第三章[休みとトラブルの一週間]第一話
「この箱の中身、いったい何が入って……」
一人の聖翼種の少女が呟く。
自身の姉に頼まれ、家に荷物を運んでいる途中だ。
中身はかなり重要なものらしい。
箱の大きさに対し、中身は随分と軽い。
箱には厳重な封印、っぽい雰囲気の装飾がされている。
何処かふざけているような感じがして、真剣味にかける。
真剣そうに渡されたはしたが。
兎に角、大好きな姉の頼みなのでちゃんと持っていかなければ。
そう思い、翼をはばたかせ、家に向かう。
「よっと」
すたっ!という音とともに、家の玄関前に降り立つ。
塔型の家の。
後は家に入り、上層の姉の部屋にこれを置けばいい。
「ただいま~」
玄関の古風な扉を開け、家に入る。
といっても家族は姉だけなので、彼女がいない今、誰もいないが。
「さてと」
靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。
狭いリビングを通り過ぎ、奥の螺旋階段を上る。
「今頃何してるのかな」
そんなことを呟きながら、螺旋階段を登り切り、姉の部屋のドアを開ける。
「これを置けば完了っと…うわっ!?」
部屋に入ろうとしたところ、何かにつまずく。
狭い場所なので、翼を動かして体勢を立て直すこともできない。そのまま、
「うわぁぁ!!」
床に転がる。
その拍子に箱が手を離れ、床に落ちる。
「あ!」
落ちた衝撃で、箱の蓋が取れ、中身が箱の外に出る。
「これは……」
出てきた物を見て呟く。
光り輝く青いデバイス。
一見、アーマード・パッケージの展開デバイスのようにも見えるが、あれは光り輝いてなどいない。
それに、これはぱっと見、かなり古そうなだ。
こんな骨董品、何に使うのだろうか。
「あ、傷とか付いてないかな…」
落としたのだから、傷がついたかもしれない。
だいぶ古いし、壊してしまっていたら姉にどう説明しよう。
だからあってほしくはないが……
そう思い、そのデバイスに触れて確かめようとする。
そして、そのデバイスに触れたとき、
「え…」
光があふれ出る。
それは彼女を包み込み、その姿を変化させる。
「これは…何か」
光が収まった時、
「ふふ」
そこにいた聖翼種の少女はいわゆる変身というものを遂げていた。
「何か、誰か助けに行きたいな…」
彼女はそう言って自分の部屋に向かい、自身のパッケージのデバイスをとる。
「あはっ☆」
鏡の前に行き、テンション高めに笑顔を作る彼女。
「じゃ、行こうっと~」
すぐに鏡から離れ、窓を開ける。
そして、背中の翼を広げて外に飛び立つ。
「プリズムハート、いっくよ~!」
「疲れた……」
「ほんとに」
中央都市[プラネシア]のとあるラーメン屋のカウンター席に突っ伏する、結と凜華の二人。
「初任務にしてはハードすぎ」
「それね」
愚痴る二人。
新型のデザイアを、機巧種たちや海岸線の基地の人々の協力で倒した[神姫の双翼]。
しかし、それはもともと予定外の事で、本来は遺跡の物資の運送が任務。
デザイアが襲来したことで、戦闘に参加せざる負えなくなり、相当体力を消耗してしまった。
そこから休む間もなく、物資の運送。
何を隠そう、遺跡は大陸の端。
つまり、遺跡から[プラネシア]まで自力で帰ってくるということになった。
行きは基地で転移門が使えたため、そこまで苦労すことはなかったが、あれは一方通行。
つまり帰りはどうしようもない。
あれは[プラネシア]にしかないし、転移術式が使える高位の魔術師も彼女らの隊にはいないのだ。
おまけに物資を抱えた状態で移動。
パッケージを使用してはいたが、それでも一日かかった。
その負担は尋常なものではない。
まぁ、一番負担が大きかったのは、竜化してとはいえ、巨大かつ重い物資を大量に持たされたヴィーヴィルだったが。
ちなみに機巧種たちについては、基地の者たちが如何にかしてくれた。
具体的な話は聞いていないが。
あの情緒不安定リーダーの率いる軍団、いったいどのように始末をつけたのだろうか。
けど、そんなこと今はどうでもよくて。
「これからどうする~…」
「今日は休もうよ~…」
ただただ、疲れたのだ。
一応、相当な重労働だったので、休暇が一週間もらえた。
多いようにも思えるが、デザイアとの初戦闘、物資の長距離運送。
この二つを連続してやったのだ。それぐらい許されてもいいだろう。
デザイアが再び動き出したようだが、侵攻速度は速くなく、攻めてくる数も今は少ない。
現地の者らで対処できるレベルではあるとのことなので、今はこうしている。
他の四人も好きにしているだろう。
「エリュシュオン。そろそろ憑依させてくれません?」
「いやだよ、またエリの意識眠っちゃうじゃん。そんなに出て来る機会ないんだし、そう簡単には憑依させないよ」
「う~ん。それだと私、体がないままなんですが…」
「適当なものにくっついとけばいいじゃん」
結と凜華の頭上で揉めている光球と聖閃姫。
光球の方がいつもミューティと呼ばれている精霊種。
もう片方は、彼女が普段憑依しているフィギュア。
「もうちょっと静かにしてよ…」
「ここ店の中だし…」
文句を言う結と凜華。
「あんたら、注文は決まったのかい」
渋い声で甲蟲種の店主が聞いてくる。
「じゃあ、このフレアピッグの豚骨ラーメン」
「私は、このマンドラゴララーメン」
「はいよ」
注文を済ませる二人。
上の二名に関しては食べない、と言うか食事は必要ない。
精霊種は魔力さえ、あれば問題ないし、聖閃姫は生き物ですらない。
「ここらで説明しとく…?」
「そうだね…」
上の二名、彼女らに関して。
ミューティは普段、聖閃姫というフィギュアの憑依している。
しかしこの聖閃姫、実は自我がある。
もともと彼女らは十年ほど前から生産されていた、ホムンクルスの錬成技術を利用した細かい作業補助のための存在、舞姫。
時期に娯楽にも使われるようになり、互いを戦わせ、それを見て楽しむという用途が生まれてから、いつしか聖閃姫とも呼ばれるようになった。
ちなみに魔術を少し扱えるようになっている。
凜華の家には、その呼び方が広まってから彼女の兄によって購入され、やってきた。
その後いろいろあって機能停止に陥り、大事に保管されていたところ、凜華が、体を得られず彷徨っていたミューティを見つけてきて、その素体に憑依させたのが始まり。
長きにわたり、聖閃姫本体、エリュシュオンの意思が覚醒することはなかったが、デザイア襲来から一年後のある日、ミューティがその体から離れたときに突如目覚めた。
現在は、普段はミューティが憑依時はエリュシュオンは眠り、ミューティがパッケージに憑依している時エリュシュオンが覚醒する、という方式だ。
しかし、いかんせんミューティが憑依する時間帯が長く、エリュシュオンはあまり出れていない。そのため、彼女は不満を抱えており、それが今の憑依の拒否につながっている。
ちなみにミューティが凜華の事をマスターと呼ぶのは、以前からエリュシュオンがそう呼んでいるからで、憑依している関係上少し性格が混ざっている。
「へい、お待ち」
店主が出来上がった二つのラーメンを置いてくれる。
「さて、食べよっか、凜華」
「そうだね、説明疲れたし。これ食べて体力回復しないと」
消耗してる二人は、こういうものが食べたかったのだ。
ひとまず、相変わらずもめている二名は置いておき、麺を口に運ぶ。




