ショートコメディ『上空くん』
どうも好きになれないあいつの名前は上空くん。物言いが上からなのだ。死ねって思う。もう何千回死ねと願っただろうか。口には出さない。だって、私は、人が傷つくのを許容できない聖人なのだ。慈愛に生きる平成生まれの乙女、それが私だ。
みんなの幸せを願って、みんなの死を願う。
そんな毎日だ。こんなどうしようもないクズが学校に通っていることなど、みんなは知らないのだろう。呑気なことだ。特に上空くん。彼には、死ねを何度言っても足りることはなかった。私は、毎日、彼が死ぬことを切望していた。
結局、死ななかった。残念だ。
ある時、私はそこら辺にあった足を「死ねえ!」と思いっきり踏みつけた。あ、こんなところに足がある。踏もう、という流れだ。そこに足があれば踏む。それは人として当たり前の行動だ。
「イタッ」
「……」
よし。
「は? なんで、ごめんも言えないの。今まで、学校でなにを教わってきたの?」
死ね。
「もしかして、自分は悪くないとでも思ってるの? あー、いるよねそういう馬鹿。何様なんだよ。そんなこともわかんないのかよ」
死ね。
「おい。なんか言えよ。耳も聞こえなくなったか。頭おかしいんじゃねーのか」
「死ね」
つい口に出してしまった。聖女の顔は三度まで。私は、上空くんに死ねと言った。彼は、まだ死なない。なぜだ。なぜ、死なない。私が死ねと言ったのに!
……なんだか、私がクズ過ぎて、彼よりも悪いのが私みたいになっていないか? 大丈夫だよな。よし、今日のところはこれくらいにしておいてやる。
覚えてろよ!
と、まるで、チンピラのようにこの場から立ち去ったことなど、記述する必要はない。チンピラ……。まさにクズな私に、ぴったりの響きじゃないか。
次の日になって、彼は大きなあくびをした。朝から眠そうだ。そんな彼の話し相手になってやらなばな! 私は、彼のところに向かった。
「ここで会ったが百年目! その命、貰い受ける!」
「はーあ」
上空くんは、窓の外を見ていた。空でも見ているののだろうか。上の空だが。
「〇〇さん。今日も楽しそうでいいね」
「なにを!?」
どうした。こいつ。いつもの上から目線がない。上からの物言いが気に食わなくて、いつも死んでほしいと願っていたのに、これじゃあ、いつものができないじゃあないか。根暗な私が、陰で、上空くんの悪口を吹聴することができなくなるじゃないか! これは死活問題だ。
上空くんが死活しない問題が生じる。
これはまずい。私の今の生き甲斐は、彼のことを全校生徒に悪く吹聴することなのに! くそ、クズの真骨頂これに極まりだったのに。それが、達成できない、だと。最悪だ。死ね!
「〇〇さん? どうして、そんな悲しそうな顔をするの?」
「そんな可愛い顔してないよ!」
「会話にならねえ……」
「そんなことより、上空くん、今日はなんで上からじゃないの?」
「なんだそりゃ。上からって?」
「上空くん」
お前のことだよ。