第三章[休みとトラブルの一週間]第三話
「ふあぁ」
大あくびをする凜華。
かなり疲れがたまっている。早く帰って寝たい。
そう思いながら通りを進む。
顔の後ろを飛ぶ、エリュシュオン兼ミューティ。
彼女らを見ながら、家に向かう。
「ただいま~」
玄関のドアを開け、中に入る凜華。
後の二人で一人も入る。
「あれ、留守?」
特に反応がない。
買い物か何かでいないのだろうか。
しかし、木製の廊下の照明はついている。
消し忘れたのだろうか。
そう思って廊下を進んでいくと、
「あれ、いるの?」
リビングの方から声が聞こえてくる。
「何か怒鳴っているような声が……」
もめているのか、怒鳴り声が聞こえてくる。
気になってリビングの方に向かう。
「どうしたの?」
扉を開け、中を覗き込む凜華。
「あ、凜華!いつの間に…!?」
「おう、お帰り…って今はそれどころではないわ!」
リビングには両親がいたが、二人とも何故か幻獣化していた。
その状態で二人はにらみ合っている。
「え、何で幻獣化してるの…?」
謎の状況に混乱する凜華。
普通は、家の中で幻獣化などしないのだが。
「っていうかもめてるの?」
途轍もなく場の雰囲気が悪い。
「何でなの?」
凜華の顔横に滞空するエリュシュオンが尋ねる。
「決まっている。これだ!」
「そうよ!」
二人が指さしたのは、机の上に置かれた一皿のパイ。
これをどちらが食べるかでもめているらしい。
「いや、じゃんけんか何かで決めたら……」
「何を言っている!そんなもので決められてたまるか!」
「あら、負けるのが怖いの?あなた」
「何だと!?」
二人の間に火花が散る。
本物の。
二人の意識が魔力に影響を与えて、この現象が起きているのだ。
「これは、しばらく収まらなそうですね」
ミューティが呟く。
彼女の言う通り、これは長くかかりそうだ。
ひとまず放っておいた方がいい。
凜華の両親は普段は仲がいいが、一度もめ始めるとなかなか仲直りしない。
収めようとしても無駄。むしろ逆効果だ。
「じゃぁ、兄さんにあってこよ」
諦めてリビングを出る。
洗面所で向かい、手を洗う。
それから、二階への階段を上がる。
「兄さ~ん」
扉をたたき、自身の兄を呼ぶ凜華。
「うん?何だ…」
そんな声とともに扉が開かれ、兄が出てくる。
「おお、凜華か。お帰り」
「ただいま」
兄に返事をする凜華。
「ただいまです」
「ただいまね!」
ミューティとエリュシュオンもそれに続く。
それから、少し話をする凜華達。
「ふあぁ…あ」
喋っているうちに眠気が凜華を襲う。
「何だ眠いのか。寝てきたらどうだ?結構ハードな任務だったらしいし」
「そうする。じゃぁおやすみ。二人の事は預けるから」
「ああ。ちょっといじりたい所もあったし」
そう返事をして、エリュシュオンとミューティを引き取る凜華の兄。
凜華は部屋から離れ、隣の自分の部屋に入っていった。
それを見送った後、
「あの、いじりたいって?」
ミューティが質問する。
「ちと改造を、な」
ウィンクして答える兄。
「エリ、そんなの要らないよ…?」
エリュシュオンが首を震わせる。
「いや、俺がしたいんだよ。しばらくやることなくて、暇だったんでな。これで…」
兄がにやつく。
「さ~て、やりましょうか…」
兄の目が赤く光り、その手をいやらしく動かしてくる。
…これはスイッチが入っちゃってますね。まずいことにならないうちに……
そう思ってエリュシュオンの背部ユニットへの憑依を解除するミューティ。
「あ、逃げる気!?」
エリュシュオンがそれに気づいて、声を荒げる。
「このままでは、ああなっちゃいますし。ひどい扱いは嫌です」
そう言って、近くの花瓶に適当に憑依するミューティ。
「ちょ、エリもあれは嫌だよ!全身を、その…い、いじくり…まわさ…れる…のは…」
声がだんだん小さくなる。
「ささ、こっちにおいで~」
兄がエリュシュオンの小さな体をつかむ。
「あ、ちょっと…!」
抵抗するエリュシュオン。
しかし、抵抗むなしく部屋の中に引っ張り込まれる。
「助けてよ~!!」
バタンッ!!
扉が閉められる。
中から変な声が聞こえる。
あ、そこは!!とか、や、やめなど。
「ふぅ。私はもう二度とあれはごめんですよ」
ミューティは安堵する。
凜華の兄、煌慈は昔から、家の中にいるのを好んでいた。
どんなに暇であったとしても、外に出ることはしない。
外で動き回ることを好む幻獣種の中では、珍しい性格をしているのだ。
そんな彼の趣味は、玩具の改造。
エリュシュオンを買ってきたのも、改造して自分好みに仕立て上げたかったからだという。
しかし、一度簡易的に体をいじって以降、エリュシュオン当人が本格的な改造を、断固拒否。
それから、とあることで機能停止。その状態でいじるのは悪いと、煌慈は改造しなかった。
ミューティが代わりに宿ってから、劣化した体の修復を行ったこともあったが、何故かミューティもいじられるのを嫌がるようになった。
なぜそうなったのか、煌慈にはよくわからなかった。
その後、エリュシュオンが意識を回復したものの、いろいろあっていじる機会がなかった。
「どうか無事で」
花瓶に憑依したまま、祈りをささげるミューティ。
「あ、そこは…ひゃん!」
「我慢、我慢。いや~、久しぶりに改造ができてうれしいな~」
扉の奥からそんな声が聞こえる。




