見渡す。
周囲にはいくつも大きな瓦礫が浮かんでおり、三人を取り囲むように存在している。
この空間は球体状になっていて、その四割に水が張られている。
「さぁ?ここの家主さんに聞こ」
肩をすくめて凜華が反応する。
この大きな水たまり?について。
そして、リジェネにここのことについて聞こうとする凜華。
しかし、
「……」
「どうしたの?」
彼女は二人のことなどそっちのけで、天井を見上げていた。
「…壊れてる。天井…苦労したのに」
上を見上げてぶつぶつと呟く彼女。
「あの~」
「……え?ああ、うん」
少し遅れて反応する。
「ここって何なの?」
結が尋ねる。
それに凜華がうんうんと頷く。
「ああ。ここは、この家に振動があまり届かないようにするための術式を、設置しておいた場所よ。ここは地下だから、地震とかで大きな揺れが来たら崩れてしまう危険がある。だからその危険を減らすために、振動を軽減しようと設置したの」
平坦な声で、少し長めな説明を行うリジェネ。
「へぇ」
それを聞いて納得する二人。
「けど…これじゃ…」
再び上を向いてため息を漏らす彼女。
それにつられて結と凜華も上を向く。
その先、かなり高い所には、大穴が開いており、そこから日の光ではなく、人工的な雰囲気の光が顔を覗かしている。
「術式は壊れちゃったんだろうな……」
残念そうにリジェネが呟く。
気にかけていたのはこのことだったのだろうか。
「刻印術式か何か?」
「ううん。天井全体が魔術で作ったもので、そこに重ね掛けしたの」
刻印術式以外にも術式を固定しておく方法は存在する。
それは、所謂重ね掛けであり、魔術で想像した物体に術式を追加することだ。
刻印術式とは違い、任意で術式を発動できるのではなく、常時発動となる。
仕組み自体は同じだが、これは魔術の重ね掛け。
あらゆる術式を乗せられるわけではない。
ようは刻印術式より、用途が狭く、制限が大きく、使いづらいということ。
一応誰でも使うことはできるものではあるが。
「あの広範囲に生成して重ね掛けするの、大変だったのよ…間違いなく上のデザイアのせいね。倒してもらうのを待つんじゃなくて、私が行くべきだったかも」
後悔気味のリジェネ。
しかし、この発言から察するに、彼女はデザイアとの交戦経験があるらしい。
自信あるようなので。
一応二人もあるが。
「やりに行こう。私の家の最重要部を壊してくれたツケを払わす」
そう決心するリジェネ。
家を壊してくれた仕返しをする気のようだ。
一応地上のデザイアが破壊したという保証はなかったのだが、他に原因が考えられないのも事実なので。(実際、デザイアのせいだった)
「結、この人やる気満々だけど」
凜華が結の方を見て言う。
「私たち飛べないし、これじゃ手伝えない…さっきは気絶しちゃってまともにやれなかったから今度はちゃんとしたかったのに」
結はちゃんと手伝いをしたいらしい。
凜華はそれに関しては少しどうでもよくなってきていたが。
「どうしようかな…」
そう言って視線を下の方になんとなく戻す結。
すると、
「あれ、誰か浮かんでる」
先程は気付かなかったが、この陰になっているところに二人ほど浮かんでいる。
片方は背に純白の翼があることから、聖翼種だと判断できる。
もう片方は、これといった特徴は見受けられない。
人類種だろうか。それとも魔人種なのだろうか。
「上から落ち来たのかな?」
「どうしたの?」
凜華が結に尋ねる。
「いやあそこに…」
結が凜華に浮かんでいる二人について説明しようとする。
その時、
「あれは…」
リジェネがあるものに気付いて呟く。
それに反応し、二人がもう一度上を見る。
そして、その先の天井の穴から何かが現れる。
「もしかして、デザイア!?」
三人の内誰かが警戒しながら言う。




