第三章[休みとトラブルの一週間]第七話
「デザイアの大陸侵入を許したじゃと!?」
アメヴィスが叫ぶ。
他の者も驚愕で目を見開くなり、口をあんぐり開けるなどする。
長く続いた円卓会議が終わりを迎えようとした時、衝撃的な報告がなされた。
デザイアが海岸基地を戦わずして抜け、大陸内部に侵入したとのことだ。
どうやら厄介なことになってきたようだ。
「はい。何体か、新たなデザイアが大陸内で行動しているのが確認されています。これらは、隠密行動を得意とし、その姿はとらえることがあらゆる手段を尽くしても不可能とのことです」
ククルカンが報告書の内容をもとに、真剣な顔つきで言う。
ようやく話が纏まった矢先にこれだ。
「あれから、二日でもう…」
水妖種の女性が、深刻な顔をして呟く。
新たな四種のデザイア出現。
それからたったこれだけの期間で、あちら側が次の手を打ってくるとは。
正面突破が無理なら、それ以外で。という事か。
「さらに、海上のデザイアにも動きがあるようです。レヴァナントが、自身の海上拠点を大型化。そこに、またしても新たなデザイアが搭載されていくのが確認されています。見れたのは大陸近海の物のみです。奥の方はどうなっているか分かりません。ですのでイア、視ていただけませんか」
詳細確認のため、イアにお願いするククルカン。
「分かった」
頷き、今回の会議二度目の“視”を行うイア。
彼女が能力解放の祝詞を紡ぎ、魔力が彼女のもとに集まっていく。
そして、前回と同じように彼女の眼の色が変化し、水晶玉が光り輝いてその光が部屋を包み込む。
「……」
数秒後、すぐに光は消え、イアの目の色の変化も収まる。
“視”終わったようだ。
「っつ…」
突如、イアが床に膝をつき、右手の本を取り落とす。
それに続き、彼女は苦しげな表情で片目を抑える。
「どうしたの?」
ルビリントが彼女を案じて立ち上がり、声をかける。
他の者たちはイアの方を向く。
急にどうしたのだろうか。
「く、この。静まれ…」
イアがぶつぶつと呟く。
彼女の取り落とした本のページが、風もないのにひとりでに捲れていく。
彼女は視た限り、あまり大丈夫そうではない。
床にうずくまって、震えている。
「大丈夫ですか?」
彼女に容体を聞くククルカン。
「ヒール!」
治癒の魔術を行使するアメヴィス。
「く…ふぅ」
震えが止まり、落ち着くイア。
本の方もページは捲れなくなっている。
「ましになったか?」
「…何とか」
そう言って立ち上がり、目から手を放すイア。
少し顔をしかめた後、深呼吸してから話始める彼女。
「“視え”なかった。前は見れた場所が、今はもう見えない。何でどんどん見れる範囲も、記録できることもなくなっていく…刻星種の私の力を、阻害する力が拡大している」
「そんな…こんな時に…」
前はできたことができなくなっていく。
自分は星の管理者の一角なのに……
そう思うイア。
「でもそれは、デザイアが勢力拡大を行っている証拠。奴らが完全占拠し、拠点化した場所は見えなくなっていくんでしょ?今まではただ兵を置いておくだけで、ちゃんと拠点化はしていなかった。だから“視れた”そう思うんだけど」
そう考え、その考えを表明する聖翼種の女性。
「確かにな。そうともとらえられる」
甲蟲種の男がそれに同意する。
「まぁ、そうだけど」
否定しないイア。
彼女も同じことを考えたのだろう。
「もしその考え通りなら、やはり奴らは本気で再侵攻を行うつもりだ。もう大陸に引きこもり続けることはできない。こちらも打って出るべきだろう」
幻獣種の男が意見を出す。
「まぁ、遅かれ早かれ仕掛けるつもりだったしな。やってやろうぜ」
バハムートが、幻獣種の男の意見に、肯定的な姿勢を見せる。
「一応、反攻のための準備は二年前から進められていましたが。“あれら”を起動させる時が来たという事ですか」
ククルカンが、制海権奪還のためにひそかに建造されてきた兵器軍の事を言う。
「“あれら”はまだ、調整中じゃ。こちらから出るとしても、大陸内に侵入したデザイアの掃討、隊員への通達。海上戦仕様への機体の改装、“あれら”の調整のもろもろで、おそらく六日はかかるぞ」
アメヴィスが反攻作戦の準備にかかるであろう時間を分析し、会議の面々に提示する。
海上の敵はいつ出てくるか分からない。
すぐには来ないとしても、六日もあれば…
「決断するしかなさそうですね」
ククルカンが真剣な顔つきで皆に言う。
このまま大陸の防衛ばかりしていても、事態は好転しない。
あちらの戦力は未知数。
後手に回るのは得策ではないだろう。
それに、このヴァルキュリアスの目的はデザイアを駆逐し、占領された四大陸を解放することだ。
デザイアの横暴を許すわけにはいかない。
この機会に一気に攻め、まずは制海権から取り戻さなくては。
「侵入したデザイアの殲滅、艦艇の調整の終了次第、反攻作戦を行います。アメヴィス、隊員に通達をお願い。他は、侵入したデザイアの殲滅のために動いてくれるかしら?」
「ああ」
「いいぜ」
「はい…」
「いいよ」
何人かは声で、他は頷いてククルカンの言葉に従う。
これから数日の間に反攻作戦が開始される。
このために建造した大型艦艇、開発された装備群が、ついに日の目を見ることとなる。




