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赤目のカラス  作者: 胡蝶
眷属集合編
1/4

尖塔に誘われて 1

 ――ナファドーラ。かつて、彼の地を覆った暗黒神を滅ぼし、人々に光と平穏をもたらした「神」たる存在。天空より舞い降りし「神」を、人々は漆黒の翼と赤眼になぞらえ、こう呼んだ。「赤目(あかめ)のカラス」と。


「よく来たね。久しぶりの来客だから、私も浮かれているんだよ。ん?さっきの本かい?……そうだね。では、少し昔話をしようか。遠い遠い昔に存在した、神に選ばれ、神に挑んだ、とある英雄達の物語(はなし)を……。」




 ***





 城塞都市シルド。元は、異民族の侵入を防ぐために築かれた砦だったというが、今では、周囲を囲む城壁以外にそれを感じさせるものは無い。質素な生活を送る人々の間には、倦怠した空気が漂っていた。

 

「あそこにあった商品、何処へやった?」

「知らねぇよ。自分の不手際だろ?」

「いーや。さっきまであったんだ。それが、目を離した一瞬の隙に失くなったときた。お前以外に誰がいる?」


 店先で揉めている店主と客。店主の方は客が商品を盗ったと考えているようで、先程から、怒りの形相だ。


「我ながら、なかなかの手際だったな。」


 揉める2人を横目に、悠々と歩き去る者がある。男の名は、べリタス=アルバード。――盗賊であった。



 彼の仕事は、受けた依頼を遂行し、報酬を手に入れるというもの。しかし、単なる便利屋とは違い、依頼の内容は後暗いものが多かった。


 彼は望んで盗賊になったわけではない。もとより、真っ当に生きたいと考えていた訳でもないが、後暗い依頼で生計を立てようなどとは思ってもいなかった。別段、住む場所が無いだとか、貧しくて盗まなければ生きていけないだとか、そういう危機的状況にあるわけではない。そういう点では、望んで盗賊になったと言っても良いのかもしれないが。




 言わずもがな、彼が盗賊となったのには、それ相応の理由(わけ)がある。望む望まぬはさておき、この仕事はべリタスに向いていた。



 ***



「まったく……あの人にも困ったものだわ。あんな子預けてどういうつもりかしら。」


 苛立ちの混ざった溜息と共に、女がこぼす。


「まったくだ。俺たちしか身内がいないからって……。」


 苦々しい顔を隠そうともせず、男が答えた。


「こちらの身にもなってみてよ。どうして何年も前に出ていったくせにいきなり頼るのよ!」

「あいつもそうだが、あの息子もだ。しょっちゅうほっつき歩いて、一体何をやってるんだ?」


 帰宅後、階下から聞こえる声に、べリタスは溜息を漏らす。


  (いつものことだ)


 この夫婦と暮らし始めて随分と経つ。しかし、街にも家にも、一向に馴染むことはできず、時が経てば経つほど、自分はよそ者であるという感覚が強くなるばかりだった。ここでの生き辛さは、彼が盗賊として生きる理由の一旦にもなっている。


 そもそも、べリタスはシルドの出身ではない。義父(ちち)と共に、()で暮らしていたのだ。それが、義父が亡くなったことで、この家に引き取られることになったのである。あの夫婦の言う、「あいつ」というのはべリタスの義父のことであり、あの息子とは、言わずもがなべリタスのことであった。


 あくまであの夫婦は、べリタスの義父(ちち)と縁がある故に、彼を引き取らざるを得なかっただけであり、決して望んで引き取ったわけではなかった。こちらとて、好きで一緒に暮らしているわけではないのだが。ただ、彼等と暮らすことは、義父の望みであった。故にここにいる。しかし――


 思考を振り払うように、寝台に身を投げ出した。(ボタン)を外し、上の服を脱ぎ捨てる。傷が妙に疼いた。


 べリタスには生まれたときから、真一文字の傷がある。位置は、心臓の真上。どのようにしてできたのかは知らないが、この傷は「俺が俺である証」なのだと義父は言った。


 そっと傷に触れると、指先に鼓動が伝わってくる。


「っ……」


 時折、この傷の下にある()()が動くことがあった。その()()というのが、何であるかは、自分でも分からない。心臓でない事だけは確かだ。ここ最近は、その()()が特に活発に動いている気がする。その(たび)に心がざわつき、落ち着かない。


(慌てるのは性に合わないな)


 きっと、気が逸っているだけだ。明日は、()()に出掛けるのだから。

 心のざわつきから逃れようと目を閉じる。目の前に広がる闇に誘われるようにして、深い眠りへと落ちていった。










 ―――暗い。何処だか分からぬ場所に、一人、座り込んでいた。周囲は闇に包まれ、目の前には、底も見えぬほどの深い泉がある。泉は朧げな光を放ち、水面にとある光景を映し出した。


 浮遊する5つの小さな炎。揺蕩(たゆた)うそれらは、やがて一点に向かって集まりだした。小さな炎が寄り集まり、灯りは一層大きくなる。消えることを知らぬかのように燃え盛り、炎は、その光景を映し出す水面を、すべて(あか)に染めた―――































冒険ファンタジーです。そうなります。

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