第二章[人機再起動]第三話
「ん?」
海岸線の基地の警備を行う隊員の一人が呟く。
「どうした?」
他の隊員が話しかける。
「いや、何かこう……空気の流れが変わったというか……」
「はっきりしないわね」
「何か感じたんだけどな」
言い出した隊員は腕を組んで考え込む。
気のせいだったのだろうか。
「こちら異常なしだ。まぁ、いつも通りだな」
近くに立つ監視塔から声が聞こえてくる。
魔術によって拡張されているためよく聞こえる。
やはり気のせいか。
そう思って仕事に戻る。
ここ二年間、デザイアの襲撃はなかった。
一応、奴らが攻めてきたときには最前線となる基地ではあるのだが、全く敵は来ない。
そのせいで暇を持て余しており、緊張感も薄れていた。
何かを感じ取った時、それを気のせいと流してしまう程度には。
ピピッ!
監視塔の隊員の前の機器が、音を鳴らす。
「探知結界に反応?また鳥か何かか?」
そう言って、無視しようとしたが、
ビーーッ!
より一層甲高い音が鳴る。
「まさか……いやでも」
念のために基地の司令官に報告しておく。
「あ、司令。報告することが……」
「念のためねぇ」
基地の第二格納庫で、偵察のため、一機のタクティカル・パッケージの発進準備が進められる。
そのパイロットの魔人種の女性がため息をつく。
彼女は自室で本を読んでいたのだが、このために呼び出されてしまったのである。
それ故、面倒くさそうに頭を掻き、不機嫌な表情である。
「とっとと終わらせてきますか」
そう言いい、機体を起動させる彼女。
頭部のツインアイに光がともる。
7m程度の高さの機体が動き出す。
整備の者たちが機体の足元から離れる。
それを確認してから機体を歩かせ、格納庫の外側にあるカタパルトデッキに出る。
「よし、感度良好。異常なし」
機体の腰が曲がり、発進体制をとる。
「カヅラ、TCPA-03[Σ(シグマ)]出ます!」
魔術の力によって、背部スラスターからエネルギーが放出される。
それを一点に収束させて推進力とし、機体を発進させる。
金属で形作られたその躯が宙へ躍り出る。
「変形」
数秒置き、ある程度の高度まで上がったとこで彼女はコクピット内でコンソールを操作。
機体の変形機構を起動する。
脚の上半分が割れて下部が中に入り、肩が前に。頭が後ろに90度回転し、装甲の下に格納される。
これらの一連の動作が一瞬のうちに完了。巡行形態に移行する。
ロストアームズから得た技術で作られた、魔装七式フレームを使っているが故に可能な芸当だ。
ちなみに魔装フレームは五式以降が正式に使われている。
四式までは問題点が数多くあった試作型。試行錯誤して生み出された五式がTCPA-02[β]に正式採用されている。といっても機種がすでに旧型で最早五式は使われていない。
六式はARPX04-[ζ]以降。
この機種に型式番号が若いにもかかわらず七式が使われている理由だが、元は六式で作られていたこの機種であるものの、稼働データをとったところ、変形を繰り返すとすぐフレームが劣化することが判明したため、フレームを変形専用に特化改造。その後七式と命名された。だからこの機種には七式(六式特化改造型)が使用されている。
「さて、ささっとやっちゃいましょ」
ARPX-03[Σ]が海上を飛翔する。
目的は当然索敵。
しかし、特に何も発見できないまま時が過ぎていく。
「いない、か。まぁ、それに越したことはないけど……」
カヅラは辺りをもう少し探索したがいいだろうと考える。その後基地に帰投することと決める。
そして数分後。
突如としてそれは来た。
「!?センサーに反応!敵?」
唐突の接近反応に慌てる彼女。即座にモニターを注視。
だが何も見つけられない。
「誤認!?」
その時。
「うわっ!」
死角からの攻撃が来る。機体下部に直撃。
「ああああああ!?」
損傷した機体が激しく揺れ、損傷部の装甲版が剥がれ落ちる。
内部機構は幸い無事。だがくしくも弱点を作ることとなってしまう。
コクピット内で揺られながらも決してモニターから目を離さないカヅラ。
そして。
「あれか!」
彼女は海上すれすれを飛行する物体を発見する。
距離があるために正確な形は把握できない。
「っ!変形!」
彼女は機体を人型の戦闘形態に移行させ、装備を展開する。
損傷個所は胸部下。
左腕を当て、被弾を防ぐ。
右手にはシンプルなデザインのライフル型の小型魔力反応砲。
「魔力は十分。よし、発射!」
[Σ]がライフルを発射。
二色のエネルギーの奔流が対象を即座に打ち抜く。
つら向いた場所は物体の中心。紛れもない直撃。
間を置かず、すぐにそれは爆散する。
「ふぅ、よかった」
カヅラが額の汗を拭う。
襲ってきた存在の撃退に成功。
一度脅威は去った。
緊張が解け、息を吐く彼女。
安心しきっていたその時。
「ふ……え?」
突如コクピット内に影が落ちる。
原因は彼女の機体の眼前に現れた白き存在。
「デザイア!?」
それは人型をしており、全体が真っ白で、四肢は細くそれでいて頭は異様に大きく、背中に翼上の物を背負っていた。
新型デザイアである。
「くっ!?」
[Σ]が即座に距離をとる。
右腕のライフルがデザイアに向けられる。
刹那。
デザイアの姿が掻き消える。
「は!?」
次の瞬間、デザイアが[Σ]の背後に現れ、その両腕についたかぎ爪が機体の背部に叩き込まれる。
その一発は機体のバランスを崩す強力な一撃だ。
次いでデザイアは飛翔し、背中の翼を可動させてカヅラの方に向ける。
「やばっ!」
その翼の先端に光が収束し、ビームが放たれる。
彼女は機体左側のスラスターを動かし、その攻撃の回避を試みる。
しかし。
「ぐうううう!」
攻撃は避けきれず、機体の左腕とスラスターが破壊される。
次いで蹴りが機体を襲う。
「う……!?」
衝撃を受け、損傷が増す機体。
翻弄され続けるARPX-03[Σ]。
「こ……の」
抵抗は叶わず、機体は一方的に攻撃を受け続ける。
ブゥゥン
デザイアの赤い一つ目が光る。
次なるその行動は。
「はぁはぁ……は!?」
その見た目からは信じられない威力を誇る蹴りだった。
直撃が、機関部であるマナブーストジェネレーターを機能停止させる。
「がっ!?」
次いで機体は飛行能力を失い、落下。海中に没する。
それを確認するが早いか、新型デザイアは即座に変形。その海域を飛び去った。
「た、助かった?」
安心して胸をなでおろしたのもつかの間。
「あのデザイア、基地のある方向に飛んだ行った。てことは……!」
重大な事実に彼女は気付く。
新たな敵が迫っている。
「……それは大事だけどその前に……」
落ちた機体はただ。
「脱出しないと……死ぬ!」
沈み続ける。
デザイアは高速で海上を飛行する。
そして海岸上の基地に接近する。
「は、早い!迎撃、間に合いません!」
だがそれは基地のことなどどうでもいいかのように、上空を高速で過ぎ去った。
いや、そうではなかったのかもしれない。
通り過ぎる瞬間、背部の翼からビームを一発基地の格納庫に撃って行ったことがその理由。
追いきれないほどの速度でそれは飛び、空を駆け抜ける。
何かを狙い。一直線に。




